episode_010

 まだ、一時過ぎだが、今日は業務終了だ、飲むぞ、と田淵は言って、寿司屋にはタクシーで出かけた。つれて来られた店は前にまりあが言っていた、世田谷の住宅地の中にある、かなり先まで予約の取れない一日に数組しか客を取らない店だった。その日の仕入れで出す物が決まるその店では、メニューはなかった。

「本当は好きなんだろう」

 と田淵から勧められた日本酒は、のど越しといい、鼻腔に拡がる香りといい、今までに飲んだことないものだった。それでいて、変に自己主張が強くなく、寿司にマッチする。

「おいしい・・・」

それ以上は、言葉にできない史子であった。

 酔ったわけではないのに、史子は、生い立ちや家族の事を素直に話してしまった。こんなにありのままを話したのは初めてのことである。田淵は、特にコメントを挟まず、史子が語るにまかせたままだ。

「ごちそうさまでした。なにか、私ばっかり話してしまって、すいません。お寿司、本当においしかったです」

「興味深い話だったよ。私も楽しかった」

 食事を済ませ、タクシーに乗り込む。

「私は会社に戻るから、その途中、玲香ちゃんを送っていくよ」

「ありがとうございます。でも、一人でいいんで、ショールームの家具をもう一度見せて頂いてもいいです?」

「かまわないよ。それから、これ飲む?」

そういって田淵はシルバーのピルケースを取り出した。

「アメリカやヨーロッパの奴らと仕事してるでしょ。彼ら、生魚の匂いに敏感なんだよね。さっきの寿司屋、鮮度がいいから決してそういうことはないんだけど、なんか癖でね、胃で溶ける消臭キャンディなんだ」

 そう言って、田淵は自分の口に入れた後、「あーん」と子供のように史子の前に白いタブレットをもっていった。その勢いで、史子もタブレットを飲み込んだ。

「腕時計、見せてくれる」

タクシー中でそう言って、田淵が史子の手をつかんだ。

 イヤじゃなかった

「時計、好きなの?」

「はい」

 この男に認められたい

 田淵のオフィスで芽生えた感情は、昂ぶりになっていた。そして、手を取られた今、その昂ぶりははっきりとした思いに変わっていった。

 手を取られ、車がカーブする勢いで、史子は田淵に寄り添いかかる体勢となった。

「ごめんなさい」

「いいから、このままで」

 寄りかかった田淵の胸板は、四十代とは思えない堅さで、開いた襟元から見える肌は、若々しかった。

 田淵が、史子の掌を指先でそっと撫でる。史子は、そのたびに自分が潤っていくことに気がついた。

 車は渋滞にはまり、動かない。史子は、もはやはっきりわかるほど潤っており、声が出そうになるが、それを察知するように、声がでそうになる前に田淵は撫でるのをやめる。

 店を出て三十分が過ぎた。すると、今までの思いに加えて、抑えきれない気持ちが芽生えた。強烈な多幸感、そして、今、田淵をつながれば、このまま自分が田淵に溶けてなくなってもかまわないと思えるほどの欲求だ。同時に、潤いが加速度的に増してくる。パンティに染みができているのがわかる。

 欲しい


 車が田淵のビルについた。

 オフィスにつながるエントランスとは違う入り口があり、手を引かれてそこへ向かう。田淵も史子も言葉を発さなかった。ビルに入り、住居フロアー専用の小さなエレベーターに乗り込む。

 田淵にアゴを捕まれ、史子はキスされた。田淵の舌がゆっくりと史子の舌を愛撫する。そのたびに史子は、いきそうになった。

「こんなに濡らして、悪い子だ」

 そう言いながら、田淵の指が史子の白いスカートをわけ、潤んでいるところを撫でた瞬間、史子は軽くいってしまった。

「こんなところで、いくなんて、本当に悪い子だね。罰を与えないとだめかな」

「ごめんなさい」

「いや、許さないよ」

 田淵は史子をベッドルームに誘い、ブラウスのボタンに手をかける。

「・・・イヤ、シャワーを浴びさせて」

「ダメだ、このままだ」

 キングサイズの大きなベッドに押し倒され、身につけていたものが脱がされていく。

「こんなに染みができている」

 目の前に脱がされたパンティを示され、史子は顔を手で覆った。

「イヤ、恥ずかしい」

「さて、罰を与えよう。トノウ・カーベックスより玲香の手に似合うものをするから」

 そう言いながら、革でできた拘束具を取り出し、史子は両手をかざした格好で、ベッド拘束された。

「やめてください」

 力なく史子が言う。

「やめてくれという割には、こんな風になってるじゃないか」

 そういいながら、史子の足を大きく拡げ、その足が閉じないように拘束具をつけた。

「アナルの方まで垂れているぞ」

「・・・言わないで」

 自分は罰を受けているのだ。私は悪い子だから罰を受けなければならないのだ。恥ずかしい思いをしなければならないのだ

 そう思いながらも、潤いは止まらなかった。

 こんな風になるなんて初めて、でも、前に似たようなことがあった。あれは、和明と・・・

「気がついたようだね。さっきのタブレットは、エクスタシーだよ」

 この感覚は、和明とエスをきめてやった時と似ている。エクスタシーだったんだ

「でも、玲香にはエクスタシーは必要なかったようだね。エクスタシーは効果がでるまで三十分かかるが、効く前から、君は私としたがっていたのが、わかったよ。私としたかったのか?」

