289:ヒュドラマラソンという的当てゲーム


■ポル 菌人族ファンガス 女

■15歳 セイヤの奴隷



 探索の四日目、私たちは『黒曜樹の森』へと来ました。


 ここに来たのはご主人様と、エメリーさん、イブキさん、サリュちゃん、ネネちゃん、ウェルシアさんだけなので、ほとんどみんなが初めてです。話には聞いてますが。



 四階層に入ってから火山までは半分弱って所でしょうか。その右端という感じ。

 こっちは左側のように溶岩が流れておらず、溶岩溜まりもあまりないので暗めです。

 森を外から見るに、中は真っ暗で見えないですね。【黒曜樹】も黒いので余計です。



「さて、じゃあ【黒曜樹】を採取するわけだが、言った通り、何本か伐ると雑魚敵が襲ってくるはずだ。三方向から、アシッドスラッグ、シャドウスネーク、ボムバグ。伐るのは俺がやるから皆は包囲するように防御陣形のまま進んでくれ。状態異常が厄介だから決して近づかれないように、遠めから魔法で倒す事。いいな?」


『はいっ』


「そのまま伐りながら進んで五首ヒュドラまで行く。戦いたい連中には悪いがこいつ相手に近接タイマンはさせられない。雑魚敵と同じように遠距離で倒しきるつもりだから承知しておいてくれ」



 ツェンさんやラピスさんが「えぇぇ~」と言ったのでエメリーさんに怒られていました。

 ともかく侍女全員でご主人様を広めに囲むように配置に就きます。前と左右に壁を作る感じで。

 完全に陣形を保ったまま森を進むのは無理ですが、なるべくこのまま前に進みます。


 ――カァーン!


「よっと」と伐った傍から<インベントリ>に入れていくご主人様。

 確かに回収を考えればみんなで伐るよりご主人様一人の方が早いかもしれません。

 硬い【黒曜樹】の幹をスパンと一撃で伐れるのもご主人様の神器だけでしょうし。



「ん、来た。三方向からそれぞれ二〇くらいずつ」


「よし、迎撃体勢! 絶対に近づけさせるなよ! 俺伐ってるから!」


『はいっ!』



 伐り始めてまだ三本くらいなのに、もうネネちゃんが感知したようです。

 私の近くのパティちゃんが「ええっ!? もう!?」と驚いています。

 パティちゃんの<探索眼>もスゴイんですけど、まだネネちゃんの索敵範囲の方が広いようですね。さすがです。


 警戒を強め、ランタンの光を照らしていると、やがてワサワサと音が聞こえてきました。

 私の居る左側からは羽音――ボムバグってやつですね。

 当たると爆発するらしいんで気を付けろと言われています。



「<氷の嵐アイスストーム>」



 すかさず範囲魔法で迎撃。みんなからバンバンと魔法が撃たれています。

 強さ自体は他の四階層の雑魚敵よりも弱いらしく、状態異常にさえ気を付ければ倒すのは訳ないと聞きました。

 案の定、一斉攻撃で雑魚敵は消滅。こちらに被害なしです。



「よし、このまま伐りながら進むぞー、また襲ってくるかもしれないから陣形は維持なー」


『はいっ』



 どうやら一度群れに襲われて終了というわけではなく、伐採は続けながら進むようです。

 前回は一度襲われて以降は伐らずに五首ヒュドラの所にまで進んだらしいです。

 果たして伐採を続ければ何度も群れに襲われるのか、その検証も兼ねているとか。



「ついでに言えば、この規模の群れに何度も襲われるとすれば、魔物部屋以上にCP稼ぎの効率が良いんだよな。【黒曜樹】で金を稼ぎつつ、CPも大量に稼ぐとか、正直かなり美味しい」



