第9話 禁じられた恋
正一の背中を見送った後、店内を見回すと既に客は誰もいなかった。厨房の源三は洗い物をしながらレジ横に立つ良枝と何やらひそひそと言葉を交わしている。
「昔は色白の美人だったのだけどなぁ」
源三の声が漏れ聞こえてきた。
「だけどお父ちゃん、隠れてお酒の世話なんかしていることが分かっちゃったら、うちもとばっちりを受けるかもしれないんだよ」
良枝の潜めた声が続く。何気なく二人に顔を向けていた大輔の存在に気づき、源三が目尻に柔らかな皺を寄せた。
「時間があるならゆっくりしていきな。コーヒーでも飲むかい?」
正一が戻ってくるまでの数日間、あり余るほどの時間ができた。今日の午後はとりあえずゆっくり過ごすことにしよう。遠慮なくコーヒーを頂くことにした。
コーヒーミルのグラインダー音が聞こえると同時に香ばしい香りが漂ってくる。やがて良枝がコーヒーカップを運んできた。ぼってりと厚みのある土ものの器の表面には釉薬の跡が大胆に残っている。
「なかなか味のある器だろ。村の工房の窯で焼いた物だ。外の人は卑埜忌焼きなんて聞いたことはねえだろうけど」
源三が厨房から誇らしげな声を放つ。陶器の手触りは柔らかく、一口含むとコーヒーの味も程よいまろやさに鎮められている。
「コーヒーと器が一体化していますね」
大輔の言葉に源三が満更でもなさそうな表情を見せた。ふと、先程の二人の会話が気になり、尋ねてみる。
「聞くとはなしに耳に入ってしまったのですが、先程の話は鈴ばあという方のことですか?」
源三は一瞬、良枝と顔を見合わせた後、驚いた表情を見せた。
「何だ、舘畑さん、鈴ちゃんを知っているのかい?」
その鈴ちゃんという呼び名には親しみが込められていた。
「いえ、知っているというほどでは。先日、酒屋で店の人から乱暴に追い払われていた姿を目にしただけです。その老婆が先ほど、こちらの裏口から出てくるのが見えたのでちょっと興味を持ちまして」
再び源三と良枝が顔を見合わせた。
「お父ちゃん、だから言ったじゃないか。誰が見ているか分からないんだから、まったく」
良枝が非難げな声を上げた。
「ああ、見られちまったかい。舘畑さん、黙っておいてくれよな。鈴ちゃんには明るいうちは来るなと言っているんだが」
それ以上立ち入って聞いていいものかどうか迷っていると、源三が再び口を開いた。
「まあ、あんたなら構わないだろう。あの婆さんは鈴ちゃんといってなあ、俺の親父の木こり仲間の娘で、小さい頃は俺にとって妹分のような存在だった。鈴ちゃんはお袋を早くに亡くし、しょっちゅう俺の家に夕飯を食いに来ていたものだ」
そう言うと源三は懐かしそうに目を細めた。
「ああ見えても、若い頃は色白でべっぴんだったんだがなあ。まあ、それが災いしたのかな。尾呂血神社に決めてもらった婚約者がいたにもかかわらず、他の男と駆け落ちしちまったんだから。相手は内村健二という村の外の男さ。鈴ちゃんは卒業すると村の小学校で働いていたのだが、ある年、臨時教員として村外から赴任してきた内村といつの間にか深い仲に陥ってしまい、内村の任期が終わると一緒に村を出ちまったんだ。駆け落ちだ。まあ、そのまま幸せになってくれたならまだ良かったのだがな」
「お父ちゃん、何言っているのさ。尾呂血神社のお決めになった婚約者を置いてけぼりにして村を捨てた女だよ。幸せになんかなれるわけないさ」
一瞬、美穂の顔が浮かぶ。源三はかすかに口元を歪めると、良枝を無視して言葉を続けた。
「秀全様は鈴ちゃんの駆け落ちの件を知ると、それは、それは立腹したそうだ。すぐに県の教育委員会に働きかけて、内村の新しい赴任先の学校に圧力をかけたそうだ。やがて内村は赴任先に居づらくなり他の学校への転勤を余儀なくされるのだが、それでも秀全様は決して許さず、次の学校にも圧力をかけるということを執拗に繰り返した。結局、内村はどこの学校にも受け入れてもらえずに職を失い、自分に災いをもたらした卑埜忌村を恨み、いつしか鈴ちゃんのことも疎んじるようになっていったらしい。二人は結局別れることになり、失意の鈴ちゃんは他に行くところもなく村に帰ってきたのさ。そして、自分のせいで父親が木こり組合から除名され、実家に黒い手紙が届き始めていたことを知る。二人は村から完全に遮断され、ひっそりと暮らしていたのだが、やがて親父が病気で亡くなると、鈴ちゃんは一人でマムシが原のあばら家に住むようになった」
「マムシが原?」
