魔王人生 第一章 第14話 蠢後?縺ケ縺崎?


時は戻り、ウリエルが合図を出す数分前の出来事・・・



神代は、ミエルの作った部屋で考え事をしながら調子を整えていた

「フゥ・・・」

この1ヶ月間、ミエルと戦い続けて学ばされることが多かった。

特に魔力の使い方については・・・まだミエルには及ばないけど、足りないモノは技術わざや手数で埋められる。

そして、この1ヶ月間でまだ1度もミエルに技術を見せていない、その成果がどう出るか・・・


「・・・うしっ!」


神代は部屋を出て、ミエルが作った広場の中心地に向かいながら考え事を続けていた

「・・・」

今回でミエルとの『協同生活』って名の監禁をどうにか終わらせたい。

ならどうするか・・・まずはから出ないと話にならねぇ・・・



神代は広場で遊んでいるミエルの元に少しずつ歩み寄り、部屋を見渡していた



「・・・」

この部屋はミエルの力、いわば『能力』や『特性』を抑えるための部屋だと考えてた。

だが実際は、この部屋にいるに制限を掛けている。

前に『闇の衣ダークフォース』を使ったら、普段使っている状態よりも2周り低い強化になった。

そりゃあ、部屋に入ったやつも力を抑えられて、その上で知能のあるスライムに遊ばれたら、戻ってこねぇわけだ・・・



神代はいつもの場所で待機し、ミエル遊び終わるのを待っていた

「・・・」

そしてこの部屋は「内から外へ出るのは不可能」って狐嶺こんれいが言ってたな。

だけど、魔力の使い方がある程度分かるようになってから、この部屋に少しだけみたいなものがあるのが分かった・・・

俺が最近編み出した『闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた』と『闇の衣ダークフォース 重撃ノ型じゅうげきのかた』をタイミング良く切り替えてミエルに叩き込むと同時に壁をブチ壊す・・・



・・・・まぁ頑張ってみるしかねぇか



ミエルが位置に着き、神代は構え、考えながらウリエルの合図を待っていた

「・・・フゥッ」

「それじゃ、いつも通り始めるわよ――」


ウリエルが喋り始めたと同時に、神代の集中力は以前とは比べ物にならないほど研ぎ澄まされ、ウリエルの声がゆっくりと聴こえた――


「か・・・い・・・」


開始の合図で神代は能力を発現させ――



― 闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた ―



能力が発現したと同時に、地面を抉るほどの力で走り出し、ミエルに近づいたと同時に、『闇の衣ダークフォース』の型を切り替えた。



― 闇の衣ダークフォース 重撃ノ型ダークフォース ―




― 流龍拳りゅうりゅうけん ―




切り替えたと同時に『速撃ノ型そくげきのかた』で出た速度を殺さず、技を放った――


ド――――






この間、およそ0.07秒である






開始の合図と同時に起きた衝撃でミエルは反応が間に合わず直撃し、動きが止まる。

神代が放った『流龍拳りゅうりゅうけん』でミエルは壁際まで叩きつけられ硬直、その隙を見逃さなかった神代はもう一度同じ攻撃を繰り返した



――ドガァアアアンッ!!!!



ミエルは2度目の「流龍拳りゅうりゅうけん」で神代の動きを何とか捉える。

「―――ッ!!!!!」



闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた』で出した推進力と『闇の衣ダークフォース 重撃ノ型じゅうげきのかた』の一撃の重さ、そして神代の極限まで研ぎ澄まされた集中力の3つが奇跡的に重なり合い、先に放たれた殺気でミエルに初めて恐怖を叩きつけた






― 発勁はっけい ―








しかし、ミエルが神代に目を向けた刹那、神代の右腕が自身の腹に直撃する手前に直感で穴を開け、神代の奇跡的に重なった『発勁はっけい』は惜しくも壁に直撃した――



神代の『発勁はっけい』の威力で本来空くはずのない壁に穴が空き、ミエルは吹き飛ばされた勢いのまま廊下にでたその直後、神代の攻撃は止まず、次の攻撃をミエルに繰り出す――



― 低状地底上拳ていじょうちていじょうけん ―



神代の低い位置からの左足蹴りに、何とか反応し防御するミエルだったが蹴られた衝撃で、通路の壁に叩きつけられ、バランスを崩す――


「――っ?!」


ミエルが目を下に向けた瞬間、神代の足があり、右足蹴りで顔を上に上げられ、視界が朦朧とする、その隙を逃さなかった神代はもう一度奇跡を起こす――







― 発勁はっけい ―







ドガァアアアンッ!!!!!


