02:元村娘ですが職をクーリングオフしたいです



 頭の中は真っ白。


 えっ【毒殺屋】? 毒殺? 何それ。

 私が事前に調べたジョブの中にそんな物騒なものはない。

 しかも【毒殺士】とかじゃなく【毒殺屋】? 屋号?



『へいらっしゃい、らっしゃい! 今日はいい毒入ってるよ! おっ、そこのお嬢さん、誰か毒殺してみないかい? 毒殺ならば毒殺屋! どうぞ気軽に見て行ってくんな!』



 ……違う、これじゃない。


 そんな現実逃避をしていると、目の前の神官さんが騒ぎ出す。



「おお! 固有職ユニークジョブ! 君、どうぞこちらへ!」


「ええっ!? ピーゾン何だよ固有職ユニークジョブって!」



 後ろで様子を見ていたらしいアルスとかいう小僧が五月蠅い。

 私は真っ白な頭のまま、神官さんに促され、奥の個室へと入った。

 そこで固有職ユニークジョブに関する様々な事を説明された。


 ……が、途方に暮れていた私は聞けはすれども会話も出来ず。

 頭の中では素晴らしき普通の人生がちゃぶ台をひっくり返したようにドンガラガッシャーンと崩れていくのを感じていたのだ。





 オーフェンから我が村――ファストンまでは行きと同じように冒険者の護衛付き馬車での旅路だ。

 この旅費やら冒険者への依頼料などは国が負担している。

 それほど国は『職決め』の儀を重要視していて、国民のジョブの管理に邁進しているということだ。


 そりゃそうだろう。

 国に何人【農家】がいるか、何人【魔法使い】がいるかで国政も変わって来るはずだし。


 仮に国王が「我が国は武力をもって領土を広げるぞー!」とか言っても実は国民の大多数が非戦闘職でした、なんてこともあるわけで。

 だからこそ国民のジョブ情報は神殿を通じて把握しているのだ。

 そういったわけで毎年都市の神殿に集められ、一気に『職決め』が行われているってわけだね。



「はぁ……」



 まぁ、そんな国の政策などどうでも良いのだよ私は。

 ガタゴト揺れる馬車で何度目かの溜息をついた。お尻も痛いし気分も重い。

 神殿で毒なんちゃらだとか言われてからずっとこんな感じだ。



「なぁ、なぁ! ピーゾン! ピーゾンってば!」



 隣でアルスとかいう小僧が五月蠅い。溜息の理由二つ目だ。

 こいつは私が気分を害しているというのを察知しないのか。


 社会に出るにはエアーリーディングも重要なファクターなのだよ、そう十歳男子に教えてもなぁ。理解しないだろうなぁ。アルスだしなぁ。



「教えてくれよ! お前、ユニ――ブグッ!!」



 とりあえず高速で腹パンかましてみた。

 どうやら【毒なんちゃら】の私でも【剣士】のアルスに対し、腹パンは効果があるらしい。思わぬ収穫である。

 そして腹を抱えるアルスの耳に口を寄せる。



「アルス、私が固有職ユニークジョブだって事、内緒だからね」


「うぅっ……」


固有職ユニークジョブは国が管理してるらしいから、言い触らしたら騎士さんに捕まっちゃうからね? アルス逮捕されるからね?」


「!? あ、あぁ、分かった! 大丈夫! 俺誰にも言わないから!」



 ふっ……子供なんざこんなもんよ。

 悪い事して逮捕されると脅してやれば大人しくなるもんなのだよ。

 これが大人の言いくるめ術なのだよ……!


 ったく、こやつは自分が望んだ【剣士】になったから、それもあって浮かれているのか。

 それとも世間的には″特別視″されているらしい固有職ユニークジョブに単に興味があるだけか。

 それとも単純に馬鹿なだけか。あ、これだな。考えるまでもない。



 ……さて、アルスのおかげとは言え、少しは頭が働くようになってきた。

 いい加減状況を整理しよう。

 見つめ直そう。私のこれからを。


 まず、職決め前の私のステータスがこちら。



―――――

名前:ピーゾン

職業:無職Lv10


HP:8

MP:5

攻撃:6

防御:5

魔力:3

抵抗:3

敏捷:5

器用:6

運 :3


スキル:なし

―――――



 これは誰でも自分だけに見えるステータス。何ともゲームチックでしょう。

 私が『異世界ではなくゲームの中なんじゃないか』と疑った最初の要因である。


 他人のステータスを見たり、紙に転写したりという魔法だかスキルだかもあるらしいが、ステータスを自分で見るというのは魔法ではない。この世界の人間の基本性能みたいなものだ。


 無職のまま十年過ごし、レベルは10になっている。

 が、【無職】の場合、レベルアップによるステータス増加がほとんど起こらないらしい。単純に身体的成長としてステータスが少しずつ伸びる感覚。

 ジョブによってレベルを上げる手段は異なるが、【無職】は年に一回、勝手にレベルが上がるのだ。


 HP以下の値は個人差があって、普段の生活でも多少上がったりする。レベルアップでは上がらないのに。

 と言っても【無職】の上がり幅なんて微々たるもので、敏捷と器用が多少高いのは毎日食堂のお手伝いで皿運びやらお使いやらしていたせいだろう。


 攻撃と防御に関しては謎である。もしかするとこれが十歳の少女の平均なのかもしれない。

 他人のステータスなんて知らないし比べない。お父さんとお母さんのだってジョブしか知らない。

 一応幼馴染ポジションであるアなんとかのも知らない。日常生活で教え合うものでもないのだ。



 ……で、見たくもない私の新しいステータスがこちら。



―――――

名前:ピーゾン

職業:無職Lv10 ⇒ 毒殺屋Lv1


HP:21(+13)

MP:25(+20)

攻撃:13(+7)

防御:3(-2)

魔力:10(+7)

抵抗:4(+1)

敏捷:32(+27)

器用:20(+14)

運 :4(+1)


スキル:毒精製Lv1(衰弱毒)、毒弾Lv1、毒感知Lv1

―――――



 もうね、色々と突っ込みたい。ジョブは別として。

 上がり幅に差があるのは職業補正とか何かあるんだろうけど、まず、なぜ防御が下がるのか。

 無職より紙防御とは何事かと。


 そりゃレベル10からレベル1になったから下がるのかもしれないけど、他は全部上がってるって事は職業補正が【無職】に比べて非常に高いって事でしょう。

 だのに! だのになぜ下がる防御よ! 私に死ねと言うのか!



 そしてスキルには知らない物が並んでいる。

 いや、ジョブ自体が知らないからスキルを知らないのもしょうがないけど、どれもこれも毒まみれ。

 <毒精製>って、私毒作れちゃうの? <衰弱毒>って何よ。毒に種類があるの初めて知ったわ。



 全体的に見れば、これアレだよね。


 ……暗殺者。


 素早く近づき毒で殺す、暗殺者だよね。

 もうステータス見るだけで平和な生活とは縁遠くなるんだよね。

 げんなりします。思わずアレクに無言腹パンしたくなるくらいげんなりしてます。



 ……とは言え現実からいつまでも目を背けるわけにもいかない。

 ジョブとは勝手に決められて、尚且つ変更が出来ないもの。

 派生したり上級職への転職はあっても、基本となる最初のジョブは変えられない。


 すでに決められた運命なのだ。

 戦わなきゃ、現実と。


 まずは帰ってお父さんとお母さんに報告だなぁ。

 あー嫌だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る