「村の外れにあるススキの密生した場所よ。昔からマムシが出るということで、あそこには村の人間は誰も寄りつかないのさ。今じゃ、野良犬の巣になってるよ」
良枝が源三に代わって説明してくれた。
「それ以来鈴ちゃんはあばら家の前に小さな畑を作り、自給自足をしながら生活している。俺はそんな鈴ちゃんが不憫でなぁ、酒くらい飲ましてやってもいいだろ」
「お父ちゃん、鈴ばあは村を裏切ったのだから自業自得なのよ。酒なんか渡しているところを誰かに見られたら、うちにまで黒い手紙が届くかもしれないんだよ、まったく分かってないんだから。とばっちりはごめんだよ。」
良枝がさも不満そうに口を尖らした。
コーヒーの礼を言って門脇食堂を後にすると、まだ宵には早い時間だというのにあたりは既に薄暗く沈んでいた。冷たく湿った風を受けながら、何の気なしにぶらぶらと湖畔の道を辿った。
その時突然、湖を渡る風に乗って龍笛の音が流れてきた。深い霧に閉ざされた神島の森の奥で巳八子が奏でているのだろう。ただそれは朝方大輔が尾呂血神社で耳にしたものとは異なり、より沈痛な趣を伴っていた。重々しく悲しげで厳粛な響き。音色に誘われて湖の方角に目をやると、霧に覆われた湖上に一艘の舟がゆらゆらと見え隠れしていた。舟首にはかがり火が焚かれており、舟上に立つ大男を朱色に照らし出している。重男だ。重男は何やら白い布で包まれた大きなものを抱えている。やがてゆっくりと舟べりに移動すると、その抱えていたものをそっと湖面に下ろした。白い布に包まれたものは音もなく静かに水中に消えていく。その瞬間、龍笛の音がまるで天に昇るように強く哀しく鳴り響いた。
「葬送の儀です」
突然、背後から誰かに話しかけられた。驚いて振り向くと、薄暮に浮かび上がる色白の端正な顔が目に入った。啓一だ。
「やあ、驚かせてしまいましたか」
啓一は爽やかな笑みを浮かべた。柔らかそうな髪が湖からの風を受けて揺れている。大輔もぺこりとお辞儀をした。
「村を捨てて出ていったままの息子を持つ母親の葬儀です。村から遮断されて一人で生活していましたが、昨晩、寝床で冷たくなっている状態で発見されました。息子にはまだ連絡はついていません」
啓一は沖のかがり火を見つめたまま抑揚のない声を発した。
「可哀そうなことですが、仕方ありません。村の秩序を守るためです。御霊碑は用意されませんが、龍笛による哀悼に送られて湖には還っていくことができます」
人の死を淡々と語る啓一の言葉に、ざらつく違和感が腹の底に広がる。啓一はふさふさした髪をかき上げると、その整った顔を再び大輔に向けた。
「舘畑さん、外の世界は大変でしょう。新自由主義に席巻された弱肉強食の世界は」
「はあ」
確かに生まれ落ちた時から勝ち組負け組に二極化している今の格差社会を生きるのは容易なことではない。
「ここでは皆が助け合って生きています。そして次の世代の為にも、皆が村に残って求められる役割を果たすのです。村で必要なものは分担して作り、村の中だけでも経済が完結するように村の産品の購入が奨励されています。私が木工製品を作りながらなんとか生活できているのも村のお陰です。古代から続くこの村のシステムを守っていくためには、皆が最低限のルールを守る必要があるのです」
啓一は自分の言葉をかみしめるように何度か頷いた。
「舘畑さん、労働の目的について考えたことはありますか」
突然の啓一の質問に、大輔は咄嗟に返す言葉がでてこなかった。
「もちろん生活の糧を得るということはありますが、実はもっと大切なことは健全に生きていくのに必要な尊厳を保つことができるということではないでしょうか。自分の体を使って何かを創り出し、それにお金を払ってくれて喜んで使ってくれる人がいるということ。この満足感が自己を肯定したり自分の尊厳を確認することにつながるのです。私は誇りを持って木工職人をやっています。ここでは山で働いている者も畑で働いている者も皆同様です。そして労働にはそもそも貴賤はないはずです。ですから卑埜忌村ではどの職業もほぼ同じ待遇と敬意を得ることができます。都会ではマネーゲームに走る人々とエッセンシャルワーカーとの貧富の差が激しく、縁の下の仕事に従事する者に対する敬意もないと聞きます。どちらが社会を支えているのかは明白です。何かが間違っている気がしませんか」
