第8話 実力あらわ、模擬戦で


 プリカ養成所の我がクラス、そよ風組。

 その名の通り、秋深く心地のよい風の中、私たちはぞろぞろと校舎から出ていく。



 その日の午後の授業は、なんと実戦形式の試合だった。



 いきなり実力が試される内容に、正直戸惑う私。


 そんな私をおもんばかって、オカリナのみんながが声をかける。


「まぁ、試合が初めてのあなたに多くは期待しないわ。

 思い切ってやれるチャンスだと思って、ぶつかってきなさい!」


「先鋒のメグちゃんがやられても次鋒にはフラン、副将に私、大将にカナちゃんがいます……。みんなで勝利をもぎ取りましょう……!」


「私が大将。メグメグは大船に乗ったつもりでいなさい。ふふっ。」


 カナは自分の付けたあだ名で仲間を呼ぶらしい。メグメグて。


 審判役の子が、まごまごしている私へ開始位置に着くよう促す。


「とりあえず、ぷるんつは横で見ていてね。フラン、ぷるんつをお願いっ。」


 相棒をフランに託す私。

 ぷるんつはフランの胸部の柔らかい感触が気に入ったのか、そこに納まり大人しくしている。

 はいはい、私は平らで悪ぅございましたね。



 時間いっぱい。審判が開始の時を告げる。


「両者見合って。始め!」


 相手の子は魔法使いのようだった。

 たどたどしく呪文を詠唱すると、手にした杖から炎弾を撃ち出す。


 私に迫る炎。


 早いっ!

 それに轟々いって当たったらやばそう!


 とっさに盾を構える私。

 しかし炎弾を浴びた盾は途端に熱を帯び、すぐに持っていられないほどの温度になった。


「あち、あちちちち!!」


 盾をほうり出し、防御面で丸腰になる私。

 しかし、炎の追撃は止まらない。



 ひーん、新参者にこの仕打ちは何なのー?



 踵を返し逃げ惑う私のお尻に、炎弾が直撃する。

 カロスさんに用意してもらった服は燃えるわけではなかったが、それでも熱いものは熱い。

 水場を求めて走り出す私。


「メグメグ、前みて!前!」


 カナが言ってくれたがもう遅い。

 私は前にあった何かに勢いよくぶつかり、無事戦闘不能となった。


「メグメグ、大丈夫?

 あぁ、あちゃー。この像倒しちゃったか。」


「いててて……。これは銅像ですか? 偉い人?」


 フランが答える。


「この像はエルキメデス所長の立像。我らがプリカ養成所の一番偉いお方よ。

 倒すなんてとんでもない、みんなとても大切に扱っているの。」


 メグさんー、大きな音がしたけど大丈夫?と、遠くからチルカ先生の声がかかる。


 ぎくりとする私たち。

 エルキメデス像をひた隠しに、オカリナ揃って誤魔化しにかかる。



「だ、大丈夫です!ちょっと大きくこけちゃったみたいで!!」


「メグちゃんったらドジですね……。へへ…へへへ……。」


「万事問題ないです。先生はどうぞ持ち場に戻られて下さい!」



 出会い間もないメンバーたちの連携は的確だ。

 ついで僥倖なことに、高い草むらがこちらへの視界を悪くしている。


 あら、そう?何かあったら呼んでくださいねー。と、言い残し、チルカ先生は去っていった。


 4人で力を合わせ銅像を立て直し、試合の場へと急いで舞い戻る。



 先鋒の私は負け。

 次はフランの番だ。

 フランは私にぷるんつを返すと開始位置に着く。



 フランが相手の先鋒と対峙した。

 そして試合開始の声がかけられる。



 先に仕掛けたのはフランだった。

 いくつもの炎の弾が相手を襲っていく。


 詠唱の間に合わない相手は炎をいくつか食らっていた。



「フラン、いい調子じゃない!このままやっちゃえー!」


「いつもここまではいいのよね……。」とこぼすカナ。


「え、何かだめなんですか?」


 カナはため息交じりに答える。


「あの子、魔法使いだけど魔法が使えないの。」


「ええっ、そんなことあるんですか。でもあんなに炎を出して」


「あれは投げた対象に向かって炎を出す、火炎札というアイテム……。

 しかも本物を常用するとそれはもうお財布が弾け飛ぶので、フランちゃん自作のまがい物なんです……。」



 ええーっ!



 みるとフランの対戦相手にはあまりダメージはないようだった。

 今度は相手が炎の詠唱を間に合わせ、フランはさっきの私のように逃げ惑っている。


 あ、お尻に火が。

 そしてエルキメデス所長の像を倒すところまで私と一緒だった。


 フランも負けた。みんなで証拠を隠滅し、試合会場へ戻る。



「では、リリエラ、行ってきます……。」


 お次はリリエラの番だった。相手は連戦でもう心なしか疲れているように見える。


 といってもこの取り組み、格闘家対魔法使い。素早く距離を詰めれば、リリエラに有利なのでは?



 試合開始の合図が上がる。



 素早く移動するリリエラ。後ろに。


「何やってるのー!!」


 私にフランが解説する。


「リリエラは格闘家だけど前に出たことがないの。怖いから距離をとって魔法で戦うのよ。」



 いや、あんたが魔法を使えるんですかい。



「でも脳筋ステータスだから魔法の威力はたかがしれてるわ。」と補足するカナ。


「でしょうね!」


 そうこうするうちに相手の炎に捕まり、遁走。無事エルキメデス像を撃沈したリリエラ。

 いや、私たちほんと悪気はないんですって……。



 最後はカナだった。


「行ってくるわ!」



 オカリナの大将が実力を見せるべく試合が始まった。

 しかし相手は遠めに見ても疲労困憊だった。


 もはや火を出すマナが練れないのか小さな竜巻を起こしてカナを攻撃してきた。


 竜巻をまともにくらい、小さく切った腕から血が流れるカナ。


「血……。」

 

 ぼーっと血を見つめるカナ。その表情は恍惚としている。


「まずいわ……!逃げるわよ!メグ!」


「えっ、どうかしたの、フラン?!」


 棍棒を振り上げると対戦相手に襲いかかるカナ。

 

 だが様子がおかしい。対戦相手が逃げるとカナは近場の者を手当たり次第襲い出した。



「血ぃーっ、血ぃーっ!!!」



 誰より早く安全圏に避難したリリエラが、カナの解説をする。


「カナちゃんの特性というかなんというか……自分の血を見ると興奮して暴走しちゃうんです。

 味方だろうが誰だろうがお構いなしなんです……。」


 授業は右へ左への大混乱となった。

 もちろんエルキメデス像も倒れている。



 魔法の使えない魔法使い。

 

 前衛に行かない格闘家。


 暴走する僧侶。



 一体私たちのパーティ、どうなっちゃうんでしょうか。


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