15店目「異世界のジビエ料理専門店 前編」
お腹いっぱい料理を食べた僕たちに、マスターはお茶を出してくれた。
「みなさん、満足していただけたでしょうか?」
コックスは優しい目を向ける。
しかし、話し始めるとコックスは真剣な表情へと変わった。
「みなさんお気づきかと思いますが、私が直接ギルド長に討伐依頼をしました。どうやらこの村に来たのは偶然のようですけどね」
「ああ、確かに偶然だった」
僕は正直に答える。
「今回討伐依頼を出したグリズリーホーンベアは、本来この森にはいなかった魔獣です。数か月前よりこの森に現れ、森を荒らし始めました……」
「グリズリーホーンベアはどこから来たんだ?」
「それは分からないです。元々この近隣エリアにはいなかった魔獣です」
何かがおかしい。
魔獣といえ動物だ。そう簡単に住処を変えることは考えられない。
「奴が来てからそれまで大人しかった魔獣やその他の森の生物たちが怯え、狂暴化し始めたのです。そのため森に訪れる冒険者も減り、我々も自給自足を余儀なくされました」
「息子さんが言っていたが、この村に多くの冒険者が来ていたのか?」
「ええ、この村は冒険者たちの休憩スポットとして利用されていました。食事や宿泊の他、武器だって揃えられますよ」
確かに木の上に建つ村にしては、お店が多い。
ただ、森に住む魔獣が不穏になっただけで、冒険者が森を避けるなんてことがあるのだろうか?
何だろう、この話何かが引っかかる。
「それで俺らはそのグリズリーホーンベアを討伐すればいいんだな?」
「はい、ならば後ほど住処へ案内します」
話は滞り無く進み、僕らは明日の夜明け後すぐに討伐対象の住処に案内してもらえることになった。
店を出るといつの間にか周りは暗くなっている。
どうやらお店で長居をしてしまったようだ。
僕らはコックスの案内により、村の宿屋に移動しそのまま夜明けまでそこで過ごすことになった。
宿屋はこの村で一番大きな建物だという。
宿泊所も人族対応の部屋がいくつも用意されているようだ。
僕らは男性陣、女性陣に別れ二人部屋を選んだ。
「アインツ、村長の話どこか引っかからなかったか?」
僕はアインツに気になったことを伝えた。
「ああ、俺も何か隠しているように感じた。だが、依頼人なんてそんなもんだろう。全てを語ってくれるとは限らないさ」
「確かにそうかもしれないな」
僕らはこの件を深くは追求せず、ベッドに横になった。
「さあ出発しましょう」
次の日の夜明けすぐに僕らは村長のコックスと共に、グリズリーホーンベアの住処に向かって出発した。
コックスの後ろにはプックルもいる。
村長の息子ボッチは村に残ったようだ。
村長とプックルの森を移動するスピードが速く、僕らはついて行くのがやっとだ。
最短距離を音を立てることもなく進む彼らを見て、僕たちは森に慣れていないことを痛感する。
確かに彼らの進み方をそのまま実践すれば、無駄なく進むことができる。
これはなかなか得難い経験かもしれない。
1時間ほど進んだ後、コックスは僕らを立ち止まらせ、茂みに隠れるように指示した。
僕らは茂みから顔をのぞかせると、正面に苔に覆われた洞穴があり、その前に大きな角が生えたクマが寝そべっていた。
どうやらここが住処らしい。
「プックル」
コックスがプックルの名前を呼ぶと、プックルは立ち上がりミトラの方へ向かった。
「さぁ、ミトラさん、行こうぜ」
「うん、わかった」
ここは作戦通り、プックルはミトラを狙撃ポイントに案内してくれるというのだ。
今回の作戦はミトラがキーだ。
グリズリーホーンベアが僕らと戦っている間に、ミトラが弱点の脳天を打ち抜くのだ。
これはミトラの射撃の正確性と、エルフの弓の攻撃力にかかっている。
プックルはミトラが仕留めるまでの護衛をしてくれるらしい。
今回の依頼はただ倒すだけではダメなのだ。
できるだけグリズリーホーンベアを傷つけないことが重要だ。
僕らは茂みに隠れながら、作戦を確認する。
アインツが敵の注意を引き、セリナが攻撃する。
僕はその間に敵に近づき、『ライト変換アプリLv3』を使用し、相手の脚を凍らし動きを止める。
その隙を狙ってセリナが奴の眉間に矢を射るというものだ。
もちろん、それほど簡単には行くわけがない。
ミトラが失敗すればとどめを刺すのが、僕もしくはセリナに変わるだけだ。
「ミトラさんの準備が整ったようです」
コックスはミトラの方を指さした。
コックスの指さす方を見ても、僕らにはミトラの姿が確認できない。
きっと何らかの暗号を使っているのだろう。
僕らは再度顔を見合わせ、コクンと頷いた。
それが合図だ。
アインツは茂みから飛び出し、グリズリーホーンベアの前へと躍り出た。
僕らはいつでも飛び出せる準備をしながら、今にもアインツに襲い掛かろうとする奴を睨みつけた。
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