啓一の発した尊厳という言葉を耳にして、母の姿を思い出した。母は郷里の寂れた駅前のシャッター街で今でもほそぼそと洋裁店を営んでいる。母は女学校の洋裁科を出て数年間、仙台の洋裁店に住み込みで修業をした後、地元に戻り洋裁店を開いた。大輔が幼い頃、自宅にはいつもピカピカに磨かれた職業用の足踏みミシンがあり、大輔の服も全て母の手作りだった。どこの誰が作ったのか分からない吊るしの安ものを買うのは自分で作る技能のない者だけだというのが母の口癖だった。もう客などほとんど来ないにもかかわらず、今でも母はあのミシンと尊厳だけは失っていないのだろう。
「ところで、天法さんは何をしにいらしたのでしょうか。確か皇宮警察本部にお勤めとか」
啓一は口元に笑みを残しながらも鋭い視線を大輔に向けてきた。
「彼は僕の義理の弟でした。過去形なのは、僕が彼の姉と離婚してしまったもので」
軽く頭を掻きながら苦笑いをして見せたが、啓一は鋭い視線を向けたまま黙っている。
「偶然、樵荘で再会しまして。彼の仕事のことはよく分かりません。私はただ暇つぶしに付き合っているだけです」
しばらく沈黙が流れる。やがて啓一は湖に視線を移し、ポツリと聞いてきた。
「滞在を延ばしたと聞きましたが、お仕事の方は大丈夫なのですか」
「はあ、自由業なもので何とか」
啓一はそれ以上何も聞いてこなかった。龍笛の音色が静かに流れる中、暗い湖上では煌々としたかがり火が霧の中で揺れていた。
かろうじて宵闇が訪れる前に樵荘に戻った。二階に上がると正一の滞在していた部屋の襖が開け放たれており、がらんとした室内が丸見えだった。その時、部屋の隅に置かれた鏡台の前で赤いジャージが動いているのが見えた。静香だ。イヤホンをつけて鏡の前でダンスの練習をしている。一生懸命に鏡を見ながら小刻みにステップを踏んでいるその姿は、何とも言えず愛らしかった。思わず廊下に足を止め見惚れていると、やがて大輔の視線に気づいた静香が動きを止めた。急いでイヤホンを外し、はにかんだ笑みを浮かべながら「やだぁ」と頬を赤らめた。そして傍らに置いてあったサコッシュを大切そうに肩から提げた。
「NiziUの練習かい?」
静香は表情を輝かせ、おさげ髪を縦に揺らした。まだ少し息が上がっており、紅潮した頬の辺りから甘酸っぱい匂いが漂ってきた。
「今日も肌身離さずにそのかばん、いや、サコッシュを提げているけど、一体中には何が入っているのかな?」
「静香の宝物」
静香は両手をサコッシュに添えながら、きらきらとした瞳で大輔を見上げた。
「そうか、宝物か。どんな宝物?」
静香は小さな前歯を見せながらしばらく考えている様子だったが、やがてサコッシュのジッパーを開け、中から小さな紙包みを一つ取り出した。そしてそのモミジのような手のひらの上で慎重に紙包みを開いた。すると中から押し花のように平たく乾燥した草緑色の葉が現れた。クローバーだ。
「四葉のクローバー」
静香が目を輝かせながら両手を大輔の顔の前に掲げた。
「すごいなぁ、四葉のクローバーか。目にするのは初めてだよ」
大げさに驚く大輔の反応を見て、静香が嬉しそうに破顔する。
「そうだ、舘畑さん、明日の午後、静香と一緒に四葉のクローバーを探しに行こうよ。静香、いい場所を知っているの」
断る理由はない。正一が戻ってくるまで時間はいくらでもある。
「よし、行こうか」
静香はうれしそうに頷くと、大切そうにクローバーをサコッシュにしまった。そして右手の小指を突き出して大輔の胸元に掲げた。指切りだ。大輔も自分の小指をその白魚のような小指に絡ませた。
「あっ、そういえば」
静香はふと何かを思い出したようにジャージのポケットを探り、中から小さな封筒を取り出した。
「今日も恵美子おばちゃんが舘畑さんを訪ねてきたよ。出かけてるって言ったら、これを渡してくれって」
静香はそう言うと、封筒を大輔に手渡した。白い封筒の表には見覚えのある丸文字で、舘畑様、とある。裏を見ると、葦原恵美子、という文字が目に入った。
部屋に戻り、封筒を開けてみた。中には小さな便せんが一枚入っている。広げてみると、青インクの丸文字が並んでいた。
舘畑様、東京にお戻りになる前にご相談したいことがございます。
明日の午前十時に山根家でお待ちしています。葦原恵美子
相談とは一体何だろう。何故、先日会った時にしなかったのか。それとも、あの時は何らかの理由でできなかったのだろうか。
