第27話 急げ、タンタラ・タイムアタック


 2度目のタンタラ洞窟への挑戦。


 それにつけて私たちには密かな目標がある。

 これは、前と同じ攻略では成長が得られないからとフランの提案で立てたものだ。



 その目指す目標とは、タンタラ洞窟の1時間以内の攻略(ボス撃破)である。


 私たちはかなり力をつけた。加えてカロスさんに授けてもらったスキルツリーの強化もある。それを受けてのやや強気の目標設定だ。


 タンタラ洞窟は敵は弱いが全体の距離は長い。

 目標をこなすためにはいかに戦闘を素早くこなしていくかが鍵になる。


 しかし無謀な動きで敵から傷を負いすぎては、逆に攻略に遅れが出るし薬草も馬鹿にならない。

 私たちにとっては連携を効かせて、スマートに敵をいなしていくことが大事なのだ。



「みんな、そろそろ定刻よ。突入準備、いいわね?」


「ふふ、任せてフルル。気持ちが昂るわね。棍棒もうなるわ!」


「もう弱虫のリリエラはいませんよ。この拳はみんなのためにあります……!」


「私は相変わらずですが、ぷるんつは一層成長しました。見せてやりなさい、本当に強いスライムの実力を!」


「むー、むー!」



 十一時ちょうどの合図を待って私たちは洞窟に潜入した。

 タイムアタックスタートだ!



 中は一度通った道である。

 待ち伏せなどの心配がない見通しの良い通路は、小走りに駆けていく。


 しかし走っていると当然すぐに敵とエンカウントする。

 最初の敵はスライム5匹からなるパーティだった。


 なかなかに数が多く時間をかけたい気持ちもある。

 しかし総司令官のカナに目線を送ると、合図は『速攻&殲滅』であった。


 最初に動いたのはぷるんつとリリエラ。

 2人は敵の注意を引きながら近くにいる個体に打撃を与えていく。


 スライムは軟体系。打撃は今ひとつ効きにくいはずだが、2人の成長の成果もあってか、攻撃されたスライムはそれなりにダメージを受けているようだ。


 とりわけみんなの後ろに隠れていることの多かったリリエラの成長は顕著だった。

 魔法しか打てない格闘家の汚名は返上だね。おめでとう。



 続けて後ろから、2人とも下がって、と声がかかる。


 フランだ。


 掌には炎が渦巻いている。

 リリエラとぷるんつが少し後ろに引くと、フランがそれを火炎札にまとわせ射出した。



 それはもはや攻撃魔法といってなんら差し支えなかった。

 大きな火球となった火炎札は敵に当たると大きく炸裂し、なんと3体ものスライムを道連れにした。



 仲間を急に失い、一時的にパニックになっている敵スライムたち。

 そこへ私の後ろから風を切るように出ていく影。カナだ。


 モグラ叩きのように残ったスライムにぽかりぽかりと鉄槌を食らわせる。


 それが決め手になり、残ったスライムもマナに還っていった。



「ふふっ、みんなおつかれさま。敵が弱っていたおかげでおいしいところを頂いちゃったわ。」


「みんなの成長がすごいです!私は見ていただけだけど……。」


「あなたのぷるんつもすごく活躍してたわよ。リリエラもいい動きだったわ。」


「フランちゃんの火炎札も驚きの威力でしたね……!

 私たち、確実に前より強くなっています!!」



 きゃっきゃと喜ぶオカリナ。

 だが戦闘はまだ1つ目。急いで洞窟攻略に戻る私たち。



 もともとタンタラ洞窟のエンカウント率は高い。矢継ぎ早に様々な敵パーティとの交戦となった。


 しかし火に弱い編成の多いタンタラ洞窟の敵たちは、フランのエンチャント付き火炎札の前に次々と突破されていく。

 初撃でうち漏らしたモンスターもリリエラ、カナ、ぷるんつの3枚看板の前には危なげなく処理できる。



 順調に勝ち進み、やがて私たちはボスまでの道のりの半分ほどに差しかかった。


 時間は二十分程度といい塩梅だ。

 何ふり構わず急ぎすぎても足元をすくわれる。よってここで一旦それぞれの状態を確認する。


 体力は概ね問題ない。

 戦闘で傷を受けた仲間は、都度薬草である程度の回復を施しているのでぬかりはなかった。



 しかし問題はマナだった。

 といってもカナもリリエラも魔法は使っていない。

 そう、マナが減っているのはフランだった。


 もともとの戦闘スタイルでは火炎札を投げるだけだったフラン。今までマナを使うという経験すらなかったのだ。


 それが火炎札にエンチャントを乗せることで強力な威力を発揮できるようになった結果、フランはこれまでにないくらい短期間で連続でのマナ消費を強いられていた。


 ポーションでマナは回復できる。

 しかし数値の上でマナの回復はできても、フランの表情からは疲労の色が隠せなかった。



「……これくらい大丈夫。行きましょう。目標のためにはいつまでも燻ぶっていられないわ。」


 しかし、カナはそれを制する。


「私たちは進むわ。だけどフルル、あなたはしばらく戦闘に出ず休憩を摂りなさい。

 目標も大事だけど、これからの戦いにおいて自分のペース配分を把握するのも成長には必須よ。」


「……フランちゃん、私たちを信じて下さい。」


「フランが作ってくれた余裕、私たちがしっかり活かしていくよっ!」


 フランは反対する気力もないようだ。負けたわ、と言ってパーティの後ろについたのだった。



 そこからは肉弾戦が主になった。

 といってもサポート程度にリリエラも炎魔法を上手く使っている。

 それでも当たればスライムや虫くらいなら倒せる。なかなか器用な戦い方じゃないか?



 休憩地点から何戦過ぎただろうか。

 私たちはボスのもとに辿りついた。スタートから50分程度経っていた。



 ……あとはボス戦。時間なんかいらないぜ! 



 交戦状態になった私は前と同じようにスライム・クリムゾンを焼き払い、グラディエーターを一迅のもと下した。


 無事、タンタラ洞窟のボス討伐終了。大量のメッセージとともに前回のようにアイテムやスキルを得ることができた。


 そこへ洞窟の私たちの来た方角から誰かが近づいてきた。



「あねさま!こちらです、こちら!

 侵入者が戦っているようです!!」

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