「・・・」

「きちんと答えるんだ。私としたかったのか?」

「・・・はい」

「したかったのか、それじゃ、罰として、玲香とはしない」

 そういって田淵はベッドルームを出て行った。拘束されたままの史子は、一人にされたことの不安が急にわき上がってきた。

 私は一人なの? 私を触って。私を確かめて。私がここにいることを知っているでしょう

 子供の頃もそうだった。いつもお兄ちゃんばかりで、私は一人だった。私が認めてもらえるのは、成績が良かった時だけで、それ以外は私を認めてくれなかった。だから、私が私でいられる場所を探していたんだ

 一人の不安で心は冷たくなっていたが、身体を火照り、潤いは止まらなかった。

「久しぶり、玲香ちゃん」

 ドアが開き、田淵と実咲が入ってきた。

「恥ずかしい格好ね。私はとても他の人にそんな姿は見せられないわ」

「いやあ、どうして実咲さんが。いやっ、見ないで、恥ずかしい」

「見ないでって言う割には、びちょびちょよ、ほら」

 そう言って実咲は、既に堅くなっている史子のクリトリスを剥いて、指でつまんだ。史子はいった。

「私に触られていくなんて、ほんと、どうしたの。恥ずかしい子ね。こんな子はほっておいて、楽しみましょう」

「そうだな、いっぱい愛してやるから」

 そういって田淵は実咲を引き寄せ、キスをした。二人は、そこに史子がいないような振る舞いで、お互いの洋服を脱がしあう。

 女の人に触られていってしまった。ほんとに恥ずかしい

 でも、なんで、私がここにいるのに、私を無視して、二人でキスしているの。まるで私がここに存在しないように

 実咲が両膝をついて、椅子に座った田淵のペニスを頬張る。二人は史子を見ることすらしない。

 いやっ、私にもさわって。実咲さんでもいいから愛して。私も舐めたい。私がここにいるのに、どうして無視するの

 実咲がベッドで四つん這いになり、田淵が後ろからつながった。激しく動く。しかし、二人は史子を一切見ない。

 いやっ、私にもさわって

 私を無視しないで

 実咲と田淵が大きな声であえぎ、二人同時にいった。

「いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、」

 史子は泣きながら連呼した。

「玲香」

 田淵が声をかける。

「私がここにいるのがわかりますよね。お願い」

「お願いか、もう少し、罰を与えよう。私はお前には触らないよ、実咲」

「お願い・・・あぁ」

 息づくように立ったままの史子の乳首を実咲が軽く舐めた。それだけで、史子の身体は、さざ波のように震える。

「うんといかせてあげるからね」

 実咲の指が、史子の潤いの源に吸い込まれる。

「い、いく」

 その後も、史子は実咲の舌と指、バイブレーターで何度もいかされた。

「だめえ、もうおかしくなっちゃう、いかさないで。実咲さんやめて」

「玲香、お前は何度いけば気が済むんだ。しかも同性にいかされて、恥ずかしいやつだな」

 史子が実咲にいかされているあいだ中、椅子に座ってワインを飲んでいた田淵が声をかけた。

「田淵さん」

 史子にとって、今まで経験したこと絶頂感だった。もう無理と思うのだが、それでも田淵が欲しかった。

「私たちは玲香の存在を無視して、放置した。そして、玲香は、同性に何度もいかされるという恥ずかしい思いをした。罰を受けたんだよ。でも、よくがんばったな。がんばった玲香は、かわいいぞ。私のいうこときいてがんばった玲香を大事に思うよ」

「田淵さん、私を認めてくれるの。私がここにいることをちゃんと認めてくれるの」

「もちろんだ」

 田淵は史子の拘束具を解き、優しく抱きしめ、髪を撫でた。

 史子の心に、一体感がわき上がってくる。

 うれしい、誉められている、ここにいることを認められている

「がんばったご褒美だ」

 田淵は史子を跪かせ、ペニスを史子に頬張らせた。

「私を気持ちよくしてくれ。お前がここにいることを、お前の愛撫で私に示してくれ」

「うれしい」

 史子は、一心不乱にペニスを舐めた。その様子を実咲が眺めている。

「いいぞ、玲香」

 田淵が史子をベッドに寝かせ、正常位でつながる。史子は田淵のペニスが入ってきた瞬間、いってしまった。そして、田淵が激しく動くたびに、何度もいく。

「私はここにいるんだよね」

「そうだ」

「私は、ちゃんといるんだよね」

「そうだ」

 田淵がひときわ激しく動き、果てた時、史子も今までない絶頂感を味わい、そのまま、意識を失った。

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