翌朝、山根家に向かう緩い斜面の畦道を再び辿った。水を抜かれてカラカラにひび割れした田んぼ、黒いマルチシートの中から伸びる葉物野菜、落穂目当てのカラスの群れ、まとわりついてくる野良犬たち。周囲の状況は五日前と何ら変わらない。しかし、もうすぐ美穂に会えるはずだと逸る気持ちを抱えながら坂を上っていたあの時とは、大輔の心情は大きく変わっていた。大輔は未だ美穂の死を信じることができないでいた。いや、頑なに信じることを拒否していると言った方が正確かもしれない。しかし気を許すとつい弱気な自分が出現し、美穂の抱えていた懊悩を辿ってしまう。自分のせいで村八分となった父。そして医者にもかかれずに一人寂しく亡くなった父。予期せぬ妊娠による不安定な精神状態。悲しみの中、衝動的に身を投げてしまったとしてもおかしくないのかもしれない。いや、あの美穂に限ってそんなことはない。あの快活で前向きな美穂が自殺するなどあり得ない。思考は常に堂々巡りを繰り返すだけだった。そのたびに胃の底に鉛のような重いものが広がっていく。
ぼぉっとしていたため気づかなかったが、いつの間にか前から農夫が歩いてきていた。すれ違いざまに男と目が合う。見覚えのある顔。美穂の霊璽を発見して山根家を飛び出した後、無理やり扉を叩いて美穂のことを尋ねた隣家の男だった。男は警戒するような視線を大輔に浴びせた後、吐き捨てるように呟いた。
「あんた、まだいたのか」
大輔は無言で目を逸らした。
やがて見覚えのある粗末な平屋が見えてきた。軒先に掲げられていた表札は既に外されており、風雨による変色を免れていた下地がそこだけ明るく浮き上がっている。その痕跡もいずれ人々の記憶と共に色褪せていくのだろう。滑りの悪い木戸を横に押し開くと、かすかなカビ臭が鼻をつく。恵美子はまだ来ていないようだ。靴を脱いで小さな居間に上がり周囲を見渡す。美穂の写真も旅行鞄も祖霊舎も、生前の主の残渣物は既に片付けられた後だった。がらんとした室内の真ん中に冷え切った囲炉裏だけが残されている。黒い手紙の燃えカスも見当たらない。
約束の時間を十五分ほど遅れて、息を切らせた恵美子が戸口に現れた。ジーンズの上に蜜柑色のジャンパーを羽織り、顔を隠すようにフードをかぶっている。
「舘畑さん、お待たせしちゃってごめんなさい。人に会わないように裏道から来たら、思いのほか時間がかかっちゃって」
恵美子はそう言うと、ペロッと赤い舌を出して笑った。
恵美子は大輔の向かいに正座をすると、おもむろにジャンパーを脱いだ。かすかに甘い香水の香りが漂い、襟元にフリルのついた白いブラウスが露わになる。恵美子はフードで乱れた髪に手櫛を入れると、人懐っこそうな瞳で大輔を見つめた。
「突然お時間をいただいちゃってごめんなさいね」
「構いませんよ。どうせ時間を持て余しておりましたので」
恵美子は大輔を見つめたまま、かすかなためらいを見せた。やがて勢いをつけるように軽く息を吸うと大きく吐き出した。
「先日は隣に主人がおりましたもので、お話しすることができませんでした。普段は来客があっても離れの工房から出てくることはめったにないのですが」
何か啓一に聞かれたくない話なのだろうか。黙ったまま恵美子の次の言葉を待った。
「実は葬儀が終わった後、美穂にあることを相談していたのです」
恵美子はそこで言葉を切ると、そっと視線を畳に落とした。
「あること?」
しばらく畳の上に視線を泳がせていた恵美子は、やがて決心したようにゆっくりと視線を大輔に戻した。
「こんなこと、舘畑さんにお話しするのは恥ずかしいのですが」
恵美子はそこで一旦言葉を切り、両手で髪をかき上げた。ブラウスの中で豊かな胸がぶるんと揺れる。
「夫の啓一のことなんです。実は私、啓一が浮気をしているのではないかと疑っているのです。美穂は東京で有名人のスキャンダルなどを調査していると言っていたので、力になってもらえないかと」
想像もしていなかった話の展開に、大輔はただ唖然として恵美子の言葉を待った。恵美子は吹っ切れたように言葉を続けた。
「そうしたら美穂がいいものがあると言って、GPS付きの小型ICレコーダーを見せてくれたのです。それを啓一の上着に忍ばせておけば、どこへ移動して誰とどんな会話をしたかが分かるというのです。私、最初はそんなことはできないと断ったのですが、だって、そんなスパイみたいなこと、ねえ」
恵美子は同意を請うようなねっとりとした視線を大輔に向けると、かすかにシミの浮き出た手の甲をさすった。真っ赤に塗られた爪だけが妙に浮いている。
確かに美穂ならそのような小道具を使って啓一の行動を監視することなど、すぐに思いついたことだろう。
「でも、結局美穂に強く説得されて、私、そのレコーダーを受け取り、啓一が出かける時に上着のポケットに忍び込ませたのです」
