第40話
「レイス様。よくお似合いですよ」
使用人に着替えさせられた俺は、いつもの動きやすい格好ではなく正装だ。
いよいよ、フィーリア様が来られるからだ。
「……あまり、こういう服は好きじゃないんだけどな」
「そんなことを言ってはなりませんよ。本日はフィーリア様が来られるのですから」
使用人の言葉に、俺は小さく頷いた。
兄たちは、俺の方をみてくすくすと笑っている。
「おまえ、サイズ合ってないな」
「そんなのを着て、フィーリア様の前に出られるなんてさすが能無しだな」
兄二人が、そう言ってバカにしてくる。
……家族たちは、そうやって俺をコケにするために、この場への参加を強制してきた。普段ならば、無視されるのにな。
まあ、俺の着ている服は少し前に作ってもらったものらしく、今の自分には少しきつい。
昔と比べて体は鍛えて大きくなっているわけだしな。
ため息を吐きながら、家族たちの悪口を流していく。
そんな兄たちは、どうやらフィーリア様のことを考えているようだ。
「もしかしたら、気に入られて婚約関係になれるかもしれないからなぁ……」
「フィーリア様、まだ相手決まってないもんな。オレだって、可能性はあるだろうさ」
兄たちは、やはりフィーリア様との関係を狙っているようだ。
そううまくはいかないと思うが、そんなことを考えていると、家族たちは門の方へ視線を向けている。
……どうやら、来たようだ。
恐らくは転移石で移動してきたのだろう。護衛を数名引き連れてきたフィーリア様が、こちらへ歩いてくる。
護衛の一人に……見覚えがあるな。
アエル、だったか? ゲーム本編では元騎士団長として牢屋に捕まっていた。
というのも、フィーリア様を守り切れなかったという罪によって、牢獄に幽閉されていたはずだ。
途中で、パーティーにゲスト参加していたがあったので、顔自体は覚えていた。
それにしても、フィーリア様は……さすがの美貌だ。ゲーム本編でパーティーに加わる第二王女の姉ということもあるんだし、かなりのものだ。
そんなことをぼんやりと考えていると、フィーリア様が俺たちの前にやってくる。
すぐに、俺たちは頭を下げると、フィーリア様が口を開いた。
「顔をあげてください」
言われた通り、俺たちは顔を上げる。そして、俺の父が話し出す。
「本日はわざわざこちらまで来ていただいて、ありがとうございます」
「いえ……久しぶりにこちらでの狩りの様子を見たいと思いましたので。本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、もちろんです。フィーリア様が来られると聞いて、兵士たちもやる気満々ですよ」
いやいや、兵士たちは皆戦々恐々としていましたよ?
フィーリア様の護衛兼、悪逆の森での狩りをするというのだからその心労は計り知れないだろう。
それでいて、普段通り街の巡回や街周辺の調査、訓練など……日々の業務は変わらず行うんだからな。
特別手当でも出してくれないとやっていられないのだが、そういった気持ちを家族の誰も理解してくれていない。
「そうですか? ヴァリドー家の兵士たちは質が高いと聞いていますから。楽しみにしていますよ」
フィーリア様は笑顔を浮かべながらも、どこか探るような目つきをしていた。
……なんだか、様子が変だ。来訪に関しても突然だったし……もしかしたら、何か目的があるのかもしれない。
そんなことを考えていると、フィーリア様の視線がこちらへと向いた。しばらく、目が合うと彼女はニコリと微笑んだ。
「あなたが、レイスですね」
「……え?」
「アエルとこちらの兵団長を務めるザンゲルが知り合いでして……あなたが毎日剣に励んでいることは聞いていますよ」
「……そうなのですね」
まあ、ザンゲルも元騎士団副団長だったのだから、そこにパイプがあってもおかしくはないか。
予想外に好意的に話しかけられたため、少し驚いていた。
それは、家族たちもそうだったようだ。俺に剣を教えるように指示を出した家族たちとしては、予想外だったのだろう。
一歩近づいてきたフィーリア様が、ずいっと顔を寄せてくる。
「ぜひ、あとで、全力で! 剣の手合わせをしましょうね……!」
その声には、どこか力強さがあった。笑顔ではあるのだが、なんとも迫力があり、有無を言わさないものだ。
「か、かしこまりました……」
「本気で、ですからね。第一王女などという立場は忘れ、全力で、殺りあいましょうね……っ!」
あの、ちょっと目を血走らせないでくれます? 怖いんで。
訓練場へと移動する。
そこでは、兵士たちが訓練を行っている。
「これは……!」
アエルが驚いたように声をあげる。
兵士たちの模擬戦形式での戦闘を見ていたからか。
今日は、リームとボリル、また一部の兵士たちが参加していた。
……リームが連れてきてくれた戦力だ。リームもここで学んだことを村に人たちに指導しているそうで、その戦力はかなり底上げされているのだとか。
もうハイウルフ相手に後れを取ることもないだろうということだ。
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