54:壊されそうになるたび虚空を見つめる系少女



■ネネ 闇朧族ダルクネス 女

■15歳 セイヤの奴隷



 新しく奴隷侍女仲間になったジイナは面白い娘だ。

 見た目は私やサリュよりも若いのに、実は年上だった。

 鉱人族ドゥワルフって男は髭もじゃで年寄りに見えるし、女は少女に見える。

 それもまた面白い。


 すごく真面目な性格みたいで反応が面白い。

 屋敷の事とかご主人様の事とか、それに驚くのも分かるんだけど、受け止めるのに苦労してるっぽい。

 時々、治ったばかりの目を半分閉じて、虚空を見つめている。

「無だ、無になれ」とかブツブツ言ってる。

 面白い。


 でも鍛治が出来る仲間がいると助かると思う。

 私たちは日常的に迷宮へ潜ってるわけだし。

 武器の手入れも自分たちでもちろんやるけど、本職に見てもらった方が良いから。


 ご主人様もそう思ってジイナを買ったんだと思うけど、まさか鍛冶場まで作るとは思わなかった。

 何度見てもご主人様の<カスタム>はスゴイ。

 もはやあれをスキルと言っていいのかも分からない。

 やっぱ女神様のくれたものってスゴイんだなーって思う。刀とかも。



 ともかく鍛冶場が出来たからとりあえずジイナが試せるようにと鍛治道具を買いに北西区へやって来た。

 ここは鉱王国領だから鉱人族ドゥワルフの鍛冶屋が多いし、色々と売ってるはずだ。



 ちなみに来る前にジイナの<ステータスカスタム>も行った。

 これは見た目が変わるわけじゃないから、ジイナもあまり驚いてなかった。

 ただ<カスタム>がどういう能力かを教えて、それを理解させるのに時間がかかった。

 途中途中で虚空を見つめていた。面白い。


 鉱人族ドゥワルフの人が戦う場合は、やっぱりハンマーを武器にして前衛をやるのが多いらしい。

 もちろん剣を使う人もいれば、多少ながら魔法メインで戦う人も居るっぽいけど。


 ジイナのスキルを<ステータスカスタム>で見た結果、戦闘系スキルは鍛治で槌を使っていたからか<槌術>を持っていた。

 他には家事・鍛治・酒造りなどのスキルが多かったらしい。あとは<生活魔法>とか。

 だからジイナも前衛用のステータスになった。

 イブキと似たような感じ。



「とりあえずステータスはそれでいいとして、<鍛治>と<槌術>はカンストさせるから」


「えっ」



 また虚空を見つめていた。面白い。



 と、それが終わってから北西区に来た。

 最近は中央区で歩いていても絡まれることが少なくなってきた。

 でも他の区画はやっぱり変なのが多い。



「おい、基人族ヒュームが何でグアアアア!!!」


「メイドなんか連れてギョエエエエ!!!」


「ここをどこだとプギャアアアア!!!」



 次々に投げ飛ばされる人を見るたび、ジイナは虚空を見つめていた。

 大丈夫。

 ジイナももう投げ飛ばせるから。

 そういうステータスになってるから。


 ともかく北西区にも絡んでくる人は多いので、やたらな店にも入れない。

 って事でいつも行っている武器屋さんに行き、そこの大将に相談する事にした。



「炉しかない鍛冶場? んで必要なものを揃えたいだって? そこの嬢ちゃんが打つのか!? 鉱人族ドゥワルフの女が!?」



 と一悶着あったけど、大将は優しい人だし、私たちも常連ってことで色々と教えてくれた。

 ご主人様を普通の基人族ヒュームだとは思ってないって。

 それはまぁそうなんだけどね。


 それとやっぱり鉱人族ドゥワルフの女が鍛治をするのは普通じゃないらしい。

 ジイナは俯いてたけど、やっぱ奴隷になった経緯が関係してるんだと思う。

 詳しくは聞かないけど。



「まぁ主人が普通じゃねぇからメイドだって普通じゃなくて当然だよな。なんせ武器持ってる時点でアレだしよ。ガハハハッ!」



 俯いたジイナを励ましてるのか、本心で言ってるのか……。

 多分後者だと思う。

 鉱人族ドゥワルフの男の人はみんな豪快なイメージがある。


 ともかく大将に紹介して貰ったお店で色々と購入できた。

 槌、やっとこ、金床、ふいご、火かき棒などなど。あと大量の木炭とか。

 私にはよく分からないけど鍛治に必要なものは多いらしい。

 それらを<インベントリ>全部入れる。



「ご主人様こんなに……ありがとうございます」


「いや、鍛治は俺達全員に必要だからな。他に足りないのが出て来たり使い勝手が悪かったりしたら遠慮なく言うこと」


「はいっ」



 ジイナも買い物をしているうちに元気になったようだ。

