295:禁忌の拾い物~それをすてるなんてとんでもない~



■セイヤ・シンマ 基人族ヒューム 男

■23歳 転生者



 仮称『黒い山岳地帯』を真っすぐ下り、『廃墟の街』にまで戻って来た。

 そこでその日の探索は終わり。街から少し離れた所でキャンプを張る。


 夕食にドラゴンステーキを食べつつ、テンションが復活してきた所で改めて話を持ち出した。


 あの紫の光の柱が何だったのか、本当に″瘴気″ってやつだったのかは分からない。


 パティが見た小屋だか祠だかが、あの時に現れたものなのか、光は消えた今あるのかどうかも分からない。


 ただなぜあのタイミングなのかは想像がつく。



「やっぱ【氷晶竜】が鍵になってたのかもな」


「竜を倒した事でアレが出現したと?」


「そうなるとまさに″封印の鍵″のようですね。竜を鍵にするとは大掛かりな気もしますが」


「もしかすると【炎岩竜】もその鍵の一つだったのでは?」



 そんな話も出る。言われてみれば【氷晶竜】と同等の力を持つ【炎岩竜】がただの【領域主】と考える方が不自然かもしれない。


 じゃあ亀を倒し、【氷晶竜】を倒したから光が昇った?

 竜という″封印の鍵″は二つ開ける必要があった?


 どれも机上の空論だが、なんとなくそれが正しい気がしてくる。

 カオテッド大迷宮でしか存在しない新種の竜種が、この四階層に二体も居る。

 その不自然さに理由を求めたくなってしまう。

 まぁ【氷晶竜】はおそらく新種だろうという予想だが。



 とは言え答えなんか出るはずもなく、おそらく明日、光の地点に行っても答えは出ないんだろうな。

 何かしらのヒントがあればいいんだが。


 鬼が出るのか蛇が出るのか……なんかそう言うと倒せそうな気がするが。オーガとかサーペントだろ?



 そんなどうでもいい事を考えつつ、その日は就寝した。



 翌日、探索の八日目。

 俺たちは『廃墟の街』から火山方向に北進。例の光の地点を目指す。


 道中は『廃墟の街』までと同様に荒野が続いている。岩山や丘陵もあり、遮蔽物もそこそこ。

 出て来る魔物は相変わらずウィスプとファイアジャイアント、それに渓谷に居たヘルイーグルが飛んでくる。


 新しい所だとラーヴァゴーレムという溶岩魔人みたいのが出てきた。池のような溶岩溜まりからズルズルと。


 鳥以外は物理攻撃がほぼ効かないという俺とネネに対する嫌がらせ。

 なんでそんなのばっかなんだと悪態を吐きたい所ではあるが、理由ははっきりしている。


 この辺はもう『噴石地帯』なのだ。


 噴火を続ける火山の近くには噴石が降ってくる。

 まだ小石程度が時々パラパラという感じだが、進めばさらに降って来ることだろう。


 それでダメージを与えられたらたまらんという事で、そんな敵ばかりなんじゃないかと。

 巨人は山岳に逃げたのかもしれん。とそんな想像もしてみる。



 俺たちはと言うと、別に小石が降って来てもダメージはないのだが、念の為に誰かしらウォール系魔法を使い、それを傘のようにして一塊で進んでいる。


 もちろん長時間貼れる魔法でもないので、順番にこまめに貼っている感じ。

 <カスタム>された魔力・MPにあかせて、あとはMPポーション頼みになるだろう。

 ほどほどに頑張ってくれ。俺には応援する事しか出来ない。


 ……今度ジイナに鉄傘作ってもらおうかな。



 そうして探索も最小限に真っすぐ進む事しばし、それ・・と思しきものが見えてきた。

 どうやら光と共に消えたわけではないらしい。まずは一安心。

 最初からあったのか、光と共に出現したのかは分からないが……。


 周囲に変化は見られない。魔物も同様だ。

 【領域主】的なのが居てもおかしくないと思っていたがそれもない。


 本当に荒野にポツンとある――ただの石造りの″祠″だ。


 小さな神殿とでも言ったほうが良いだろうか。大きさは一軒家より小さいと思う。

 ドルチェの実家の商店部分と同じくらい? そう言うと怒られるかもしれないが。



 しかし両開きの金属製の扉は、何とも言えない豪華さと禍々しさ。

 建屋の大きさに反比例するような物々しい造り。

 不自然なんだがいかにも・・・・と言える、そんな祠だった。



「【氷晶竜】戦の前と同じように、全員に補助魔法をかけてくれ。水耐性はいらないが。それが終わったら防御陣形で固まれ」


『はいっ』



 全員に指示。何か嫌な予感がするからな。

 あんな現象が起きたのに静かすぎるし、この祠は不自然すぎるし、中がどうなっているのか全く分からん。


 しかし確かめないという選択肢はない。扉を開けるのは俺だ。



 振り返り、全員が防御陣形をとっている事を確認しつつ、俺は扉に両手をかける。


 ほっ……重っ! なんだこれ、鍵でも掛かってるのか? 引く感じで合ってるよな? 押すんじゃないよな?


