第15話 路上 その2

畠山 里香



「里香?! どうしたんだ?!」

 勇の声で私は道路の端で立ち止まった。

 すぐそこには辞めた探偵兼土地家屋調査士の事務所がある。

 駐車場へ行く矢先だった。

 自転車が一台私の脇を通り過ぎていった。


「ううん。もういいのよ」

「途中で投げ出しちゃいけないよ! 一体どうしたんだ……」

「……」

 私は父。勇の顔を見つめた。

 勇は私の無言の訴えが伝わったのだろう。

 一瞬、丸い顔がこくりと頷こうとした。

 車も一台。道路を通る。

 父は心配そうな顔をしていた。


「いや、駄目だ。途中で投げ出しちゃいけない」

「……ふぅーーー……」

「一体。どうしたんだ?」

「私の正式な依頼人だったの。西村 研次郎さんは……」

「……そうか。なら……なおさらだ。その人はもう死んでいるんだよ」

  

 雨は相変わらず降っていた。

 傘は二人とも差していない。

 私たちのびしょびしょの姿は他の人たちには、どう映るのだろう。


「正式な依頼人だったんだね。西村 研次郎は?」

「……ええ。それは間違いようのない事実よ」


 私は捨てられ雨に濡れた子犬のような気持だった。

 それは大きな存在に見捨てられた気持ちに似ている。

 きっと、子犬もそんな気持ちのはずだ。

 そう、途方もない大きな存在に……。


「本当にご本人? 同姓同名の別人でなく?」

「ええ。超小型電子カメラを作っていたって、言ったの」

「なんてこった!!」

 

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