そこまで話し深いため息をつくと、甘い香水の匂いが周囲に広がった。恵美子は目を伏せたまま、ただ右手のひとさし指で畳をいじっている。しばらく沈黙が流れた。
「啓一さんの相手の方に心当たりはあるのですか」
こちらからあまり立ち入ったことを聞くことは気が引けたが、無言で恵美子と向き合っていることに若干の居心地の悪さを覚え、思わず質問が口をついた。下を向いていた恵美子は待っていたかのように大輔を見上げた。
「はい、あります」
恵美子の瞳に強い感情が浮かび上がった。
「輝龍巳八子です」
意外な名前を耳にし、言葉を失った。幽玄な霧の立ち込める中、雪洞の灯りに照らしだされた巳八子の白い顔が脳裏に蘇る。
「実は啓一と輝龍巳八子は若い頃に付き合っていたのです。輝龍巳八子が二十歳になると、啓一は秀全様に二人の結婚を願い出たのですが、秀全様はお許しにならなかったそうです。結局二人は別れ、後に啓一は私と結婚することになります」
恵美子はそこまで話すと、唇を噛んだまま黙りこんだ。乾いた風が戸口をガタガタと揺らす音だけが室内に響く。
「恵美子さんはその関係が今でも続いていると疑っているのですか」
一瞬の間の後、コクリと恵美子が頷く。
「時折、啓一の体からかすかに伽羅の香りがするのです。伽羅はとても貴重な香木で、そこらで焚かれるようなものではありません。卑埜忌村で伽羅を焚いているのは尾呂血神社だけです」
恵美子は力なく囲炉裏に視線を落とし、再び唇を噛んだ。風音も止み、室内に静けさが戻る。
「それで、そのICレコーダーは?」
「啓一が伽羅の残り香を纏って帰ってきた日、そっと上着から取り出し、美穂に渡しました」
「それで?」
「それっきりです。直後に美穂が亡くなってしまったもので。レコーダーが今どこにあるのかも分かりません」
そこで恵美子は大輔を正面から見やった。
「舘畑さん、私、美穂が自殺をしたとはどうしても思えないのです。あの美穂が自殺なんて」
かすかに潤んだ瞳で恵美子はすがるように大輔を見やった。
結局、恵美子の話はこれで全てだった。恵美子は話し終えると、再びフードをかぶり人目を忍ぶように出ていった。大輔は一人、山根家の居間に座ったまま、美穂が最後に残した留守電を思い返していた。「ひょんなことから、とんでもない事実を探り当ててしまったかもしれない」。そうだ、美穂はレコーダーを再生し、とんでもない事実を知ったのだ。その事実とは一体何だろう。恐らく啓一の浮気の証拠をつかんだくらいでは、とんでもない事実とは言わないだろう。それは何かもっと重大なことだったはずだ。そしてそれが啓一に仕掛けられたレコーダーに録音されていたということは、啓一がその重大なことに関わっているということだ。美穂はその事実を知ってしまったことが原因で口を封じられたということはないだろうか。ゾクゾクっと背筋に鳥肌が立った。いずれにせよ、啓一は要注意だ。そして、レコーダーは今どこにあるのだろうか。美穂の遺骸とともに既に処分されてしまったのだろうか。それとも、美穂は危険を察知してどこかに隠したのだろうか。そうだとすると、どこに?
これ以上はいくら考えても、思考が進まなかった。
昼前に樵荘に戻ると、玄関先で静香が首を長くして待ち構えていた。大輔の姿を見つけるや、その顔をぱっとほころばせながら走り寄ってくる。途端に甘いミルクのような匂いが漂う。そうだ、今日は四葉のクローバーを探しに行く約束をしていたのだった。静香はいつもの赤いジャージの上にピンクのジャンパーを羽織り、赤い運動靴を履いて準備万端の様子だ。そして肩からはNiziUの面々がプリントされたサコッシュ、外出する時もいつも一緒なのだろう。
「ばあちゃんがお昼のおにぎりを作ってくれたよ。舘畑さんの分もあるの」
静香は小さな前歯を見せると、得意げに紙袋を上に掲げた。
冷たい風を受けながら二人並んで湖畔の道を歩きはじめると、静香が手を繋いできた。大輔の手の半分にも満たない小さな手、強く握ると壊れてしまいそうな頼りない手だった。しかし、そのもみじのような頼りない物体はしっとりと温かく、溢れんばかりの生命力に満ちていた。
最後に子供の手を握ったのはいつのことだっただろうか。記憶を手繰ったが思い出せなかった。突然、恵美子の言葉を思い出す。舘畑さんはご存知だったのでしょうか、美穂のお腹のことを。本当だったら握ることになっていた、より小さな手。思わず目を瞑り、膨れ上がろうとする思考を無理やり封印する。静香はそんな大輔の動揺には全く気づく様子もなく、繋いだ手を前後に大きく振って楽しげに歩いている。