「キャアアアっ!?」

「何が起きたの!!?」


2度目の奇跡で、天使たちの拠点の壁に穴が空き、ミエルは遠くの市街地まで吹き飛ばされていた――

「――ぐぅっ?!!」


ミエルが体勢を空中で整え、吹き飛ばされてきた拠点の方を見ると数km先まで飛ばされていることに気が付く。

神代は大きな穴が空いた壁から飛び降り、地面に着地した瞬間、物凄い速さで空中にいるミエルの元まで走り飛び、蹴りを食らわせる。


建っていたマンションや鉄塔を壊しながら、ミエルは地面に打ち付けられた。



ドゴォオオオンッ!!!!



ミエルがゆっくり立ち上がろうとしている様子を見ながら、神代は崩れたマンションの瓦礫の上であぐらをかいて立ち上がるのを待っていた


「・・・お前が楽しみにしていた「」だぞ?ここなら気兼ねなく戦れる、どうだ?」

「・・・フフっ」

お兄さん・・・実力を隠していたんだね・・・私、嬉しいよ


ミエルが立ち上がると、神代が先程見たミエルとは別人のような姿になっていた

「――お前・・・そんな色々とデケェ身体してたっけ?」

まぁこれもまだ想定内、檻の中であの狐嶺こんれいですら手に負えないコイツは、外に出たらどうなるんだろうな。

想像つかねぇな・・・でも――


神代はミエルを自信に満ちた表情で見下ろしていた


――負ける気がしない!ハイになってるのか痛みも感じない、しかも「」掴めそうな感覚がある!!


神代は瓦礫から飛び降り、構えた

「ハッ!来やがれッ!!!」

「ますます楽しくなってきちゃった!だから全力でぶつかろうっ!―――」




あれっ?コイツ今口調が――




次の瞬間ミエルが神代の背後を取り、腕を掴もうとしていた

「――っ?!」

コイツ、あの部屋に居たときは天使兵長ぐらいの魔力量だと思ったけど部屋の『能力』を抑えるやつのせいで魔力ごと抑えられていたとは・・・

そういえばスライムはほぼ魔力で出来てるってたしか治療中に見た本に書いてたな。



神代はミエルの攻撃を躱し、距離を離す



まさか『能力』だけじゃなく『知力』まで抑えてたなんて考えねぇよ普通!

「舐めてかからない方が良いな・・・」




― 闇の衣ダークフォース 90% ―




あの部屋で出力を上げても身体に負担があまり無かった・・・今ならイケる!!!

「ハァアアアッ!!!!!」



― 炎舞炎業拳えんぶえんごうけん ―




・・・・・・・・・

・・・・



「――なっ!あれは、ミカエルの技?!」


一方、ウリエルたちは離れた拠点でミエルと神代の様子をモニターで見ていた


「やっぱり、覚えたのね~・・・これだと私の技も覚えていても不思議じゃないね」

ウリエルが驚いている後ろでため息をつきながら狐嶺こんれいが話していた


そんな二人が話している間に入ってきたのは、ガブリエルだった

「やっぱりあの少年・・・普通じゃないっスよ?即決の判断力、応用、そして何よりベル様よりも上の戦闘のセンス・・・まだ二十歳にもなってない少年が為せるものじゃないっスよ」

「まぁ・・・あの『』の力を宿している時点で神代くんは普通じゃないわよ」



ミエルと神代の戦闘は更に激しく、速く、残っていた建物が次々と倒壊していく



ドォォオオオンッ!!!!!



