215:迷宮探索勝負、始まる



■ティナ 兎人族ラビ 女

■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘



 魔導王国の王都に来てから四日目。今日はいよいよ迷宮探索の日です!


 もう半月くらい迷宮に入ってないのでとても楽しみです!

 しかも入った事のない迷宮なので、ワクワクしています!



 王都の東門を出て少し進んだところに、迷宮の入口はありました。

 その手前で私たちは組合の職員さんのお話を聞きます。


 近くには対戦相手らしい男の人たちがいました。

 この人たちは【相克の蒼炎】というAランククランだそうです。十二人居ます。


 装備も良さそうですし体格も良いのですが、何て言うか、ニヤニヤとこっちを見て来て嫌な感じがする人たちです。



「おいおい、ホントに基人族ヒュームとメイドじゃねえか。これと勝負とか正気かよ」


「侯爵様も楽な依頼をしてくれたもんだぜ。こりゃ褒美は頂きだな」


「勝負するまでもねえだろうが。嘗めてんのかこれは」


「おい、てめえら黙ってろ。ぐだぐだ言ってねえで準備しやがれ。金を貰った以上、仕事・・はきっちりやるぞ」


『おお』



 何となく山賊っぽいなぁって思います。クラマスの人も山賊ボスって感じで。

 もし退治する事になったら武器とか持ち物は回収しないといけません。

 山賊の持ち物は有効利用するのがマナーって聞きましたから。



「静粛に。ではこれより国王陛下御依頼による迷宮探索勝負を執り行う。立会は公正を期す為、私たち迷宮組合が行う。勝負の内容は十日後の現時刻までの間に、どちらのクランがより深くまで探索出来たかを競うものとする」



 これは持って帰って来たドロップ品とかを<鑑定>して見分けるそうです。

 提出したのが〇〇の魔石だから〇階層まで行った証明とする、みたいな。

 ご主人様たちはその判定方法に思うところがあるみたいですけど、私にはよく分かりません。



「では、【相克の蒼炎】対【黒屋敷】の勝負を始める。準備が出来次第、探索を開始してくれ」


『おお!』



 山賊さんたちは早速とばかりに走って迷宮に突入しました。

 私たちも行きましょう!

 と、その前にご主人様から号令が掛かります。



「よし、準備はいいか? 先は長いから最初から飛ばすなよ?」


『はいっ!』


「順番は打ち合わせの通り。先頭はとりあえずネネ。エメリーは二番手に付けて地図を確認しながら進んでくれ。俺とイブキが殿だ。陣形は変えていくが狭いから注意する事。いいな?」


『はいっ!』



 よーし! じゃあ急いで山賊さんたちを追いかけましょう!