「舘畑さん、原宿のミルクのお城に行ったことある?」
静香が吹きこぼれるような笑顔で大輔を見上げた。
「ミルクのお城?」
「ふわとろの生クリーム専門店、この前テレビで紹介されてたの。すっごく美味しそうなのよ」
静香が小さな赤い舌でペロッと唇を舐めた。
「行ったことないなあ」
「それじゃあ、幸運のパンケーキは?」
再び、弾けるような笑顔が吹きこぼれる。
「ごめん、それもないなあ」
静香が大げさに頬を膨らませた。
「静香は東京に詳しいんだね」
「食べ物屋さんだけじゃないよ。静香、ジブリとかイチマルキューとかみんな知ってるよ。いいなあ、東京って何でもあるんでしょ」
静香が陶然とした瞳を見せる。
「確かに便利なところではあるかな」
しかし、東京には本当に何でもあるのだろうか。
突然、静香の足が止まり、握っている手に力が入るのが分かった。どうしたのかと静香を見やると、その目は斜め前方を睨みつけている。その視線に沿って通りの向こうを見やると、造り酒屋の日本家屋が目に入った。店先には先日の若い店員の姿があり、その傍らにはもう一人、見覚えのある男が座っている。鼠色のつなぎに長靴。純平だ。簡易に設けられた机の上には半分ほどになったコップ酒。門脇食堂を出入り禁止になり、ここで飲んでいるのだろう。
「あのおじさん、毎日玄関の前で美穂姉ちゃんを待ち伏せしてたんだよ。美穂姉ちゃんは会いたくなかったみたい。だから美穂姉ちゃん、いつも裏口を使って出入りしていたの」
酔いつぶれているのだろう、純平はだらしなく両足を前に投げ出して揺れている。静香は汚いものでも見るように純平を睨みつけていたかと思うと、何かを言いつけるような表情で大輔を見上げた。
「あのおじさん、心中の方法を調べようとしていたのよ」
静香の口から心中などという物騒な言葉が発せられたことに驚き、思わずその顔を覗き込んだ。
「蒙導師のお姉さんが教えてくれたの」
「静香も開明館に出入りしているのかい?」
「うん、時々ユーチューブのNiziUのビデオを観に行くの。ばあちゃんには内緒だけど。舘畑さん、ユーチューブって知ってる?」
「知ってるよ。おじさんもたまに音楽ビデオを観てるよ」
静香が満足そうに頷いた。
「この前、開明館に行った時、あのおじさんが真っ赤な顔をして出てきたの。あとで蒙導師のお姉さんに聞いたら、心中の方法を調べてくれと頼んだらしいの。でもお姉さんに却下されたみたい。だって、そんなこと調べるのはいけないことでしょ」
純平はやはり美穂と心中をしようとしていたのだろうか。暗澹たる気持ちを振り払うように空を見上げると、どんよりとした空一面にはひつじ雲が広がっている。沖の神島は今日も深い霧の中だ。
小さな鎮守の森が現れ、杉木立の中に石の鳥居が見えてきた。尾呂血神社の分社だ。静香は、「こっち」と言うと、慣れた様子で鎮守の森の手前の細い道を入っていった。あまり人が通ることもないのだろう、道のあちこちに雑草が生い茂っている。しばらく細い道を歩くとやがて視界が開け眼前に広い草地が広がった。静香はおさげ髪を揺らしながら勢いよく草地の中へと駆け出していった。
「ここが秘密の場所よ」
こちらを振り返ると、静香が両腕を大きく広げながら得意げな表情を弾けさせた。足元を見ると、確かに地面一面に若緑色のクローバーが密生している。そしてあちらこちらで野良犬たちが思い思いの姿で寛いでいた。よく見ると、子犬に授乳している母犬たちの姿が目立つ。どうやらそこは野良犬たちの子育ての場所でもあるようだった。何匹かの子犬が静香の後をチョコチョコと追いかけて一緒にはしゃぎ回っている。
小一時間ほど静香と草地に四つん這いになって四葉のクローバーを探してみたが、これがなかなか見つからない。一息つこうと空を見上げると、厚い灰色の雲が目まぐるしく動いていた。隣を見ると、静香は真剣な表情で一心不乱に地面を睨んでいる。
そうこうしているうちに腹が減ってきたので、昼食を食べることにした。静香は持参した紙袋からビニールの敷物を取り出すと草地に広げ、その上におにぎりの入った包み紙と水筒を広げた。まるでおままごとでもしているように始終楽しそうな笑みを浮かべている。何匹かの野良犬が興味津々と言った様子で寄ってくる。
「あっ、そうだ。鈴ばあも呼んであげよ」
