第18話 お久しぶりです、カロスさん!
タンタラ洞窟からの帰路は、溢れるお土産のせいでかなりキツイものになった。
身軽な状態でも2時間以上の道のりだったのだ。重装備状態での行軍速度たるや推して知るべしである。
プリカ養成所の寮に帰ってきた頃には、ずいぶん日も傾きかけていた。
私たちはお風呂に入り、軽い夕食を済ませたあと泥のように眠りこけたのだった。
そして次の日からまた養成所での授業の毎日が始まった。
私たちは1日1つずつスライムゼリーを食べることをノルマにすることした。
私のアイテムボックスに残ったゼリーはボックス4つ✕4個分の16個あった。
オカリナのみんなで仲良く4個ずつ分けて、たっぷり4日かけ、胃もたれと戦いながらめいめい腹の底に押し込んだ。
そんな苦労をしたドーピングだが、私はというと弱者必衰があるため、残念ながらゼリーの効果を感じることはできなかった。
そうだね、がんばり損な気分だね。基礎ステータスは上がっているんだろうけど。
しかし他のメンバーは違ったよう。
プリカ養成所で行う体力や魔力の測定器でかなり効果が出ていたみたいだ。
また苦労して持ち帰ったスライムヘルムと核は、月末のフリーマーケットで売ってみようとみんなで決めた。
なんだかんだでプリカ養成所に来て良かった、と思う。
このまま地道に強くなる道を探すのも悪くないという気がしていた。
そしてある日の放課後。
いつもならオカリナのメンバーと過ごす私。
しかしこの曜日はある人に出会えることもある、と筋肉さんの話を小耳に挟んだのだ。
しかるべくして筋肉さんから教わった場所にのこのこやってきた私であった。
果たしてその人はそこにいた。
水辺でもないのに船に囲まれて。
「カロスさん、お久しぶりです。また飽きずに、たこ焼きですか?」
「あら、メグではないですか。冒険は順調ですか?
ここのたこ焼きの屋台では出汁で頂く玉子焼きもあるんですよ。
ソースに青のりが大正義というのが私の主張ですが、これは信念が揺らぎそうですね……。」
くすくす、と笑う私。
それを見てカロスさんも微笑みを返す。
「メグ、あなたには少し余裕が出てきたようですね。
タロンは役に立っているようですか。」
手を後ろに組むと上体を傾けながら答える私。
「タロンったら私のためにならないって言いながら、いつも丁寧に解説してくれるんですよ。
助かるけどまだまだ自立できそうにないです。」
そうですか、と1つたこ焼きを口に放り込むカロスさん。
「私、学校で友だちができて一緒にパーティを組んでいるんです。
この前はみんなでダンジョンを攻略したんですよ。それにみんな少しずつ強くなっています。
これからもみんなで強くなりますよ!」
それは良かったです、とカロスさん。
おもむろに箸を置き、語りだす。
「結果的にではありますが、実は私はあなたに酷いスキルを贈ってしまったと罪悪感を感じていたのです。
この世界に転生して、手に職もなく冒険者としてもままならない。そのままあなたが腐っていってしまうのではと恐れていました……。」
たこ焼きは湯気を上げている。
「メグ、あなたはこれからもあなたのスキルによって躓くでしょうし、あらゆることで思い通りにならないことがあるでしょう。
そんな折には、どうか私を恨んでくれて構わないんですよ?
それでも私があなたのためにできることはそう多くありません。」
カロスさんを沈黙が包む。
私の言葉を待っているのだ。それが罵倒であれ怨みであれ、受け止めようとしている。
「許さない……なんていうと思いましたか?」
緊張の糸が切れたような表情でカロスさんは私を見つめる。
「私、言いませんよ。だって私のスキルは、最!強!、なんですから!!
ドーピングアイテム取り放題!獲得スキルもたくさん!ボス倒し放題!
カロスさん、私これだけのものをもらって文句なんか言いません。」
それにそれに、と続ける。
「躓くことがないなんて、そんな冒険つまらないじゃないですか。
私、工夫して打破する、攻略しがいのある冒険が大好きなんです!」
そうですか……そういってくれますか、とカロスさん。
「それなら良かったです。私も気が軽くなります。
信頼できる友と困難を乗り越えていくのはとても美しいことですね。
それではめげずに精進してください。」
「へへ。カロスさんこそ。話している間に、たこ焼き冷めちゃいましたよ?」
おやおや私としたことが、と慌ててたこ焼きの賞味にいそしむカロスさん。
私は私の道を歩く。
このお話しはこれでおしまいだ。
そういえば話は変わるがカロスさんに聞きたいことがある。
カロスさんはパーシードについて詳しいだろうか?
帰ってタロンに尋ねるのも良いが、世間話がてらカロスさんにも聞いておこう。
「カロスさん、ダンジョンから持って帰ってきた装備品と素材があって、フリーマーケットで売ろうと思っているんですけど、どうしたら捌きやすいですかね?」
しばらく口をもぐもぐさせていたカロスさんだが、たこ焼きをごくんと飲み込むと思わぬ提案をして下さった。
「フリーマーケットならよく歩き回るんで、どこで何が売られているのか詳しいつもりですよ。
今度出店するのなら、私が手伝ってあげましょうか?」
神の代理人が手伝うフリーマーケット。
なんだか恐れ多い気もするが、それも面白いか、と安楽に申し出を受けるメグなのであった。
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