第六章 黒の主、パーティー会場に立つ

126:カオテッドぶらぶらショッピング



■エメリー 多肢族リームズ(四腕二足) 女

■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)



「えー、皆さんの頑張りでSランクになれました! これに驕ることなくこれからも精進するつもりではありますが、今日は一つの区切りという事で皆さんと共に、喜びを分かち合いたいと思います! ではグラスを持って、乾杯!」


『乾杯!』



 私たちのクラン【黒屋敷】がSランクに上がった日、お屋敷ではお祝いとなりました。

 派手なパーティーというわけではありません。

 夕食に皆が好きなものを並べ、お酒で乾杯した程度です。


 もちろんお酒を飲めない娘も多いので、そういう娘はジュースで乾杯です。

 サリュ、ネネ、ティナ、ポル、ドルチェ、アネモネですね。

 ティナとドルチェ以外は一応成人しているのですが苦手なようです。


 特にツェンはお祝いをすると聞いてからの動きが速かったですね。

 急いで葡萄と樽を買いに行き、帰ってきたらジイナと潰すのを手伝い、ポルに発酵させる。

 もっと普段からそうして働いてくれると助かるのですが……。



「うめえっ! やっぱすげえよ、ジイナ、ポル!」


「それほとんどポルちゃんのお手柄ですから、アハハ……」


「? 私はよく分からないです」



 本当に美味しいから困ります。

 ツェンではありませんが、このワインは進みますね。

 ご主人様は他のお酒についても色々と考えているようですので、メルクリオ殿下たちを招待してのパーティーが少し楽しみです。


 お料理は、ヒイノの白パンは探索用として大量に作り置きがありますので、それを<インベントリ>から出すだけです。

 他の料理も出来合いがあるのですが、唐揚げやピザも新たに作りました。

 皆が好きですからね。すっかりご主人様の世界の料理に慣れてしまっています。


 デザートにはプリンも出しました。

 これはもうお屋敷では定番となっています。

 大量に作って、実は探索にも持って行っています。



「こんなにみんながハマるとは思わなかったな。今度また別のデザートでも作るか」


『ガタッ』



 前のめりになったのはミーティア、ウェルシア、ティナ、ヒイノですかね。

 ヒイノは新しいレシピが欲しいんでしょうが。



「パーティーやるならケーキがいいんだけど……クリームは作れてもスポンジが分からん……ん? クリーム? アイスならいけるか?」


「アイス? 氷ですか?」


「あ、かき氷もあるな。でも俺の言ってるアイスはアイスクリームって言って、牛乳と卵と砂糖で作る冷たいお菓子。バニラがないからアレだけどハチミツとかフルーツで誤魔化せばいけるんじゃないか?」