 いや、単純に硬いだけな気がする。気合いを入れよう。



「おりゃああああ!!!」


 ――ゴゴッ



 よし! 開いた!


 ……と、喜んだのも束の間だった。



 ――ボオオオオオオオ!!!!



 開けた扉の隙間から突風のように噴き出したのは、昨日見た″紫の光″。

 それがまるで風のように水のように、奔流となって祠から飛び出して来る。

 実態のある″光″に圧され、俺は尻もちをついた。


 扉はその勢いで内側から完全に開かれた。

 しかしその中を確認する間もなく、背後から悲鳴が上がる。



「うああっ!」「……っ!」「ああっ……!」「ぐあっ……!」



 振り返れば侍女たち全員が膝を付いていた。


 攻撃された!? あの光に!? いや俺は一番近くに居たのに何ともないぞ!?


 慌てて<カスタムウィンドウ>をチェック。全員のステータスを確認する。



「――継続ダメージが入っている! 回復役ヒーラー! 回復しろ!」



 HP減少。まるで毒のように少しずつダメージを受けている。

 しかもシャムシャエルとマルティエルのダメージ量が大きい。

 回復を指示したが、天使組はろくに動けないようだ。


 何がどうなってんだと悪態を吐きたい気持ちを堪え、原因を探す。

 つまりは″光″の元。開け放たれた祠の中だ。


 そこにはただ一つのものしかなかった。


 石造りの台座に置かれた水晶玉のようなもの。

 手のひらサイズの――紫色をした魔石……魔石で今まで紫など見た事はないが。

 ともかく、それからこの光が発せられている。


 尻もちの状態から地面に手を付け腰を上げると、俺はすぐさま突貫した。


 光の奔流は今も尚続いている。まるで向かい風のような祠の中を身体を沈めながら前へ。

 台風直撃でもこうはならないだろう。飛ばされそうになるのを何とか堪える。

 左手で目を覆いながら、右手を懸命に伸ばした。



「くっそ……届けええええ!!!」



 魔石へと無理矢理に右手を近づけ――何とか<インベントリ>に入れる事に成功した。


 途端に光も風も消え、一面が暗闇に覆われる。

 俺は台座の前で膝をつき、一気に襲って来た疲れに息を整えつつ、再度<カスタムウィンドウ>をチェック。


 ……よし、継続ダメージが消えたな。



「みんな大丈夫か! 大丈夫そうなら回復! それから明かりをくれ!」


『はいっ!』



 真っ暗な中で聞こえる声は大丈夫そうだ。一安心。

 すぐにランタンを持ったエメリーが祠の中へと駆け付けて来る。



「ご主人様っ! ご無事ですか!」


「ありがとうエメリー、こっちは問題ない。一度ここを出よう」



 それから集合して全員の体調を確認した。ダメージは回復している。

 一番危惧していた天使組も問題なさそうだ。

 やっぱりあの紫の光が原因か。



「やはりあの光は″瘴気″だと思います。聖典にあった『瘴気により多くの人を害した』というのがまさに今の状態だったのかもしれないでございます」


「俺が確認した限り天使族アンヘルの二人が余計にダメージを負っているのが見えた。種族によって差が出るとかそういった記述はあったか?」


「……いえ、確かなかったはずでございます」



 じゃあ何だったんだ?

 天使組はダメージが増え、基人族ヒュームである俺はノーダメージ。

 いや、ステータス画面でHPを見られるのが俺だけだからダメージ量なんて分からないのか。


 でも一万年前は今より基人族ヒュームが多かったんだよな?

 であればノーダメージなのは分かりそうなものだが……。


 ……まさか『女神の使徒』だから? 俺が『女神の加護』を持っているとでも?


 じゃあミツオ君もノーダメージだったのか? だから先頭に立って邪神と戦ったのか?


 いやいやいや、ないだろう。というか認めたくないだけなんだけど。

 加護とか……ステータス画面にもそんなの出てこないし、相応のスキルだって持ってないからなぁ。



 一人首を振っていると考え込んでいたシャムシャエルが考察を口にする。



「しかし魔族が天使族アンヘルの神聖魔法を苦手とするように、逆に天使族アンヘルが瘴気に弱いというのは考えられるかもしれません」


「なるほど、それはあるかもな。じゃあさっきのはやっぱり魔族……いや邪神由来の何かなのか……?」


「あの台座にあった魔石のようなものは一体何だったのでございますか?」



 ああそうだ、すっかり確認するのを忘れていた。


 <インベントリ>の中身をチェックすれば脳内に表記が――







 【邪神の魂】






 …………マジカヨ。



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