狐嶺こんれいは神代とミエルの戦闘の様子をモニターで見ながら、大天使達に話しかけていた

「前よりも、一段と強くなってるね~・・・あんなに速かったかしら?」


ウリエルは神代たちの戦闘を見るも目で追うのが精一杯だった

「・・・我々には状況の変化が早すぎて目で追うのが精一杯、と言ったところです」

「まぁ、あのミエルと数ヶ月間、遊びという名の戦いを続けた、それだけでとんでもない経験値になるわ、ゲームだと始めて初日にラスボスと模擬戦!戦うだけで数十万の経験値が貰える!みたいな感じだわ、そういえば少し前に似たようなゲームをしたわね?」

「狐嶺様、そのゲーム私もやってたッス!」

「ガブリエル、今はこっちに集中しなさい」



大天使達が話をしている一方で、激戦の最中、直径およそ8kmの大きな結界が展開された

「っ!!あれは・・・結界か?」

俺はともかく、『ミエルが外に出た』それだけでかなりヤバいんだろうな。


神代はミエルの攻撃を紙一重で躱しつつ、走り続けているとミエルが話しかけてきた

「神代くんっ!この結界は君と私を逃さないための結界だよっ!能力や魔力を抑制されるようなものじゃないから心配はっ!!いらないよっ!!!」



― 流龍拳りゅうりゅうけん ―



ドゴッ!!!


神代が攻撃するも、ミエルには当たらず後ろの建物に直撃する

「チッ!さっきから避けてばっかだなぁ!?」

何か企んでんのか・・・?


すると突然、ミエルは神代から逃げ始めた

「なっ?!」


神代は切り返し、瓦礫で隠れたミエルを追いかけると、ミエルは二人に分かれていた

「「どっちだ~?当ててごらん!!」」

「クソっ!」

見た目はほぼ一緒だから見分けがつかねぇ・・・

魔力量は・・・・・

左のほうが若干多いか・・・?



すると神代は勢いをつけ、左側で走っているミエルに攻撃する――

「テメェだなッ!!?」



― 処針拳しょしんけん ―



神代の放った『処針拳しょしんけん』でミエルを貫くも、弾け飛び、今度は五人に分かれた

「くそっ!面倒くせぇことしやがって―――」



― 闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた ―



型を変え、瞬く間に5人に分かれたミエルを殴り飛ばす



バシャァアアアッ!!!



「っ?!騙された・・・右に逃げたやつが本体だったかっ!!」

神代は『闇の衣ダークフォース 速撃ノ型そくげきのかた』を維持したまま、もう片方のミエルの方に急ぐ




だが・・・状況は一変する





神代が瓦礫の山を越えると、百を超える数のミエルが神代の元に走って来ていた

「っ?!・・・シャアアアアッ!!!!!」



― 流龍拳りゅうりゅうけん ―



― 処針拳しょしんけん ―



― 頸殺拳けいさつけん ―



― 逆龍拳げきりゅうけん ―




・・・・・・・

・・・・




神代は無我夢中で迫りくる無数のミエルを技で倒しながら、強い魔力を放つ所へ向かった

「・・・ハァ・・・・ハァ・・・・」

・・・一体どこに、あんな力があるんだよ・・・ん?


神代は割れた地面の隙間からが漏れていることに気付く

「・・・外に出したの、間違いだったな・・・」

そうだった、スライムは水を含んでいる・・・

この場所は居住区だけじゃない、河川もある。


スライムが成長するにはもってこいの場所・・・

「相手に塩どころか、肉送ったようなもんだな・・・はは」

神代の見る先には、今にも孵りそうな繭の形をしたスライムだった




・・・ザバァアアア!!!





「ギリ想定内だったけど・・・・想定外になっちまった」


神代の見る先は、美麗な姿になったミエルが背伸びをしながら立っていた

「ん~ぷはぁ~・・・いや~良い目覚めだよ・・・久しぶりにこの姿になったわ!」

「ハッ!・・・日はとっくの前に沈んだぞ?」

・・・あのミエルとは思えないほどの魔力と姿。

あと毎回思うが、コイツは露出の趣味でもあんのかってぐらい裸っぽい姿だな



「まぁそんな冗談考えてる場合じゃないな・・・」

もう手に負えない・・・なんていう判断はまだ早いか

やれるとこまでやる、限界ギリギリまでやる、最初から負けるつもりなんてねぇ

今俺ができる全てをこいつにぶつける・・・!



