第25話 ああ、チョロすぎなあのお方


 今度のタンタラ洞窟遠征について、みんなで相談していたところ、タロンからある名案がでた。



 それは移動魔法だ。



 移動魔法とは文字通り空間を越えて移動できる魔法のことである。

 これさえあれば街から街へとひとっ飛び、遠征の手間がぐっと減るお手軽な魔法なのである。


 ただ敵対モンスターのいる状況やダンジョン内では使えないという制限があるにはある。

 しかし遠い道のりのタンタラ洞窟にはありがたすぎる提案だったのだ。


 なぜ早く言わない、とくってかかった私たちを前に、ほっぺたの危機を感じたタロンは慌てて問題点を2つ上げた。



 1つ目は習得難度。


 移動魔法はそこまで習得するのが難しい魔法というわけではないらしく、初心者に毛の生えたパーティでも使用している人はいるよう。


 しかし、それはなかなかに運のいい場合。

 たいていスキルツリーの浅い階層にあるはずの移動魔法も、猫がそっぽを向けば、全くといっていいほど得られないこともあり得る。


 現に私たちの誰も移動魔法は習得していないのだ。



 2つ目は転移点の獲得。


 移動魔法は続くスキルのレベルによって転移点をいくつか獲得することができる。

 この転移点を予め設定した場所に使用者は移動することができるのだとか。


 ゆえに移動魔法の習得だけでは全くもって用をなさない。

 その次あるスキルツリーの転移点を少なくとも1つ、どこかとの往復に使いたければ2つの転移点を獲得する必要があるのだ。



「……なるほどね。じゃあまるで机上の空論ってわけじゃない。しっかりしなさいよ、タロ芋!」


 ひどいあだ名がつけられたもんだ。最初は少しくらい畏れられていたのに。



「ねぇ、タロン。今私のスキルツリーって振り直し自由なんでしょ?ポイントを再配分して私が習得するわけにはいかないの?」

 聞いてみる私。



「おいらもちょっと見てみたんだけどね……、メグのスキルツリーってちょっと普通と変わってるんだ。


 結構ポイントを使わないと転移点2つまでとれないし、そうするとアイテムプールがほとんど維持できなくなっちゃうんだ。


 ちなみに転移点のスキルをポイントに戻すと、設定した転移点ごと消えちゃうから今度は転移点の設定からやり直し。

 転移点の使い回しはできないよ。」



 タロンの説明曰く、スキルツリーの開始地点は職業、個人の資質、後天的なスキル獲得によって違っているらしい。

 スキルツリーの形自体も各々違う。



 職業による違いは魔法使いなら初級魔法マスタリー、剣士なら戦術、といった具合だ。

 私は一応前衛職で戦術から伸びるスキルも獲得できる。


 個人の資質は本当にランダム。たくさん出発点がある人もいるようだが、私には戦術以外にはツリーの開始地点がもともとなかったようだ。


 後天的なスキル獲得は、私の場合はアイテムプールや各種学習で得たスキルがあるね。そこから枝葉のようにスキルを伸ばすことができる。

 ちょっと見逃していたがスキルツリーにまで影響を及ぼす学習って強すぎんか?



「アイテムを持ち帰れないなら移動魔法なんてだめです!歩いて行きましょう、メグちゃん!!」



 アイテムが持ち帰れないとお財布が潤わないもんね、分かっているよ、かわいいリリエラ。



「なによ。じゃあ本当にどうしようもないわけじゃない。」

 と、不服そうなフラン。



 そこで奥の手ですよ、とタロン。仰々しく咳払いすると続ける。



「明日カロス様が下界に降りて来られます。場所は……メグなら知ってるね。


 そこでフラン、リリエラ、カナの3人もスキルツリーを扱えるようにカロス様にお願いするんだ。

 3人いれば誰かはきっと移動魔法を扱えるようになるさ。ね、良い案でしょ?」



 ふむ、それが本当にできるならこんなにいいことはない。パーティの自由度もぐっと高くなるだろう。



「でもカロス様、本当に私たちのわがままを叶えてくれるでしょうか……?」



 それを受けタロンが答える。

「確かにカロス様のきげ……裁定によっては願いは叶わないこともあるだろうね。

 だけどそれで失うものはないし、逆に得るものは大きい。

 当たって砕けろだよ。やってみようよ。」



 おい、この精霊今、『機嫌』って言いかけたぞ。

 もちろんカロスさんが気分屋なのは私もよく知っているけど、カロスさんの使いがそれをいっちゃあ、おしまいでしょ。



 そしてタロンにはさらに秘策があった。

 タロンのアイテムプールから恭しく取り出されたのは、湯気でほかほかのあのジャンクフードだ。


「そしてこれが勝利の奥の手、パーシード裏通りにできたばかりの新創作たこ焼き『アクアリウム』!!


 通常より遥かに大きいたこ焼きで、スプーンで頂く意欲作っ!

 表面を掻き分ければ溢れんばかりのおつゆがタコと小麦ペーストに混ざってアツアツハフッ!


 ただでさえ暖を取りたいこの季節。

 カロス様のテンションは否応なくあがるだろうね。


 ……いいかい?これを2つほど買って持っていきなさい。」




 4人は顔を見合わせ静かにうなづく。



 勝った……!


 どんな言葉や戦略よりも心強い提案に私たちの気持ちは1つになった。




 そしてあくる日、カロスさんは3人にステータス閲覧の権限を与えてくれた。


 勝利は予定されていたとはいえ、あまりにもあっけなさにグラディエーターを一太刀にしたほどの感慨もなかった。



 そして私たちはそれぞれのスキルツリーとにらめっこし、リリエラに転移魔法を覚えて貰うことにした。


 転移点はひとまず2つ獲得し、1つをここ、プリカ養成所の寮舎前に設定する。

 もう1つはタンタラ洞窟に設定する予定だ。


 フランは初級魔法マスタリーの取得から魔力を伸ばしていき、カナには治癒魔法方面に力を入れてもらった。


 本当はリリエラのためにもアイテムボックスを増やしたかったが流石に2人のポイントではツリーの当該箇所までは届かなかった。



 満を持した。

 週末のタンタラ洞窟攻略に向けて準備は整ったのである。


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