静香はそう叫ぶと草地の奥へと勢いよく駆け出していった。えっ、鈴ばあ?静香の背中を目で追うと、草地の奥には広大なススキの密生地帯が広がっており、その中に一軒のあばら家が見え隠れしていた。静香は自分の背丈ほどもあるススキの中を、そのあばら家目指して一目散に走っていく。あの家が鈴ばあの住処だとすると、あのススキの密生している地帯がマムシが原なのだろうか。
やがてススキの中から静香が一人の老婆と手を繋いで戻ってきた。見覚えのある粗末な着物、黄ばんだ白髪、染みだらけの浅黒い顔。
「うちに泊まっている舘畑さんよ」
静香は鈴ばあに向かってそう言うと、今度は大輔を見上げた。
「鈴ばあよ。四葉のクローバー探しの名人なの」
大輔が軽く会釈をすると、鈴ばあは警戒したような視線を大輔に向けただけだった。
結局、静香を挟んで並んで座り、三人でおにぎりを頬張ることになった。静香はおにぎりを片手に、四葉のクローバー探しのコツを熱心に鈴ばあに聞いている。鈴ばあによると、四葉のクローバーは植物にとってストレスのある場所に出現することが多いらしく、日当たりが悪かったり人や動物に踏まれやすい道路脇を探すのがよいそうだ。鈴ばあはそう説明しながらも驚くほどの食欲を見せ、結局半分以上のおにぎりを一人で平らげた。静香は自分は少ししか食べずに、余らせたおにぎりをせっせと子犬たちに与えていた。
食べ終える頃には、灰色だった雲は薄墨色へと色を変え空全体を厚く覆っていた。湿った風がススキ原を乱暴に吹き抜けていく。
昼食後、鈴ばあも加わり三人で四葉のクローバーを探していると、突然遠くの空が激しく轟いた。同時に冷たい突風が草地を横切る。急にパラパラと大粒の雨が降ってきた。そしていきなり稲妻が光ったと思うと、バケツをひっくり返したような土砂降りが三人を襲ってくる。静香が声にならない悲鳴を上げた。
「わしの所に来んしゃい」
鈴ばあがススキ原のあばら家を指さした。躊躇する間もなく、三人はあばら家目指して駆け出していく。背後では雷が続けざまに鳴り響いている。
雨に追い立てられるようにあばら家に逃げ込んだ。粗末な木戸の向こうには狭い土間があり、その奥は暗く沈んでいる。雷光にくらんだ目が暗い室内に慣れるまでしばらくかかったが、やがて奥の空間が徐々に浮かび上がってくる。畳はなくむき出しの板の間の中央に粗末な囲炉裏があり、その脇に万年床のように薄い布団が敷かれている。枕元には見覚えのある白い徳利が転がっていた。門脇食堂の裏口で目にしたものだ。家具らしいものはほとんど見当たらない。
三人は上がり框に腰を下ろして一息ついた。稲光が弾けるたびに暗い室内に三人の顔が蒼く浮かび上がる。数秒遅れて空が割れるような轟音が続く。粗末な板戸は突風を受けてガタガタと悲鳴を上げ、トタン屋根は大粒の雨を受けてやかましく鳴っている。真ん中に座る静香は左右の手で鈴ばあと大輔の手をしっかりと握っている。轟音が鳴り響くたびに静香の小さな手にぐっと力が入るのが分かった。
「静香よ、何も恐れることはない。大した雷ではない。わしは若い頃、もっと恐ろしい雷を見たことがある」
鈴ばあが雨に濡れた顔を片手でごしごしと擦りながら呟いた。
「それはどんな雷だったの?」
下を向いて目をつぶっていた静香がそっと鈴ばあを見上げた。
「もう四十年も前のことだ。あれは不思議な雷じゃった。雲一つない青い空に突然稲光が発生し、轟音とともに幾つもの激しい雷が落ちてきて森を焼き尽くしたのじゃ。あれを青天の霹靂というのじゃろうか。あんなに恐ろしい雷を見たのは後にも先にもあの時だけじゃ。まるで雷が意思でも持っているかのように、次々と大木をなぎ倒していったのじゃ」
「鈴ばあはどこでその雷を見たの?」
静香が興味津々といった様子で、まん丸く目を開いた。
「よく山菜取りをさせてもらっていた重吉さんの森林じゃ。可哀そうに、重吉さんの森林はその雷に全てを焼き尽くされてしまった」
鈴ばあは目を閉じたまま、眉間に深い皺を寄せて俯いた。何気なく二人の会話を聞いていた大輔は、重吉という名前に反応する。四十年前?もしや村長選挙の年の話だろうか。
「重吉さんというのは森林組合長だった倉瀧重吉さんのことですか」
突然、横から口を挟んだ大輔に鈴ばあが驚いて目を見開いた。しばらくぽかんと大輔を見やると、再びぽつりぽつりと話を続けた。
「そうじゃ、倉瀧重吉じゃ。重吉さんにはわしが小娘の頃から随分と可愛がってもらってのう。重吉さんの森林では山菜がごまんと採れてな、わしは毎年、千代と二人で山に入らせてもらったものじゃ。フキノトウ、タラの芽、コシアブラなど何でも採り放題じゃった」