神代は集中し、すぐに動けるように構えた

「へっ!かかっ――――」


次の瞬間、神代は服の襟を掴まれ、急いでミエルの腕を切り飛ばすもハンマー投げのように投げ飛ばされる



「――――ぐっ!!!!?」



神代は飛ばされ、空中で体勢を整えようとしていると・・・

「――君~ダメじゃない、急に離れたら遊べないでしょ?」

ミエルは空中で飛ばされ続ける神代に抱きつこうとしたが、まるで壁があったかのように神代は角度を変えて落下する



ドォォオン!!!!




「躱されちゃったか・・・何で避けちゃうのかな~?もしかして・・・恥ずかしいのかしら?」

ミエルはあざとい顔で神代の方を見ており、落下した神代は少し腕から血を流しながらも立ち上がる

「っ・・・!ハッ!冗談がキツイなっ!・・・テメェの能力に決まってんだろっ!」


一方その頃、ガブリエルが設置したマイクでウリエル達は会話を聞いていた

「まさか能力の正体が分かったのですか!?」

「ふ~ん・・・」

まだ、不確定要素でしか候補が上がってなかったのを、この短期間で突き止めるなんて・・・

まるで、お師匠様のを持ってるみたいだわ・・・


ウリエルや他の天使たちが驚く中、一人黙考している狐嶺だった




神代とミエルは攻撃の手を止め、ミエルは神代の話をしゃがんで聞いていた

「・・・テメェの能力は、俺の想像にはなるが、『力』を奪う能力、それがお前の能力の正体だっ!」

ミエルは神代の答えを聞き、少し間を置き、返事する

「あら~バレちゃった・・・」

「しかも『力』は『力』でも、魔力や能力、身体能力、それだけじゃない気力や視力、抵抗力まで奪う、馬鹿げた能力だってことだ・・・奪う条件は、多分相手に触れること・・・それがお前の能力の正体・・・合ってるかは知らねぇ!!」


ミエルは拍手しながら立ち上がり、神代の方へ歩き始める

「いや~君の洞察力には驚くわ、そんなにまじまじ私のこと見てたなんて・・・!」

「誤解を・・・生むようなこと言うんじゃねぇっ!」

「アハハっ!冗談だよ~・・・大方、合っているよ?君の考察!」

ミエルは、目の前に散らばっている瓦礫を丸め、瓦礫の山に投げ飛ばす



ガシャァンッ!!!!




「私の能力は――」



― 低状地底上拳ていじょうちていじょうけん ―



ミエルが話している最中に神代は右足蹴りで顔面を蹴りに行く

「わぁっ!?・・・ととっ・・・も~せっかちなんだから~、でもその容赦なさも好きだわ」

「チッ・・・やっぱ当んねぇか・・・」


神代は警戒しながらも、ミエルの話を聞いた


「私の能力は『力奪ディプライブ』、『』に関するありとあらゆるモノを奪う能力よ♡」




力奪ディプライブ

ミエルの持つ超能力、それは『力』に関するモノを一時的に奪う能力

能力や魔力、身体能力・知力・気力・重力まで、ありとあらゆる『力』を五つまで

奪うことができる、奪う条件は、当人が「」という認識を持つことで奪える




ミエルは、突如何も無い空を触ると周りのものが落下せずに、空に浮き始める

「どう?これが私の能力、今はの「重力」を一時的に奪ったわ」


神代は地面から浮き始め、バランスが取れなくなる

「ぐっ!?」

範囲の指定まで出来んのかよ!

・・・ん?一時的に?


かなり高い所まで上がった神代は次の瞬間、地面に勢いよく叩きつけられる

「――がっ?!」

「油断しちゃダメじゃない、一時的に奪っただけよ?」


ミエルはうつ伏せで倒れている神代に近付き、耳元で囁く

「今度は、君の思考力でも奪っちゃおうかしら?」


うつ伏せで倒れている神代は落ちた衝撃で身動きが取れずにいた

「――ぐっ・・・!」

動けねぇ・・・このままじゃ・・・!

