第20話 がんばれオカリナ、フリマ本番!


 フリーマーケットが始まり、まばらに人通りができていく。

 時間はまだ早い。お客さんはそう多くなかった。


 私たちの店にも何人かのお客が訪れ、珍しそうに横目で見ていく。

 しかししっかりと立ち止まる人はまだいない。



「や、やっぱり高すぎるんでしょうか……?値下げしてお客さんを呼び込みましょうか?」


 不安そうにリリエラがきょろきょろしている。



「リリィ、焦っちゃいけないわ。まだ始まって十分も経っていないわよ。

 しばらくは様子見。値下げはカロス様のおっしゃった通り、2時間売れなければ、にしましょう。」



「そうよ、それに今までのひとはろくに値段も見てないわ。単に商品に興味がなかったのね。

 ここで値を下げるのはもったいないわよ。」


 よくお客をみているのはフランだった。

 いつも冷静に大局を見るリリエラは今日は舞い上がってしまっている。



「まぁ、呼び込みくらいはしましょうか?

 カナとリリエラは店番。私とフランでスライムヘルムを売ってる店があるよ、と北の通りで宣伝しに行きましょう!


 装備通ならきっと見に来てくれるようになるわ!」



 そうして私とフランは軽く宣伝に出かけた。


 10数分後。

 効果はそれなりにあったようだ。

 私たちは何人かの人に場所を尋ねられ、私たちの店を教えることとなった。



 4、5人目の質問に答えた後、フランが私に話しかける。


「ふぅ、スライムヘルムってそこまで大した防具じゃない気がするけどこれで案外人気があるのね。

 カロス様のお眼鏡にかなったアイテムだけあるわね。」


「フラン、そろそろ一度戻ってみない?スライムヘルムは5つしかないから売り切れちゃってるかもしれない。」



 そうして2人ですたこら店へと舞い戻った。



 そんな私たちの帰還を笑顔で迎えたカナとリリエラ。


「やったわよ。スライムヘルム、3つも売れたわ。

 どれも北の方からやってきたお客だわ。あなた達の活躍ね。」



「残りはもう2つだけになったので、カロス様にアドバイスをもらって、今度は少し値上げに踏み切りました……。

 メグちゃん、フランちゃん、ありがとうね!」



 正直性能の割にかなりの値段をつけている気がしていたため、ここまで捌けるとは思っていなかった。


 カロスさん曰く、グラディエーターは初心者向けのダンジョンにごくたまにしか出ず、経験値もドロップも渋い。

 それなら稼ぎのいいダンジョンでお金を得て、金で解決する方を選ぶ人が多いのだとか。



 今回分かったこと。

 それはコレクターアイテムには十分な値がつくようだ。覚えておいて損はない。



 それではと今度は西の方面にスライムの核の宣伝に行こうとの話になる。


 リリエラは店番が性に合っているということだったので、今度はフランとカナが宣伝に行き、私とリリエラが店番と相成った。



 2人が出掛けていき数刻経ったあと、店にお客が来る。早速宣伝の効果があったのかしらん?



 お客は珍しく私たちと同じ年頃の男の子2人組だった。


「へぇ〜、こんな可愛い子たちが売り子をしてるなんていい店じゃん。」


「何がオススメなの?」



 軽い奴らだ。私は一応営業スマイルで商品を紹介する。



「スライムヘルムとスライムの核が売り物なんですー。」



「いい品だね。でも君たちの方がもっと素敵だなー。」


「店は後ろの人に任せて、一緒に喫茶店でも回ろうよ〜。」



 こいつら、ナンパ目的でフリーマーケットを回っていやがる。商品を買う気なんてさらさらないんだろう。



 どうする?カロスさんに頼る程でもないか??


 そう悩んでいると私の隣りの方が啖呵を切った。



「てめぇら、冷やかしか?あァン?!

 おとなしく下手に出ざるを得ない店員を狙って声をかけるなんざ、やり口が卑怯なんだよなぁあ!


 そういう男は『ピー』で『バキューン』が『ピー』『ピー』『バキューン』なんだよなぁ?

 そうなんだろぉ?!おォン?」


 直前までとは打って変わっておらつくリリエラ。

 聞くに耐えない言葉の連呼に、男2人はもちろん私も固まっている。


 ハッ、とした顔で目を✕にさせると恥ずかしそうに私に隠れるリリエラ。



「やだぁ、怖かったぁ……。」



 新喜劇か。



 じーっと、何か言いたげな目で見つめる私を前に、言われてもいないのに弁明を始めるリリエラ。


「違うんです。私の母親、昔ちょっとやんちゃしてたことがあって、それが私にも移ったというか……。

 それでプッツンきちゃうと私も少し言葉使いが荒くなっちゃうというか……。とにかく違うんです……。」



 違わない。とにもかくにも何も違っていないよ、リリエラ。



 男2人はというと目を離した隙に忽然と姿を消していた。どうかトラウマになっていないことを祈ります。



「あ、お客さん、帰りましたね……。

 もうっ、冷やかしなんて困ったものですよね。助かりました……。」


 助かったのはどちらかというと客の方だがそれは言わないでおこう。



 そしてしばし待つとスライムの核目当ての客がちらほら現れる。

 スライムヘルムは単体ではそう役に立たないだろうが、核の方は様々な薬の素材として使われると聞いている。


 店を預かった身だ。そう簡単には値下げしないぜ。



 しかし私が心配するまでもなくスライムの核も次々店から消えていった。


 宣伝隊が帰還する頃には残ったスライムヘルムもはけ、4人で呼び込みをすると全ての売り物を売り切ることが出来た。



 勝利の余韻に浸り、やんややんやと喜ぶ私たち。



 そこへカロスさんがグラサンを外して声をかける。


「お見事でした。無事品物を捌いてお金を得ることができましたね。


 今日は厄介なお客さんが少なかったのも良かったです。

 リリエラさん、良い活躍でしたよ。」


 リリィが、どうかしたのー?とカナ。リリエラは赤くなって俯いている。



 なにはともあれタンタラ洞窟の戦利品を無事売り払うことが出来た。

 次の目標を立てるべく、気持ちを一つにした私たちだった。

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