 経験値は稼げないようですけどね。トロールキングが近くに居るから大丈夫ですかね。

 ともかくご主人様にはそんな思惑もあるようです。


 これ以上お金稼ぐ必要あるんですかね……? まぁあるに越した事はないんでしょうけど。



 そのままご主人様を囲みつつ、【黒曜樹】を伐採しつつ進みました。

 どうやら伐採を続けていた場合、リポップした群れがまた襲ってくるらしく、結局三回ほど襲われました。

 【黒曜樹】は何十本伐ったんですかね? 今ではかなり拓けています。


 迷宮の植物は魔物のリポップほど頻繁とは言いませんが、大体一~二日経てば復活するらしいです。

 ここの『黒曜樹の森』もいずれは復活してくれるでしょう。


 さて、そんなわけで意外と近い森の奥、広場になっている所に五首ヒュドラは居ました。

 博物館で蛇皮を見ているので大きさは分かっていましたけど、やっぱり大きいですねー。亀さんや蛇さんほどじゃないですけど。



「ヒュドラはミーティアな。あとは周りの雑魚を魔法で蹂躙して終わりだ」


『はいっ』



 毒はともかく酸が怖いんですよね。侍女服が溶けちゃいそうですし。

 という事でここも遠距離で一方的に倒します。



「よっ、ほっ、なるほどこれは良い相手ですね」



 珍しくミーティア様が楽しそうです。

 神器の【神樹の長弓】はご主人様の【黒刀】を抜かせば一番の攻撃力を誇ります。

 それはトロールキングであっても一~二発で仕留めるほどの威力。


 しかし五首ヒュドラに対しては一~二発では無理と判断したのでしょう。五つの頭をそれぞれ撃ち抜く事にしたようです。

 的が大きいとは言え、ヒョロヒョロ動く硬い頭。

 それを素早く狙って撃つというのはミーティア様にとってはなかなかない経験のようです。


 結局、七発を速射する事になりました。

 ミーティア様がタイマンでこれほど撃つのは初めてではないでしょうか。大抵一撃ですし。



「おつかれー。結構手こずったな」


「すみません。良い相手だったので練習感覚で臨んでしまいました」


「いや、危険じゃなきゃいいさ。当たり所が悪いとミーティアの弓でも一撃では頭を貫通出来ないと分かったしな」



 目とかに射れれば一撃で頭一つ潰せるんですけどね。

 ずれると鱗でだいぶ減衰されるようです。



「さてドロップは……【甲多頭蛇の鱗・牙】鱗は初だな。それと【強酸袋】? うわぁ……触っちゃいけないやつだろこれ」



 ご主人様の場合、かざした手を近づけるだけで<インベントリ>に収納出来ますからね。

 普通に回収するとなると、大丈夫なんでしょうか、それ?



「ユア、これ錬金で使えるのか?」


「え、えっと、使おうと思えば″魔物避け″とか″罠系魔道具″とかに使えますけど、すっごい高級品ですからもったいないですよ?」


「じゃあ展示するか? これをどう展示するか……ちょっと考えるか」



 普通の魔物の部位と違って分かりづらいですからね。

 袋のままドカンと置いておきますかね?


 今回はレアドロップ狙いで五首ヒュドラをもう一回だけ倒すという事で、リポップ待ちしてから再度同じように倒しました。

 ミーティア様は六発で仕留めました。さすがです。

 でもドロップは今までに出た【鱗・蛇皮・牙】だったので残念。【強酸袋】はレアなのかもしれません。



 ともかくそうして『黒曜樹の森』を後にしました。

 帰りがけにも少しだけ伐って、群れに一回だけ襲われました。

 やっぱり帰りでも襲ってくるんですねー。



 森を抜けた所で作戦会議。



「さてこれからどうするかだが……」



 ご主人様がぐるりを見回しながら話します。暗がりですけど。

 ここから先はどこに行っても未探索エリア。じゃあどこに向かおうかという話です。


 候補は三つ。


 まず、ここの『黒曜樹の森』に北側に見える黒い山岳地帯。『黒岩渓谷』のような感じではなく、見るからに暗い山岳です。

 おそらく階層の終点であろう火山まで続いているようです。<暗視>持ちのネネちゃんが言ってました。


 二つ目は中央部の『トロールの集落』を北側に進む。火山を目指すならば正規ルートな感じがします。

 パッと見は荒野が続いているようですが、岩や丘陵があったりと先は見えません。


 三つ目は亀さんの居た『溶岩湖』の北側、溶岩の川に沿って火山方面に北上する。

 いくつも『溶岩川』はあるのですが、主流っぽい大きな川が『溶岩湖』に続いています。

 川に沿って行けば火山に着くので分かりやすいと言えば分かりやすい。



 色々と意見が飛び交いましたが、結局は二番目、集落の先の荒野を進む事にしました。

 山岳は暗いし危険度が高そう。溶岩川は明るいけどやっぱり危険。

 荒野ならば階層の中心部に行く感じになるので、そこを拠点にして探索すればいいんじゃないかという事です。


 私ですか? 特に意見はないです。どこでも行くだけです。


 強いて言えば『黒曜樹の森』の土は植物を育てるのか気になるくらいです。

 だって黒い小石みたいな土だから農業には向かなそうなのに【黒曜樹】が生えてるんですよ? これはおかしいです。


 そんなわけで少し採取してきました。

 帰ってコゥムさんに相談してみようかと思います。


 多分【黒曜樹】が特殊なだけだとは思うんですが、もし農業にも使える土だとしたら……これは事件です。農業革命が起こります。



 おっと、一人そんな事を考えていたらみんなが動き始めていました。

 置いて行かれないように気を付けないと。



 まずは『トロールの集落』付近まで戻り、そこから北側、火山方面へと進みます。


 隊列はパーティーを意識しつつ、それぞれの先頭にはネネちゃん、アネモネさん、サリュちゃん、パティちゃんが立ち、横幅を広く取りながらのちゃんとした・・・・・・探索です。


 ある程度は拓けて見通しの良い″荒野″ですので、罠や魔法陣はほとんどありません。

 魔物はやはりトロールとヘルハウンド。溶岩溜まりの近くにはマグマスライムも居ます。

 おまけにウィスプという青白い火の玉のような魔物も出始めました。



「ここへ来てまたアンデッドっぽいのが出てきたな」



 そうご主人様が愚痴ります。

 ウィスプは三階層に居たゴースト系の魔物と同じように物理攻撃が効きません。魔法のみです。


 でも今はみんな魔竜剣やら何やら装備しているので、何かしらの魔法攻撃手段を持っています。問題なし。火属性もなぜか効くようですし。



 ……ご主人様とネネちゃんだけ魔法攻撃手段は持ってないんですけどね。



「……俺らも魔竜剣造ってもらおうか」

「……ん」



 ジイナさんとユアさん、帰っても大変そうですね。

 ご主人様用の魔竜剣とか、ユアさん緊張しすぎになるんじゃないでしょうか?



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