 それだけ聞くとプリンと似たような気がしますが……ちょっと分かりませんね。

 ご主人様に期待しましょう。



 そんなお祝いがあった翌日、私たちは数名でお出掛けです。

 メンバーはご主人様、イブキ、ミーティア、ティナ、ウェルシア、私です。



 まずは組合によって、とりあえず魔石や情報の報酬をもらいました。

 炎岩竜の調査などはまだ進展していないので、預けた素材の代金のみです。


 組合の中は昨日から興奮冷めやらずといった感じで、私たちを見るなり「Sランク」「竜殺しドラゴンスレイヤー」といった声が聞こえます。

 なぜか「ありがとう」と言ってくる人も居ますが、近寄る人は皆無ですね。遠巻きに言うだけです。

 もちろん「げえっ!」と逃げる人も居れば、なぜか怒っている人も居ます。これはいつもの事なので無視。


 そうして受付に行くと、かなりの金額がもらえました。

 魔石などもそうですが、情報料も多いですね。

 仮称ヘカトンケイルや炎岩竜の調査が終わっていない段階でこれですから、今後どうなるかは分かりません。


 オークションで散財したのが記憶に新しいので「おーまあまあ貰えたな」程度でしたが、冷静に見ればとんでもない金額です。

 それでまた遠巻きの組合員が騒ぐのですが、もう全部無視します。



 さて、組合でお金を徴収してから向かうのはまず南東区。樹界国領ですね。

 大通り沿いにある、いつもおなじみの服飾屋さんに行きます。



「おおっ、これはこれは【黒屋敷】の皆さん。ようこそおいで下さいました」



 執事服のような店主さんが迎えてくれます。

 もう何回も利用していますし、すっかり私たちの事もご存じのようで、ちゃんと対応して下さいます。



「こんにちは。タイラントクイーンを狩ってきたから、また侍女服をお願いしたいんだが」


「おおっ! こ、こんなに! も、もちろんお作りしますとも!」


「以前作ってもらった十四人分の侍女服の型紙は残っているか? 全員分を一着ずつお願いしたいんだが」


「ええ、ええ、もちろんございますとも。問題ありません」



 また体型を測り直しとかしないで済みそうですね。

 一応、一番成長してそうなティナを連れてきたので、念の為測り直してもらいます。



「うー、全然成長してない……」


「まだ前に作ってから二月とかだろ。これからだよ」



 どうやら以前の型紙のままでいけそうですね。

 ご主人様がティナの頭をポンポンとしています。

 まぁ多少成長しても私とドルチェがいますから、ある程度は丈を直せます。



「十四人分ですと糸袋は一つと少しで済みます。どうでしょう、余った糸袋はこちらで買わせて頂けませんか?」


「そうか、なら―――」


「お待ち下さい、ご主人様。補修用で反物が少々欲しいです。それと今後増えるであろう侍女の為に全て売るのはお控えになったほうがよろしいかと」


「お、おう」



 危ういですね。全て売りそうになっていました。

 まぁ足りなければまたタイラントクイーンを狩ればいいのですが、急を要すれば困りますからね。

 お店には一つ二つ売れば良いでしょう。


 代金を払い、仕立てをお願いしました。出来上がるのは少し時間が掛かりそうですね。

 それからお店を出て、南東区の他のお店で木材や家具なども買いました。

 <インベントリ>があってとても助かります。



 そのまま中央区には戻らず、北進して北東区へ。魔導王国領です。

 ここでは色々と買うものがあるのですが、とりあえず大通りへ。

 まずはガラス屋さんで板ガラスを買います。



「あー、ガラスケースも売ってるのか。これそのまま使えるか?」


「少し小さいのではないでしょうか。入れる物次第ではありますが」


「一応買っておくか。サイズ違いも何個か買っておこう」



 そんなに買っても使わなそうですが、相変わらずご主人様はお金の使い方が派手です。

 さすがに私たちも慣れましたが。

 大量に買ったことでご機嫌になった店主さんを後に店を出ました。



 次は魔道具屋さんですね。ここは何回も来ているお店です。

 大通り沿いの大店。

 魔道具屋さんはこじんまりした職人の店というのが多いのですが、ここは数名の職人を雇っている商店のようなものです。

 王都から買い付けも行っているそうで、品揃えは豊富です。



「おお、【黒の主】殿、いらっしゃいませ」


「こんにちは」


「Sランク昇格、おめでとうございます」


「耳が早いな!」


「はは、商売柄こうした話しは流れるのが早いのですよ。土地柄もありますし」



 カオテッドが組合員の街だから組合員の噂は流れやすいと。

 まぁ先日の組合の大騒ぎを見ればビッグニュースなのでしょうが、まさか中央区だけでなく北東区にまで及んでいるとは。

 さすが大店と言うべきなのでしょうか。



「本日はどのようなご用件で」


「ああ、風か水魔法用の杖が欲しいんだが、店売りだと物足りなくてな。これを使えないかと」


「……これは……大層な品ですね。闇魔法用の杖……でしょうか」


「リッチのドロップ品で【不死王の杖】というんだが」


「リ、リッチ!?」



 驚かれるのも無理はないですね。

 カオテッド大迷宮でリッチに苦戦していた現状は組合員がよく知ってますから、その情報は流れているでしょう。

 そして私たちがそれを倒した事は知っていても、まさかドロップ品を持ち込むとは思わなかったはずです。


 ……まぁ行き帰りで倒したので、杖は二本あるんですけどね。


 組合に渡したのも引き上げましたし。

 売るつもりがないと言ったら悲しそうな顔をしていましたね。

 【不死王の骨】と【不死王の衣】を一つ渡したので勘弁して下さい。


 店主さんは少々お待ち下さいと、慌てて杖を持って下がりました。

 店で売るような杖とは全く違うようですからね。素材やら造りやら。ジイナが言ってました。


 そもそも普通の杖のように木材でもなければ、魔石が付いているわけでもないのです。

 見た目は「木材っぽい何かのねじれた杖状のもの」という感じです。

 はたしてこれを店で改造できるものなのか、と。



「お待たせしました。調べましたが、この杖はすでに闇魔法用として完成されていると思います。これに水魔石を無理矢理取り付ける事も出来ないではありませんが、最高級の水魔石を付けても闇魔法に比べて幾分か劣る事になるかと」


「うーん、どうしようか……」



 悩ましいですね。

 闇魔法用としてはアネモネが持つべきなのでしょうが、アネモネの<鑑定>の結果、闇魔法の行使力だけを見れば【暗黒魔導の杖】の方が上らしいのです。消費や強度は優れているらしいのですが。

 とは言え【不死王の杖】も強力な杖には違いありません。

 だから水か風魔法用に改造して、ウェルシアに持たせようと思ったのですが……。



「ご主人様、わたくしはとりあえず現状でも構いません」


「そうか? じゃあ店主さん、それより魔法行使力の優れた水もしくは風魔法用の杖をどこかから取り寄せることは出来るか?」


「王都の方に掛け合って探してはみますが確約は出来ません。あっても迷宮深部の宝か、研究所で作られたとしても国宝級になりそうですし」


「それでいいから、もしあったら連絡が欲しい。買うから」


「ちなみにご予算は?」


「うーん、20000くらいか?」


「に゛っ!?」



 ご主人様、それだとサリュの【聖杖】を超えますが。

 あれもオークションだからあれほどの値段になったのですよ?

 もし普通に店で買えば一万もかからないでしょう。まぁ売っていないと思いますが。



「と、とりあえず予算上限は考えないで探してみます。仮に見つかってもそこまで掛からないと思います」


「そうか。じゃあそれで頼む」


「かしこまりました。店の威信をかけて精一杯探してみますので」


「ああ」



 これで見つかれば良いのですが。

 ウェルシアの杖だけ店売りというのも可哀想ですしね。



「じゃあ今日はとりあえず一本だけ【不死王の杖】を水魔法用に改造を頼む」


「……は? え? それをしないから探すのではないのですか……?」


「いや、【不死王の杖】は二本あって、一本は改造するって決めていたんだ」


「そ、そうですか……」



 これは来る前から決めていた事ですから。

 性能如何に関わらず、改造が出来るようなら依頼すると。

 これはジイナも腕が鳴るでしょうね。


 とりあえず店にあった中で最高級の水魔石を付けてもらう事になりました。

 シーサーペントですかね? クラーケンですかね? はたまた水竜とか?

 え? デスクリオネ? 知らない魔物ですね。


 まあ良いでしょう。ともかくこれで用件は終わりです。

 魔道具屋さんを出まして、最後は本屋さんですね。



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