暗然な世界に一旗を〜失敗作と言われた兵器使い魔になり成り上がる〜
大井 芽茜
第1話 失敗作
―――
「……っ」
重い瞼をあげた。 薄暗い空間、試験管の中で小さな塊は呼吸する。
「管理長、被験道具が目を開けました。」
「はぁ……目を開けるだけでも大きな成果か。今ある物全部詰め込んだから失敗だと困ったが何とかなりそうだな。」
男は報告を聞くと、試験管へと足を運ぶ。
「流石は、天界にまで手を出し手に入れた子。神獣、魔獣……長所が飛び抜けた物のデータを全て血液と体内に入れた。」
「……」
震えながら塊はただ安息だけを望む。だが、すぐに試験管の中身のダイアルを変えた。
「――っ!―――――!!」
「見せろ。化け物、」
塊は試験管にヒビを入れるほどの発狂を見せ人の姿へと姿を変える。男の姿へと姿を変えると充血した目でただ男の目を見つめていた。
「ダメだな。髪の色を見ろ、しっかりと混ざってない証拠に黒髪に青が混じっている。」
「そんな」
「しかもオスか。とりあえず獣化させる」
男は息を吸った。
「命令だ。獣化しろ」
「――! ぎ、ぎ、ぎしっ、キシャアアアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
頭が捻れるような痛みに悶絶しながらも、唸りをあげる。叫びあげながらツノを頭上に突き上げ、背後を翼で突き破る。試験管の中は一瞬で血まみれになった。
「……獣化出来ないか。なら、完全に失敗作だ。戦争で人型では囮にすらならない。戦争兵器として調教しながら創ったがダメだったか」
「また失敗作……貴方が来たおかげで、もう少しまで近づいたのに!」
すぐに男は手元のスイッチを押し、破壊されかけた試験管をシャッターで覆う。
「仕方ないだろ。はあ、オスは物理的に生殖器を取り除く必要がある。できる限りの実験を行った後取り除いて火葬場で殺せ。いいな」
「……ぱ……さく」
暗闇でただその言葉を呟いた。
その日から苦痛だった。
「失敗作だ。好きに解体しろ」
足も腕も心臓……頭も目も全て壊されては勝手に再生する。
「獣化のなり損ないの姿では痛みをより感じるようです」
「そうか。」
――心が入れ違い、擦れ合う感覚。速く無になればいいのに。楽になりたいのに今日も何かが待っている。ただ痛みだけが生を押し付ける。
「が……ハッ」
息が止まる。なのに、すぐに血液が繋がっていく。身体が熱くなり痛みと共に弾かれる。何かを飲まされ目の前が朦朧とする。泣き叫びたいのに、身体が独りでに動く。敵意さえ向かなくなった。失敗作と言われたあの日から全てが苦痛だった。
「これで以上になります。十分なデータは取れたかと」
「あぁ、十分だな。いい材料だったが仕方ない、殺せ」
目の前の物がひび割れて壊れた。ずっと見ていたものがまっすぐになった。初めて呼吸が軽く吸えた。
「これサインだ。終わったら次やるぞ。」
「はっ」
影は自分を押し付けた。
「命令だ。初期に戻れ」
「……」
身体は声に反応する。ただ無の自分の身体は小さくなった。
すぐに何かを塗られ切り落とされた、その後、鉄格子で閉じ込められ知らない場所に連れられるとすぐに動き始めた。
「見ろ……この子」
「失敗作の話は聞いたことある。売れ残りで捨てられた私たちより可哀想ね」
「……ピィ?」
体に冷たい液が流れる。次第に身体を叩きつけ、表面の傷へと入り込む。
「まあ、君も楽になれるのね」
「だな」
「……」
その人の目は同情のように見えた。いや、苦しい日々は終わったのならどうでもいいか。願うように目を閉じる。
――つかの間
身体が激しく揺れた。身体が挟まったように動かない。次第に身体が下に傾いていく。
「運転荒っ! ま、待って!あの子鉄格子から」
もう1度、身体が揺れた。その途端、水へと身体が飛び込んだ。もう目を開ける気力もなかった。
「――! 大丈夫?」
身体が急に熱を感じた。水から出されると、みたことある影があった。だが、その影は身体を引き裂かず自分へと抱き寄せた。
「可哀想に。捨てられた?」
「……」
「貴方、使い魔?主は?」
「ぴ……」
「そう。じゃあまずは私の家に行こっか」
これが、私とこの世界の頂点となる姫との出会いだった。
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