「はいっ!考えるのはそこまで!!」



― 力奪ディプライブ ―



ミエルは神代の頭に触れ、神代から「思考力」を奪い神代はパタリと倒れる

「・・・」

「あれ?抵抗しなくなったね~・・・気絶しちゃった?」



― 無識躁拳むしきそうけん ―



神代は突如として立ち上がり、ミエルの右腕をちぎり、蹴り飛ばした

「――うやっ!?」


突然のことで反応できなかったミエルは距離を離される

「動けるんだね~・・・予想外だったよ!」

『思考力』を奪ったはずなのに・・・!

直感で動くなんて、やっぱり面白いわね・・・なら――


ミエルは一瞬で神代との間合いを詰め、抱きつく

「だったら、視力と魔力を奪っちゃえ!」



― 力奪ディプライブ ―



「ぐっ?!」

神代の視界は段々と暗くなり、身体から急激に魔力が抜け、気を失った




・・・・っ・・・

・・・た・・・・




神代は意識を失い倒れ、ミエルは倒れた神代に近付いた

「いや~楽しかったわ~!君は今まで遊んだ相手の中では三番目の強さだったよ~」




一方その頃、狐嶺たちはその様子を見て口を閉じた


ミエルは、倒れ込んでいる神代に触れようとした瞬間、強い衝撃を受け、膝を地面に着く


「!?」


ミエルが周りを見渡すと、少し離れた位置に、魔力も視力も思考力も奪ったはずの神代がフラフラと立っていた

「なんで立っていられるの!?君からは魔力を奪ったはずなのに・・・!」




その頃、ガブリエルは魔力測定器を見て、あたふたしていた

「こっ、これはどういうことっスか!?」

「そんなに驚いてどうしたの?」

狐嶺はガブリエルが持ってきた魔力測定器の数値を見ていた

「魔力は・・・ほとんどない、でも測定器の数値は跳ね上がっている・・・?

どうなっているのかしら・・・?」


ミエルは立ち上がり、神代に話しかける

「普通は『魔力』を8割ぐらい奪われると、立てないほどの眩暈と脱力感がでちゃうのよ?・・・なんで、君は動けるのかな?」

「知らねぇよ、頭はあんまり回らねぇし、視界もぼやけてるし・・・でも、力が湧いてくるんだよ・・・おかしいぐらいな」


神代は、歩きながら身体を伸ばし、話を続けた

「倒れた時、何か言われた気がしたんだよ、そして気づいたら今こうなってた」



一方その頃、狐嶺たちは、神代に起きている状態が何なのか理解できずにいた

「一体どんな能力なの?・・・『闇の衣ダークフォース』?それとも別の能力なの・・・?」


狐嶺たちが考察している中、そこにナスカが現れた

「最高神様・・・!」

狐嶺以外の天使たちはその場で跪き、その場は一瞬にして静かになる

「ナスカちゃん・・・!」

「大丈夫、私は問題ないから・・・神代くんの『』は、私の知る限りでは数人同じ能力を持っているわ」


狐嶺はその言葉に驚きを隠せず、ナスカに『能力』について聞いた

「一体・・・どんな能力なの・・・?」

「・・・『覚醒』、同じ能力なのに、その人によって発動条件が全く違うの、そしてその能力を持っているのは、『十神』竜神カーヤ、そして私の二人だけだったわ」


身体を伸ばしている神代を見ながら、ナスカは話を続ける

「そして今日、神代くんは能力を発現させた・・・あの『魔王』の能力じゃなくて、神代くんの能力として・・・!」




神代は身体を伸ばし終わり、ミエルの方を睨みつける

「さっきは、やりたい放題やってくれたな・・・まぁお陰で、動きやすくなったが」

神代はゆっくりミエルの方へ歩んでいく


「・・・・フゥ」

今のミエルは、多分倒せない

俺は実力も経験も足りない・・・ならどうするか?