 やっぱり自分の鍛冶場、自分の鍛治道具っていうのが嬉しいのだろう。



「それとジイナってミスリル打てるか?」


「ミスリル、ですか? 打った事はないです。あれは熟練の鍛冶師でなければ打てませんし、何より高価で見習い程度が打てるものではありません」


「そうか……」



 ご主人様が考え込むような仕草をした。



「申し訳ありません、私にそれだけの技術があれば……」


「いや、それは多分大丈夫。<鍛治>スキルは<カスタム>しておいたから打てはするはず」


「えっ」


「大量にミスリルが余ってるからさ、ジイナが自分の武器を打てたらなーと思ってな」


「えっ、大量……? ミスリルが……?」



 やたら市場に流せないほどの量が<インベントリ>にうなってるはず。

 ご主人様はジイナの武器を考えていたようだ。

 ミスリルで自作してみないか、と。


 せっかく<鍛治>スキルを上げたから試しに作ってみてくれという話しになった。

 ジイナは貴重品であるミスリルをお試しで使うことに恐縮しっぱなし。

 また虚空をみつめる展開になった。面白い。



 そうして歩く帰り道。

 広場で黒いローブを着た岩人族ロックルスの男が何やら声を上げている。



「――種族間の不和、各国で起こる争い、魔物の脅威に怯える日々、世界は危機を迎えている! 破滅への歩みはすでに始まっている! それに対して神々は何かしたのか! 救いの道を示したのか! 否、諸々の神々は傍観を決め込み救おうなどしていない! 我らの滅びを見過ごしてるだけだ!」



 道行く人はその声に見向きもしない。

 大仰に手を広げ、大声を上げているが誰も見ようとしていない。

 避けるように通り過ぎていく。



「なんだあれ」


「おそらくは【ゾリュトゥア教団】とかいう奴らだな」


「【ゾリュトゥア教団】?」



 ご主人様の問いかけにフロロが答えた。

 なんかここ数年で鉱王国の方から広まりだした宗教団体らしい。

 邪神ゾリュトゥアを信奉してるとか。



「神々は誰も救わないから、邪神の力で一度浄化してもらおう、それで世界を良くしよう、とな」


「うわぁ、それ浄化どころかむしろ滅びるじゃねえか」


「邪神が滅ぼした後に出来る世界は平和になると、そういう事らしい」


「平和になった世界に人は存在してるんですかねぇ……」



 ご主人様は呆れていた。

 私はよく分からないけど、少なくとも女神様はご主人様を【アイロス】に降ろしてくれた。

 だからあの人の言ってる事は間違ってると思う。



 それから屋敷に帰った私たちは鍛冶場に買った道具をセッティングしていく。

 新品の道具が整理され置かれていくのを見ると、ジイナじゃなくても楽しくなる。

 ご主人様は<インベントリ>の中にあった鉱石系の在庫をある程度出して置いていた。


 まぁ鉄や銀よりミスリルの方が断然多いんだけど。

 それを見たジイナがまた虚空を見つめる。面白い。


 そうして整理していると、迷宮に行っていたイブキたちが帰ってきた。

 最近はご主人様抜きで六人パーティーを組み、訓練とレベル上げ、CP稼ぎを兼ねて行く事が多い。

 ご主人様のレベルは上がらないけどCPは入るらしい。



「お疲れ、イブキ」


「ただいま戻りました。ご主人様こそお疲れさまです。戦利品をマジックバッグに入れておきましたので、後ほど<インベントリ>にお願いします」


「ああ、了解。何も問題なかったか?」


「ええ、探索自体は順調でした。ただ……」



 イブキの顔が真剣味を増した。

 迷宮で何かあったのだろうか。



「迷宮で誰かに襲われる事件があったそうです。組合が注意喚起していました」


「誰か? 組合員が組合員を襲ったのか? 怨恨か、それとも快楽殺人か?」


「不明です。襲われた方も誰に襲われたのかも分からないそうで」



 姿を見せずに襲撃したのかな?

 闇朧族ダルクネスなら可能だし、他の種族でもプロなら可能だろうね。



「どうやら最近、組合員の未帰還者が増加傾向にあるらしく、もしかすると……」


「怨恨どうこうじゃなくて無差別連続殺人か?」


「あくまで予想ですが。たまたま今回襲われたのが分かっただけで、発見されずに殺され続けていた可能性もあります」


「ふむ、とりあえず俺たちも迷宮に入る時は注意するしかないな。夕食時に改めて注意しよう」


「はい」



 ……どんな風に殺したのか興味がある。って言ったら怒られるかなぁ。



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