222:真・褒賞の席~後編~
■メルクリオ・エクスマギア
■72歳 クラン【魔導の宝珠】クラマス 魔導王国第三王子
謁見の間は謎の静けさが支配している。
これはセイヤが作り出したものではなく、父上が作り出したものだ。
この状態の父上に歯向かえる貴族など魔導王国には存在しない。
兎にも角にもこれでセイヤたちが迷宮勝負に勝った、Sランククランとしての力を証明したという事実に口を挟める者は居なくなった。
ひいては″【天庸】が【黒屋敷】により全て倒された″という根拠が出来上がったわけだ。
じゃああとは褒賞を受けるのみ……といかない所が、父上の恐ろしい所でもある。
未だ余韻の残る謁見の間に、父上の声が響く。
「……では【天庸】の話をする前に、入って来て頂こうか。あの者たちをこれへ」
「ハッ!」
入口の扉が再度開かれ、貴族や騎士団の目が向けられる。
そうして入って来たのは″五人のメイド″。
先に入ったエメリーたちと同じように、まるで軍隊のように揃った足運びで赤絨毯を歩く。
一部の貴族はメイドの一人がウェルシア嬢だと気付いたようだ。
おそらくパーティーか何かで見知った者なのだろう。
しかしここに居る経緯は知らないはず。なぜメイドなのかと。
だが一番の反応はやはり
「なぜ
神聖国の一応隣国である魔導王国でも、その姿を見た者などほとんど居ないのだから。
彼女たちは分かれたメイドたちの間を通り、セイヤとエメリーたちの間に並んで膝を付いた。
「さて、これで十九人。セイヤ・シンマよ、【黒屋敷】のクランメンバーはこれで全員で相違ないな? この人数で先日の迷宮勝負にも赴いたと」
「ハッ」
「ここに居並ぶ者たちにも私から紹介しておこう。ユグド樹界国第二王女、ミーティア・ユグドラシア姫。アクアマロウ海王国第一王女ラピス・アクアマリン姫。ウェヌス神聖国よりシャムシャエル司教。同じくマルティエル助祭。そして我が国よりロイズ・ベルトチーネ男爵が長子、ウェルシア・ベルトチーネだ」
錚々たる名前を続けて聞かされた貴族や騎士たちの動揺は激しい。
次々に襲い掛かる予想外の展開に頭が付いて行かないのだろう。
【黒屋敷】のメイドが増えたと思ったら、やれ
要人を目の前にして膝をつくか悩む貴族たちも居る。
しかし父上は無視して続ける。
「五名は
「はい」
「樹界国における不幸はディセリュート陛下より親書にて聞き及んでいる。そしてその一端には【天庸】も関わっていた。親書にはそれを解決せし『女神の使徒』様に対する賛辞も書かれていた。相違ないな?」
「はい、我が国は『女神の使徒』様のご助力により救われたようなものです」
「ふむ、私はその『女神の使徒』様にお会いした事はないが、もしお会い出来るのならば【天庸】の件を詫びねばならぬ。もしミーティア姫がお会い出来たのならば、魔導王国からの感謝の意も伝えておいて欲しい」
「かしこまりました」
……セイヤの顔がひどい事になってるぞ?
「ラピス姫よ」
「はい」
「ラピス姫は【天庸】襲撃事件の後にカオテッドに入ったと聞いた。【天庸】に関する褒賞には直接的なものはないが、先のドグラの一件にて我が国の諍いに巻き込み、迷宮勝負へと追いやってしまった。申し訳なく思う」
「いえ、とんでもございません。わたくしも【黒屋敷】の一員なれば当然の事」
「そう言って貰えると助かる。何でも聞いた話では海王国は『勇者』様が現れた時に際し、協力体制を布く事を指針としているとか」
「ええ、左様にございます」
「私は未だ『勇者』様にお会いした事はない。しかし我が国も同じ志を持つ事をこの場で表明し、それをもってラピス姫に対する謝罪とさせてもらいたい。トリトーン陛下に対しても同じ内容の親書をお送りするつもりだ」
「ありがとうございます。父も喜びましょう」
……セイヤの目が死んでるぞ? 生きろ。
「シャムシャエル司教殿、マルティエル助祭殿」
「はい」「はいっ」
「
「「はい」」
「言うまでもなく神聖国、創世教の方針は『女神の使徒』様、そして『勇者』様と共に歩む事だろう。私は残念ながら『女神の使徒』様にも『勇者』様にもお会いした事がない。しかしミーティア姫やラピス姫に言ったとおりだ。お会いできれば協力する事をお約束しよう」
「「ありがとうございます」」
……セイヤ! お前は真っ黒なのがウリだろう! 真っ白になってどうする!