どうもしねぇ!!全力でる!!!!





「フゥッ!!!」

「わぁぁ・・・まだ強くなるん――――」

神代は息を強く吐くと同時に、喋るミエルを数km先の建物まで吹き飛ばす




ドガァアアアンッ!!!!




ミエルは瓦礫の山に勢いよく叩きつけられるも形を保っていた

「やっぱり、君への興味は尽きないわ・・・ふふっ――」


そこからおよそ5分、無数の攻撃を互いに繰り出し、山が崩れようが、地面が砕けようが構わず、激戦という花火が空中に散っていた



そしてそれは空の上で観測された



記録

10月26日、午前3時46分20秒、香川県にて約5分間、強い衝撃音と光を空中にて確認

上船津 風鐘の特定魔力衛生観測機「IRISアイリス」による観測データでは

「ミエル」と【人魔】「神代 諌大」による大規模戦闘によるものだと断定


追記、午前3時46分50秒、その他二体の特定魔力を確認、【災禍】千神族と思われる


追記、午前3時46分51秒、2名の戦闘により、特定魔力の消失を確認



「ハァ・・・ハァ・・・くそっ・・・!」

「ふふっ・・・君は良く頑張ったよ・・・でも、もうわかっているでしょう?」

ミエルと神代の激しい戦闘により、建物は瓦礫の山となり、地面はえぐれ、街はほぼ壊滅状態となっていた


ミエルは息切れをしている神代にゆっくり近付いていく

「君は私を倒せない・・・これが現実、君と私との間には雲泥の差があるのよ」

「・・・それが・・・どうした?・・・「実力が伴ってない」、「勝てない」から意味がないとでも言いてぇのか?・・・笑わせんじゃねぇ、やることに意味があんだよ・・・」

神代は顔を上げ、拳を強く握り締める

「・・・勝てる相手だけに・・・挑んだって、強くなんてなれねぇ・・・!」



神代は過去の出来事が頭によぎる――



頭によぎった光景は、石を投げられたり、机の教科書や筆箱をぐちゃぐちゃにされている光景だった


「いつまで経っても、弱ぇ・・・だから――」



神代の身体にあった歪な紋様の形が変わる



「――『勝つ』?『負ける』?・・・俺には関係ねぇ・・・ただ強くなれればいい!

