14本目「復活! 古代の戦士!!(後編)」
「
援助交際、略して援交。隠語は円光。今で言うならパパ活。ぶっちゃけ違法売春。
コギャルとエンコー……この世にこれほど相性の良いものがあるだろうか!? (※偏見)
…………って、今はそんなアホなこと考えてる場合じゃない!
「エンコウとは
どうせそんなことだろうと思ったよ、チクショーめが!
姿を隠して不意を突く一族、しかも槍よりもリーチのある遠距離攻撃……前回の二人組とは比べ物にならないくらいの強敵なのには違いない。
「そうだ! 本多先輩、この槍を使えば……!」
ヤマンバの投げて来た槍……当然、これは投げた先に残る。
これなら本多先輩も使えるんじゃないだろうか。
「――
しかし、本多先輩が僕の言葉に返すよりも前に、姫先輩がこちらを見ずに静かに――だが確かな『拒絶』の意思を込めた言葉を紡ぐ。
「このランパ、わたくしが受けたものです。故に、わたくしに全てお任せください。
――絶対に、貴方も、本多さんも傷つけさせません」
「……姫先輩……!」
――下心ではなく、本心から姫先輩にきゅんときた。
いやまぁ『あなたを守る』って、言われる立場逆じゃないかって気もしないでもないけど……。
姫先輩がそう言うだろうことを予めわかっていたのか、本多先輩は驚きも動揺もなくどっしりと腕組みをして不動の構えだ。
「意気や良し。姫、存分に揮うが良い!」
「はい♪」
……それはそれとして、本多先輩は前回に引き続き足手まといになってることを反省していただきたいのだが。
当然、同じく足手まといになっている僕に突っ込む資格はないのはわかっているけども……。
ヤマンバは姿を現さない。
本当に闇に溶け込んでいるのか……?
既に槍はこちらに投げ込まれているし、もう相手に槍はないのでは……? と思いたいところだが、全然油断ならない状況だというのは姫先輩の構えが解かれていないことからわかる。
「ヤリの気配はまだある、が……これは……」
本多先輩は手出しはしないようだが、それでも何もしていないわけではない。
僕には全然わからないけど『ヤリの気配』とやらを探っているのだろう。
けど、ヤマンバがどこに潜んでいるのか、掴み損ねているみたいだ。
そしてそれは姫先輩も同様らしく、自分から攻めていくことが出来ずに構えてひたすら待つことしか出来ていない。
こちらの精神を削る『持久戦』を狙っている……のか?
「――来ます」
が、僕が持久戦を覚悟した時、姫先輩の凛とした声が響く。
「そこです!」
キンッ
再び投げ込まれた槍を姫先輩が弾き返す。
――狙われたのは姫先輩ではなく、
「むう、卑劣な……!」
「そう思うならやっぱり手伝った方が良いのでは!?」
槍を持たず、この場から離れることもできない僕たちを狙った攻撃を仕掛けてくるとは、確かに卑劣だ。
姫先輩が強いとは言っても、足手まとい二人を庇いつつ闇に紛れたヤマンバをどうにか倒すなんていくらなんでも難しいと言わざるを得ないだろう。
「いえ、
「え……?」
にっこりと姫先輩は微笑むと、撃ち落としたヤマンバの投げ槍を手に取る。
右手に投げ槍、左手に自分の槍を手に――構えを解くとそのまま目を閉じてしまう。
諦めた――わけがない。
色々と不安はあるけど……僕は口を出すことはしなかった。
姫先輩を……
「――」
数秒後、姫先輩が動いた。
再びどこからかヤマンバの槍が投げつけられるが、それを左手の槍で弾くと同時に右手の槍を投げつける。
「……はぁっ!? ぎゃっ!?」
すると、少し離れた位置から驚きの声と悲鳴が上がる。
ヤマンバにカウンターで命中させたのだ!
……凄すぎる……!
ともかく、姫先輩のカウンターによって迎撃されたヤマンバの姿が露わになった。
ヤツは裸……ではなく、布面積の極端に少ない、黒色のビキニを身に纏っていた。本多先輩の言う通り日焼けした肌と黒ビキニを保護色のようにして闇に紛れて行動していたらしい。
意外なのは足元。ルーズソックスと厚底サンダルだけはそのままでいたことかな。正直、厚底サンダルって歩きにくいだけだと思うんだけど……。
「ふふふ、貴女のまるで消えたように見える移動――その秘密は、厚底サンダルの『仕掛け』ですわね?」
「……くっ、超MM……!!」
「MM? ……まぁいいです。
察するに、厚底サンダル――のように見せかけ、内部にバネでしょうか? そのようなものを仕込み、瞬発力を上げている……と言ったところでしょうか。
そして瞬発力を活かして移動を繰り返し、あらかじめ隠しておいたヤリを投げつける。それが貴女の戦い方ですわね」
な、なるほど……?
仕込みサンダルで機動力を強化しつつ、姫先輩が通る道にあらかじめ何本も槍を隠しておく。
そしていざ戦闘となったら闇に紛れて隠していた槍を投げつけ、別の場所へと移動――これを繰り返していたというわけか。
仕組みはわかったけど……。
「本多先輩、こういうのってアリなんですか!?」
槍を事前に隠しておくとかはまだともかくとして、瞬発力を上げるための仕込みブーツとか反則もいいところだと思うんだけど。
「アリだ!」
アリなんだ……。
まぁ、闇討ちしてくるようなヤリマン狩りに正々堂々を期待すること自体、無駄なことだとは思うけど……。
「ヤリは自由だ!」
……槍以外の道具もアリって、もはや自由を超えた無法なのでは……?