「この場に居る皆の者も聞け! 今言ったとおり、我が国は『女神の使徒』様、『勇者』様とお会いしたその時には全面的に協力する事を旨とする! ―――仮にその御方に対し、我が国が害するような事があれば、南の樹界国・海王国、北の神聖国からも揃って糾弾されるであろう。害する者は国賊に等しいという事だ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」
『ハッ!』
父上は貴族を見回し、最後にベヘラタに目を止めて言い切った。
誰が聞いても「セイヤに手を出したら国賊として罰する」と分かる。
そりゃそうだ。セイヤを害すれば″親・セイヤ派″と言える南北から挟み撃ちになる。
ここへ来てようやく気付いたのだろう。
父上はとんでもない輩を呼び寄せ、その者は想像以上にとんでもない存在だったと。
そして【天庸】は倒されるべくして倒されたのだと。
「さて、
「……はイ」
……茶番がすぎるんじゃないですかねぇ、父上。
■ラピス・アクアマリン
■145歳 セイヤの奴隷 アクアマロウ海王国 第一王女
まったくとんだ狸よね、ヴラーディオ陛下は。怖いわー。
うちのアホ親父じゃ手玉にとられそうよね。
味方になるのはいいけど、外交とかしたくないわー。
ともあれ、やっとの事で【天庸】の一件に関する褒賞の席が始まる。
「まずは第三王子メルクリオ・エクスマギア、前へ」
「ハッ」
最初は殿下か。そりゃそうか。
殿下はご主人様の一歩前で跪いた。
「【天庸】襲撃時における迷宮組合員たちの陣頭指揮、そして怨敵ヴェリオに直接立ち向かい、先頭に立って民を守ったその功績は大きい。また本国への報告を密に行い、常に最新の情報をもたらせたその仕事ぶりは見事。よってその功績を称え、ここに″金珠勲章″を授与する」
「ハッ、ありがたき幸せ」
『おおお!』
どうやら相当立派な勲章らしい。
周りの貴族たちが騒いでいる。
「また、カオテッドでの
「ハッ」
これは組合員を続けていいよって事よね。
殿下が我が儘言ったのかしら。王都に居たくないって。
「続いて……【黒屋敷】の一員ではあるものの我が国の臣として個別に賞する。ウェルシア・ベルトチーネ、前へ」
「はっ」
おお、ウェルシアは個別なのね。そりゃ魔導王国の貴族なんだから当然なのかしら。
ご主人様を差し置いて先に、って言うのも変な感じだけど。
「【天庸十剣】が一人、ボルボラの手によりロイズ・ベルトチーネ男爵は逝去し、王都の屋敷も潰された。これは不徳の致す所である。その後の紆余曲折、その苦労は察するに余りある」
……ようは「ごめんなさい」って事よね。
「そしてセイヤ・シンマ率いし【黒屋敷】の一員となって尚、【天庸】に立ち向かい、メルクリオと共に怨敵ヴェリオと相対した。結果、カオテッドと我が国を救ったその功績は極めて大きい。よってウェルシア・ベルトチーネを伯爵位に
「!? あ、ありがとうございます!」
……これはすごいわね。
ウェルシアが男爵位を継いでいる事を認めたばかりか、男爵から伯爵に陞爵?
男爵からの陞爵なら普通は子爵でしょうに。
「尚、カオテッドにおける
「はっ!」
殿下が特務官でウェルシアが特務員って事は部下の扱いになるのかしら。
何にせよカオテッドに戻れるのなら良かったわね。
「続いて、クラン【黒屋敷】を代表して、クランマスター、セイヤ・シンマ、前へ」
「ハッ」
おお、ご主人様もさすがに復活したわね。ウェルシアのを見て少しは落ち着いたかしら。
反対に周りの貴族がざわつき始めたけど。
「【黒屋敷】全体の功績を見ても、【天庸】総員の打倒。それによりカオテッドの被害を最小限に抑え、魔導王国を救った功績は疑いの余地もない。またセイヤ・シンマ個人で見ても、【剣聖】ガーブ、公爵級
貴族がざわざわと五月蠅いわね。どうやら
怨敵ヴェリオと【剣聖】に加えて、公爵級
まぁ風竜と合体してたらしいんだけど、さすがに言わないみたいね。混乱必死だし。
「まずはクランマスターであるセイヤ・シンマに″輝珠勲章″を与える」
「ありがとうございます」
『おおおおおお!!!』
うっさいわよ。
どうやら話し声を聞くに、一番すごい勲章みたいね。誰も手にした事のないレベルの。
ご主人様は全く嬉しそうじゃないけど。
「加えて【
「ありがとうございます!」
『おおおおおお!!!』
おお、国宝三つ! ご主人様の返事が明らかに違うわ。
奮発したと言うべきか、当然と見るべきか。迷うわね。
「尚、先の迷宮勝負についての報酬は別とする。……セイヤ・シンマよ。【天庸】を打ち倒し我が国を救った事、誠に大儀であった。我が国は其方たちの力になり続けると約束しよう。今後も何かあれば我が国を頼るが良い」
「ハッ、ありがとうございます!」
「以上を持って、褒賞の席を終わる!」
宰相閣下の締めで終わったわね。
いや~、なかなかしんどい席だったわ。
良かったのか悪かったのか、とにかく応接室に戻って休みたいわね。
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