他人のことを考える余裕なんて毛頭ない、ただの自己かもしんねぇけどなっ!!」


弱い自分になんて戻りたくはない

でも、あの時の、あの頃の時間に戻りたい・・・・




家族がいた、昔に――




一方その頃、離れた位置で見ていた、ナスカは神代の様子が変わったことに気付く

「神代くんの身体の紋様・・・前に見たときよりも濃くハッキリ見える!」

狐嶺こんれいはナスカの言動に気付き、からかい始めた

「『前に見た』?・・・へぇ~、そんな所まで・・・笑」

ナスカは頬を赤く染め、目をそらした



ミエルは余裕の笑みと喜びで、神代の前にもう一度立ち塞がる

「まだれるのね・・・最高っ!!やっぱり、君は私を楽しませてくれるわねっ!!」


「はっ!人間の意地の悪さを見せてやるよっ・・・!」




神代は右腕の拳を強く握り締め、構える

「スゥゥゥ・・・・」




― 闇の衣ダークフォース 重撃ノ型じゅうげきのかた ―


― 流龍拳りゅうりゅうけん ―


― 逆龍拳げきりゅうけん ―




― 合技ごうぎ ―





神代が動く刹那、ミエルは直感で右腕を強く固めた

次の瞬間、神代の放った合技による衝撃波で、大気が揺れ、身体の芯にも響くほどの轟音が聞こえた


その後、ウリエルたちは二人の方を向くと、ミエルの右腕は合技で跡形もなく吹き飛ばされていた


合技の余波で、ミエルと神代を閉じ込めていた結界も砕け散り、その奥の森林もなぎ倒していた


「・・・?!」

ミエルの表情は、驚きを通り越し、笑みを浮かべていた




― 合技ごうぎ 双流地砕拳そうりゅうちさいけん ―




神代は、合技を放ったあと、腕から血を流しながらも、かろうじて立っていた

「フゥゥ・・・ぐっ・・・!?」

流石に反動には耐えられないか・・・

闇の衣ダークフォース』の強化範囲を腕に集中した結果だ・・・



闇の衣ダークフォース』は本来全身の強制的な底上げ強化で、一部分を極端に強化することもできる、だがそのあとの代償は想像を絶する・・・


神代の右腕から血管がブチブチと音を立てていた

「どうだっ・・・これが人間の・・・努力ちからだっ・・・!」


ミエルは、吹き飛んだ右腕を見ながら、笑っていた

「ふふっ・・・私の本気で硬めた腕を一撃で飛ばすなんてね・・・想像を越えた強さだったわ・・・でも――」



ミエルは瞬く間に、腕を生やし、元通りにした



「残念ながら上には上がいるのよ・・・楽しかったわ!君の気持ちも十分伝わったしね」

ミエルが神代に近づこうと歩み始めると――


「――彼の傷は私が治すから、大丈夫よ・・・」

いつの間にか、神代の前に座り込んで治療をしているナスカが居た


「!?」

ナスカちゃん?

気配も、音すらも・・・

伊達に『十神じっしん』最強と呼ばれるだけはあるわね

まぁ、私もナスカちゃん相手に手も足も出なかったわけだし・・・



「ならお願いするわ・・・あっ!・・・あと少しだけ話があるんだけど」

「?」

神代は少し前に気を失い、そのままナスカの治療を受け続けていた



数分後、いつもの姿に戻ったミエルは部屋に戻され、神代は治療室に搬送された

「ナスカ様、周辺の被害状況の確認が終わりました!」

「ありがとう、もう戻っていいわ!」

笑顔で、作業をしていた天使兵たちに声をかけ、見送った


ウリエルと狐嶺こんれいは、後ろで見送るのを待ったあと、報告書を書きながら、ウリエルは呟いていた

「本当に、ナスカ様はお優しいですね・・・」

「だから着いて行くのよ、私だってナスカちゃんに救われたから・・・優しすぎるけどね」


狐嶺は浮かない顔をして、ナスカの方へ歩いて行く



天使兵たちを見送るナスカの肩をたたく

「・・・あれ?天矢あまやちゃん?」



少し離れた場所で、狐嶺は腕を組みながら話をしていた

「ミエルと何か話をしていたのを偶然見ちゃったのよ・・・あの時何を話したの?」

「・・・ミエルちゃんと神代くんは、模擬戦をやるとき、必ず約束を交わしていたみたい『負けたら相手の言う事を一つ聞く』みたい約束をね」




数時間前


「『神代くんを自由にして欲しい』・・・それがミエルちゃんの願い?」


ミエルは身体の形を変えながら話を続けていた

「そう、彼のあの執念深さ、というよりも努力かな・・・彼にどんな過去があったのかは分からないけど、今まであった人間の中では一番強かったわ、強さに執着している感じがあってね、戦いでは私の勝ちだけど、気持ちじゃ負けてるわ」


ミエルの姿は徐々に子どもの身長ぐらいにまで縮んだ


「彼の行き先が『』に向かっているようにしか思えなかったの・・・だからもっと見聞を広めて、自分自身のためだけじゃなくて誰かの為に、力を振るって欲しい・・・っていう私の個人の意見だけどね・・・笑」

自分を重ねてるわけじゃないけど、寂しそうに見えちゃったからね


ミエルはあぐらをかき、話し続けた

「だから、もっと交流を増やした方が彼の為になるんじゃないかな~ってね?」


ナスカはミエルの話を静かに聞き、切なげな顔をしていたが、思う気持ちを飲み込み話す

「・・・そうね、神代くんの為にも縛るような【作戦】をするのは私も違うと思うわ」



ナスカはミエルと話したことを狐嶺に話し、神代の為に次の行動に移ることを決める

「彼には『魔界』に行ってもらって、もっと交流を・・・見聞を広めてもらいましょう!彼が強くなることを願うなら最適の場所だわ!」








――第15話に続く

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