第75話 逃げられるか?逃げられないか?

逃げられるか?逃げられないか?

私は、この物差しを心の中に持つようにしている。


私が置かれている、この特殊な環境での暮らし。

どこかの独裁国家の様な、君主の考えを全てとし、それに刃向かえば暮らしは一転する日々。

例え疑問を抱いても、言えば苦痛極まりない暮らし。


放射能で、10年後〜この地に人間は存在しないと言われれば南の島にマンションを借り、異国の地に長期ビザを取りに行き、旧札に価値がなくなると言われたら資産を出来る限り硬貨に替え、暮らしを守る。 


恋愛して結婚し、周りからみれば裕福で何不自由ない幸せな暮らしの中、夫の独裁者としての片鱗が見え隠れし…やがて二人目の娘が生まれる頃に彼は仕事で独立。クリニックを開業した。

仕事でも独裁者。家庭でも独裁者。

その頃には、何事にも目につくものは片っ端から叱責された。


子供達が幼稚園に上がる頃には、教育への関心が一層高まり、夫がキッチンのコンロでキャラクターの塗り絵を1枚ずつ破りながら燃やす。

キャラクターが何よりも嫌いな夫。

馬鹿になるからこういうものを買うな!怒

毎日のようにピンク色のものがゴミ箱に捨てられ、馬鹿色は買うなと言っただろ!怒

子供は、友達がお土産にくれたピンクの水筒をゴミ箱から取り出していた。。。

捨てられては拾い、隠す。

この繰り返し。

夫に言えば、暮らしは一転する。


怖くなり、何度も交番に走って逃げる。

夜中に着の身着のまま逃げた交番で、警察官に「昭和ではなく戦前の暮らし」と言われた。

やがて子供が交番ではなく、お隣に逃げたいと言い、菓子折りを持ってお隣の奥様に頭を下げに。

お隣のご主人も医師。息子さんは弁護士。

そして、何度か実際に母子で逃げた。

職場のクリニックから電話で私に怒り狂い、電話を切って直ぐに帰宅してくる夫と時間差で隣家に駆け込んだこともある。


近所通報から警察官数人が自宅に乗り込み、家族皆が取り調べ。警察官に追い出された夫。

DVセンターで受けたカウンセリング、夫の精神鑑定を代理で受け、そして弁護士さんの助言。

児相の家庭訪問、その一年後には一時保護。


大変かどうかはわからなけれど、少しばかり人と違う景色の道を歩いてきて、ふと「逃げられるか?逃げられないか?」考えるようになった。


責任を投げ出すとか、そういった意味ではない。

上記に書き出した私が通過してきた出来事は、極論「逃げられる」

勿論、実際には離婚したら? 転職は? 転校は? 

住む家は?といろいろあるのは承知で、実際に逃げるかは別。

私のこの独裁国家生活は、極論「逃げられる」


私が今までで一番「逃げられない」ものにぶつかったのは、次女の病気。

六歳で突然、臓器の一部が機能しなくなった。

なぜに? なぜなぜなぜ…?

どれだけぶつけても泣いても叫んでも、原因不明の病に「逃げられない」を痛感した。

もしも逃げたら、更に病状は悪くなり命の燈火がいずれ消える事になるかもしれない。

そう、病気は「逃げられない」

特に日本は尊厳死が認められていないので、どんなに苦しく先が見えない病でも、海外に出なければ逃げる道が期待できない。


それと同じくらいに「逃げられない」となると、自国での戦争や内戦だろうか。

空から陸から襲ってくる攻撃、逃げる事は難しい。


逃げられるか?逃げられないか?

私は、今よりもずっと夫のDVも裏切りも激しかった頃、自分には自由がない、権利もない…ただ生きるしかないと思い詰めていた。

来る日も来る日も叱責されて、自信もなくなり、視野もいつの間にか狭くなっていたのだ。

思い詰めた私は叱責から逃れるが如く、とにかく消えたいと思うようになり、彼のネクタイを輪にして…自分の首を入れた。

薄れゆく意識の中、脳に空洞が出来ているような感覚の中で我に返る。

生きている、私は生きていることを選んだ。手が動く足が動く〜死ねる権利がある…と自分は権利がある事を確かめる。

何度も確かめた…。 

今は馬鹿な事をと思えるが、その時は真剣。

(その後、適応障害と診断)


何度かした頃、ここまで追い詰め本当にこのまま死ぬならば、逃げる道もあるのではないか?と考えた。

逃げる事は、究極…出来る。

そう思うと、スッと楽になった。 

日々の暮らしでも、対人関係や山積みの家事や仕事、逃げる事は本当に出来ないのか? 

そう考えるだけで、楽になるような気がした。

それからは、嫌なことにぶつかっても「逃げられるか?逃げられないか?」の物差しを一度使ってみる。

勿論全ての解決にはならないし、全てがどちらかに当てはまるわけでもない。

だだ、何処かに逃げ道があると思うのは悪くない。

だから、この異常な暮らしを維持できる。

逃げ道は必ずある。


とは言っても、昨日も夫に「馬鹿な奴と結婚すると大変だ!怒」と言われたら落ち込むし、反抗期娘に「うるさい!」と言われたら普通に辛い(涙)


本当に逃げられない……それは病気と共存したり、闘病している方々。

戦争や内戦で不安と恐怖の中で暮らしている人々。


今は、その物差しを都合よく使いながら、美味しいものを食べる〜犬と楽しく散歩をする、自由がある!権利がある!と元気に確認している。


今日は、偶然娘二人が同時刻に最寄駅に帰宅した。

お迎えついでに三人で「回るお寿司」に行った。

一度も夫とは行ったことがない。

行くこと等許されない。

それを、娘二人と三人で行った。

自由と権利をしっかりと使った。

幸せ♫

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