そんな僕らのやり取りはともかくとして、今はヤマンバの方だ。
「貴女の機動力は封じました。
――では、決着をつけましょうか」
どうやら姫先輩の投槍は、ヤマンバの足を狙ったものだったようだ。
よくみると片方の厚底サンダルがばっくりと裂けている。片足だけだったら、瞬間移動と見紛うかのような瞬発力も出すことはできまい。
これでもう闇討ちはできないだろう。
姫先輩は近くに落ちていた投槍を拾ってヤマンバの方へと放り投げる。
――槍を手に取り、尋常に勝負せよ。
そう無言で語っているのがわかる。
ヤマンバとの距離は10数メートルは開いている。もし厚底サンダルが無事なら、また逃げられる距離だったろうが……。
僕と本多先輩は二人の最後の勝負の邪魔をしないように、姫先輩の背後へと回る。下手に離れたら、また僕たちに槍を投げつけて姫先輩の動きを封じるかもしれないしね……情けないとは思うけど。
「ちょ、チョヅいてんじゃねーゾ……!!」
ヤマンバも得意技はもはや通じないと悟っているだろう。
……マジで山姥みたいな形相で姫先輩を睨みつつ、槍を手に取る。
距離は開いているが、槍であればすぐに詰められるくらいだ。
すぐに決着はつく――はずだった。
「戦略的撤退みたいなー!?」
最後の悪あがきで、ヤマンバはその場から槍を投げつけてくる。
もちろんそんなもの姫先輩は余裕で対処できる。
が、その一瞬の隙を突いて壊れた厚底サンダルを脱ぎ捨て、一目散に背を向けてダッシュしていってしまう!
……マジで逃げの一手かー……。
「逃がしません!」
そうは言うものの、相手との距離は大分離れている。
姫先輩が全力でダッシュしてもすぐに追いつけるとは――と思ったけど、姫先輩は不思議な構えをとる。
「むぅ、姫……
「ええ。少し下がっておいていただけますか?」
「致し方なしか。新人、姫から離れるぞ」
なんだかわからないけど、先輩たちに促されるまま更に少し後ろに下がる。
で、姫先輩はと言うと……。
右足を軽く上げ左足一本で立つ姿勢へとなる。
そして、右足の甲の上に器用に槍を置く。
……サッカーボールだったらまだわかるんだけど、槍を足の上に立てて一体何を……?
そんな僕の疑問は、次の瞬間に解けた。
「
地につけた左足を軸に、槍を乗せたまま器用にその場で回転。
次第に右足は蹴りを放つかのように伸ばされ、回転の勢いに乗せられた槍は地面に対して水平方向へと傾く。
……離れていなかったとしたら、姫先輩が足で振り回す槍によって僕は突かれていただろう……。
十分に回転が乗ったところで姫先輩がジャンプ!
「《
腕の3倍と言われる脚の力
2つの力によって蹴り出された姫先輩の槍は、弓矢もかくやという速度で逃げ出そうとしていたヤマンバへと向かい――
「チョベリバァァァァァァァァァァァァァッ!?」
一撃でヤマンバをKOしたのであった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、姫先輩の槍を回収。
KOしたヤマンバをおまわりさんに回収してもらい、僕たちは『くあどりが』へとようやく向かえることとなった。
……おまわりさんも慣れちゃってるのかなぁ……覚悟していた事情聴取とかもその場で二三質問されるだけで終わっちゃったよ……この世はもしかして僕が思っている以上に
「本多さん、他の皆さんに連絡は?」
「おう、してあるぞ。先に始めてるそうだ」
「まぁ! 急ぎましょう!」
……さっきまでの戦いなんてすっかりと忘れているかのように、姫先輩はハイテンションではしゃいでいる。
…………本当に意外過ぎるけど、お酒好きなんだなぁ……でもはしゃいでる姫先輩は超可愛らしい。
「うーん……」
そんな切り替えた二人とは異なり、僕はちょっと思い悩んでいた。
もちろん、ヤリマン狩りのことだ。
姫先輩は『世界レベルのヤリマン』らしいから、この界隈では有名人ではあるのだろう。
でも、だからと言ってここ最近になって急に狙われだしたというのが少し解せない……。
そもそも『ヤリマン狩り』って一体何なんだ? あのヤマンバも、どうも昔は普通のヤリマンだったらしいのに、今はヤリマン狩りになったらしいし……。
姫先輩を狙ってどうするというのだろうか?
……僕はまだこの界隈のことを全然知らない。
そこまで足を踏み入れていない。
――それは、
「……そろそろ、本気にならないと、か……」
半ば『お客様』的な立ち位置のまま今日まで来たけど、僕はいい加減自分の立ち位置を決めなければならないのかもしれない。
そんな真面目なことを考えてはいたのだけど――
「……本気……本気で、姫先輩と……ぐふふ……」
本気でヤリサーの一員となって、姫先輩と付き合えることになったとしたら――
僕の脳裏に浮かぶのは、さっきのヤマンバ戦の最後。
姫先輩の奥義? らしきものが放たれた時のことだ。
姫先輩はいつもスカートを履いている。
そんな姫先輩が、足に槍を乗せて蹴り飛ばした時――僕の視力 (両目2.0)はしっかりとソレを捉えていた。
――紐パンだった。
姫先輩のような
……この輝かしい思い出だけで、僕はこの先も生きていくことができる……!
さっきまでのシリアスな考えは、姫先輩との思い出の前にあっさりと霞むのであった。
だって男の子だもん。しょうがないよね!
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