 あ、急いじゃダメなんですよね。気を付けないと。




■サンゾック 導珠族アスラ 男

■102歳 Aランククラン【相克の蒼炎】クラマス



 迷宮に入り、すぐにやつらが後ろから来ている事は分かった。

 足音で走っているのが分かる。

 俺たちに先行されたから早くに抜かしたいんだろうが、迷宮で走るなんてバカなやつらだ。


 これが早さ勝負だと言うから俺たちだって小走りなんだが、初めて入るであろう迷宮で走る事ないだろうに。焦り過ぎだな。


 おまけにチラリと見れば、迷宮の入口で見た服装のまま。

 つまりは貴族服とメイド服のまま、迷宮に入っていやがる。



「あいつら迷宮を嘗めすぎでしょう……」


「防具も付けずに迷宮を走るとか……初心者だってそれがダメだって分かるだろうに……」


「俺らを嘗めてんだよ! ふざけやがって!」



 俺の周りでクランメンバーが悪態をつく。気持ちは分かる。

 あの見た目、あの行動で″Sランク″だと言われて誰が納得するんだって話だ。

 今日初めて迷宮に潜りますって言うんだったらまだ分かる。


 しかも十九人という大所帯。

 迷宮はただ人数が多ければいいってもんじゃねえ。

 狭い通路で魔物と戦うんだから人数は絞って挑むべきだ。

 これもまた迷宮を知らない証拠。


 ドグラ侯爵はそれでも「気を付けろ」と念を押してきたが……未だ俺の中では負ける要素が見当たらない。


 とは言え、万全を尽くして勝つという計画に変更はない。

 観察はしつつ、今はまだ先行を続ける。



 しばらく進むと道が二股に分かれる。俺たちはいつもの通りに左ルートだ。



「あっ! あいつら、右に行きましたよ!?」


「えぇぇ……まじかよ、勝負になんないぞ、これ」


「終わったな。もう俺たちの勝ちは揺るがねえ」



 俺も思わず呆気にとられたが、気持ちはメンバーと同じだ。

 あいつらは地図を見ながら走っていたから、右が最短だと思って行ったんだろう。先行する俺らを無視して。


 しかしそれは大きな間違いだ。

 地図上の見た目だけなら確かに近いが、進んだ先は魔物が多く、罠も多い。


 極めつけに『魔物部屋』を必ず通る事になる。つまり右側は誰もが避けて通るルートって事だ。


 地図にも書いてあるだろうに、その上で行くというのは『魔物部屋』の恐ろしさを知らない証拠。

 もしかすると本当に初心者なのかもしれない。少しでも迷宮を知っている奴ならば左ルートに来るはずだ。


 油断するなと言われても、ここまで初心者丸出しで来られるとそれも厳しいな。

 大人数で走る、装備も揃えていない、ルート取りが出来ない。


 こりゃ下手しなくても一階層の魔物部屋で全滅だろ。もしくは数人犠牲にして撤退だ。

 そこから左ルートを追いかけて来ても、俺たちの前には行けねえ。



 まさかこんな早くに勝ちが決まるとは思わなかったな。あとの九日間、どうするか。

 ……いや、万全を尽くして確実に勝つ。それに変わりはねえんだ。

 張り合いがないのは確かだが、仕事は完遂しよう。




■ティナ 兎人族ラビ 女

■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘



 おっ、山賊さんたちが左に行きました! ご主人様が言ってたとおりです!

 じゃあここからはもう少し速くに行けますね!



「よーし、ネネー、いつも通りでいいぞー。みんなも攻撃解禁なー」


『はいっ!』



 最後尾からご主人様の声が掛かりました。

 見せている武器も今まで限られていたので、私もいつものレイピアを出せませんでした。

 イブキお姉ちゃんは魔剣をしまってましたし、ドルチェお姉ちゃんもアダマンタイトスピアを出せませんでした。


 でもここからは誰も見ていませんし、私たちもちゃんと戦えます! やっと!



 思うことはみんな同じのようで、目に見えて魔物を倒す速度が上がりました。

 通路が狭いのに、後ろからバンバン魔法が飛んできます。

 私が倒そうと思っても先に倒されちゃいます。むむー。



「ティナの動き出しより速いとは、みんなやるのう」



 隣でフロロお姉ちゃんが感心してますけど、確かにカオテッドで潜ってる時よりなぜかみんな調子が良いみたい。

 やっぱり久しぶりの迷宮だからみんな嬉しいんでしょう。


 でも本当に狭いんですよね。カオテッドの一階層と変わらないですけど、これがずっと続くらしいです。

 剣を振ることを考えると、三人並べるかどうか。

 後衛の射線をきるわけにもいかないので、やっぱり三人が限界でしょう。



 そうなると十九人も居て、攻撃できるチャンスもあまりないわけで。

 ご主人様は隊列を入れ替えるって言ってくれてますけど。

 今はみんなが攻撃したくてしょうがないって感じです。私もですが。



「こらー。テンション上がり過ぎだぞー。ちょっと抑えろー」



 最後尾から注意が入りました。


 今回は前にみんなで探索した時のように、経験値の分配とかは考えないそうです。

 だから六人パーティーとかにしないで一塊で進む感じ。CPだけ取れればいいと。


 そうなると攻撃した人に経験値が入るらしく、攻撃していない人はレベルアップが出来ません。

 レベルアップ出来ないと<カスタム>出来る余地が生まれないと。

 私もお母さんから何度も教えてもらい、ようやく仕組みが分かって来ました。


 とにかくそんな事もあって、ご主人様は時々隊列を変えて、なるべくみんなに攻撃させたいようです。


 その中でもこないだご主人様と一緒に四階層に行ったメンバーは経験値も多くもらったから、今回はあまり前に出ないように、とか言われていました。


 そう考えると私は二階層で良かったかなって思います。


 ……あんまり思い出したくないですけど。

 ……迷宮って怖いんだな、探索って大変なんだなって初めて思いました。



「ん。右端、魔法陣注意」


「ネネ、その先を左です。突き当りの魔物部屋を通過します」



 お! 魔物部屋! やっと来ました!

 カオテッドにはほぼ一階層にしかない魔物部屋ですが、なんとこの迷宮には全層に渡ってあるそうです!

 なんていい迷宮なのでしょうか! 王都に住んでる人が羨ましいです!


 さすがに全部を回るのは出来ませんが、ご主人様が選んだルートで回れそうなところは回ってくれるそうです。

 何個回れるんでしょうか。今から楽しみです。



「魔物部屋は全員で瞬殺するぞー。先に入ったヤツは奥の方から狙うようになー。魔石もさっさと拾うようにー」


『はいっ!』



 よーし、頑張って行きますよー!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る