鈴ばあはそう言うとヨッコラショと言いながら難儀そうに板の間に上がり、敷きっぱなしの布団の脇に転がっていた古い巾着袋の中から藁色の紙封筒を取り出した。ゆっくりと上がり框に戻ってくると、封筒の中から一枚の古い写真を取り出した。
「わしは過去のものは全て捨ててしまった。物も、思い出も、感情も。ただ、唯一この写真だけは捨てられなくてなあ」
微かに変色した写真の中央には作業着姿の大きな男が意志の強そうな瞳でカメラを睨みつけており、その両脇では二人の色白の少女が屈託なく微笑んでいる。背景には新緑の森の景色が広がっている。
「わあ、きれいな女の人。これ、鈴ばあの若い頃?」
静香が写真を覗き込みながら歓声を上げた。
「右の小娘がわしじゃ。真ん中が重吉さん」
写真の中の鈴ばあは、持て余すほどの希望に満ち溢れた表情をしている。添えられた鈴ばあの皺だらけの指と汚れた爪が同時に目に入り、歳月と運命の残酷さを目の当たりにする。左の少女も同様に生き生きとした笑みを浮かべているが、その目元にはどこか見覚えがあった。色白の肌に涼しげな瞳。最近、どこかで目にしたはずだ。
「左の女の人はだあれ?」
写真に見入っていた静香が、大きな瞳で鈴ばあを見上げる。
「それは千代じゃ。稗田千代、結婚してからは葦原千代。わしの幼い時からの唯一の友達じゃった」
そうだ、その目元は啓一に似ていたのだ。
鈴ばあは大切そうに写真を封筒にしまうと、ポツリと呟いた。
「皆若くして死んでしまった。わしだけが醜く生きながらえておる」
鈴ばあが両手で顔を覆った。静香が心配そうに鈴ばあを覗き込む。暗い室内に重たい沈黙が充満していく。
空を揺らしていた轟音は徐々に遠ざかっていき、屋根を激しく打っていた雨音も静かになっていった。
「そうじゃ、重吉さんの森を襲う激しい雷の中、わしは幻を見た」
突然、鈴ばあが何かを思い出したように声を張り上げた。そして何も映っていない空っぽの瞳を中空に向けた。
「次々と炸裂する雷が周囲の大木をへし折り全てを焼き尽くしていく中、鬼の形相の秀全様が森の中を駆け抜けていたのじゃ。右手に持った剣を高々と天に掲げながら、まるで雷を先導するかのように。それは、それは、恐ろしい光景じゃった。わしはあの時、夢でも見ておったのじゃろうか」
あばら家を後にした時、既に草地は午後の陽ざしを受けてきらきらと輝き始めていたが、足元はまだひどくぬかるんでいた。
「これじゃ、膝をついて探すことができないから、今日は帰ろうか」
大輔の言葉に静香が渋々と頷く。静香はススキ原を振り返り、あばら家に向かって手を振った。鈴ばあが家の中からこちらを見ているのかどうかは分からなかった。
「あのススキ原は確かマムシが原と呼ばれて村の人は誰も立ち寄らないと聞いたけど、静香はマムシが怖くないのかな」
静香はおさげ髪を揺らして首を横に振った。
「鈴ばあはもう何十年もあそこに住んでいるけど、一度もマムシなんか見たことはないって言っていたよ。マムシなんていないってさ。だから静香も全然怖くないの」
静香はそう言うと、ふと何かを思い出したようにあばら家とは違う方角のススキ原に顔を向けた。
「でも、ちょっと怖いかな」
「マムシがかい?」
静香は首を横に振り口を真一文字に結んだまま、ある一点を見つめている。不安げに大輔の手を握ると、声を潜めて話し始めた。
「静香、あそこでお化けを見たの」
静香はそう言うと、視線の先を指さした。
「この前、夢中でクローバーを探していたらいつの間にか日が暮れて遅くなっちゃって。ばあちゃんに叱られるから早く帰ろうと急いで歩いていたら、ふと、ススキ原の奥で光が動いたの。何だろうと思ってそちらを見ると、お化けがススキ原の中を歩いていたの。暗かったけどあれは絶対お化けよ。でも静香がびっくりして悲鳴を上げたら、お化けも光も消えちゃった」
お化け?誰かが明かりを手にススキ原の中を歩いていたのだろうか。しかし、通常村人はここには足を踏み入れないはずだ。では一体誰が、何の用で?
「この前って、正確にいつだったか覚えている?」
静香はうーんと唸ると、ぱっと顔を上げた。
「覚えてるよ。美穂姉ちゃんが帰ってこなかった日。うちに帰ったらばあちゃんが夕食が無駄になったと怒ってたから」
美穂の遺体が神島で発見される前の日ということか。何か関係があるのだろうか。胸の奥で何かが引っかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます