190.戦火遂に消ゆ!内紛終結宣言

テレレ↑国際条約紋⇔アクバル紋レー↓ヒェッ↑


 一方!北アクバル国境付近では!


 国際条約会議の使節として何故か私が任命され、かつて賑わっていた交流都市跡に降り立った。

 何でだ?私は各国の使節程の給料もらってないぞ?

 お嬢様の采配で知財の収入は大国の数倍になっちゃってるけどこれはこれで問題だ。国債買って還元してる有様だ。


 そんなことを考えつつ、飛行機使うのも勿体ないのでパラグライダーで一人で来た。寒いなあ。


 向う側、北アクバルのシェーラも、コンギスタ王国の使者も結構な軍勢だ。

『国際条約会議の使者、魔導士ザイトである。

 全権大使として調印に参上した』


 流石に一人で、しかも空から来たとあって皆驚いている。

 私はデカい荷物を色々とセットし、会見に臨んだ。


『お前一人か?』

『ああ、お前程弱虫じゃないんでな』

『ザイト様!喧嘩腰にならずに…』

『私は名乗った。その私にお前、と言ったのはそっちだ』

『…ザイト殿は、今の我らに勝てると思うのか?』

『それを見極めるのも使節殿の力量であろう?』


『我と言葉を交わす力ありと認める』

『そりゃどうも』


 こうしてやや喧嘩腰に始まった会議も、自己紹介を済ませ、条文を確認し相互不可侵条約の署名に漕ぎつけた。


 続いては通商条約だ。条文を説明し、質問した。

『私達国際条約会議は、コンギスタが平和と発展を目指すなら通商も援助も惜しまない』

 しかし。


『我々はお前達を知らない。知ってから判断する』

『賢明な判断だ』

『今は、無駄に海を越えて争いを広げない事だけは約束しよう』


 それが嘘か本当かは今後の動向を見ればわかる。

『充分だ』

『また会おう』

『迎えて貰えれば、こちらから訪れたい』

『空から来るのは驚く。止めて欲しいなあ』

『これは、失礼。ははは!』

『豪快な男だ。ははは!また会おう!』


 この使者。油断ならない男だが、言葉に嘘は無い。

 それに今は彼らは外部からの支援を必要としていない。

 アクバル占領、復興のためには、幾らでも磨り潰しても良い人材がいるのだから。


『ザイト様、我々は事情が異なります。

 北アクバルは支援を必要としています』


 そうだろうけど、知った事か。

 こいつらが当てにしている交流都市の話をしてやろう。

『かつての交流都市は、豊かなアクバル帝国の生産力あってこその存在だった。

 今や産業は愚か、成年人口を激減させ、しかも本国が他国となった北アクバルがだ。

 我々国際条約に提供できる者は何なのだ?』

『地域の安定です』


 言うなあ。だが。

『逆に言えば、国際条約の支援が無ければ、アクバル本土からの介入がなくなった今でも、北アクバル領内の安定が保てないという事、かな?』

『貴方は新たな争乱を求めているのですか?』


…嫌な感覚が私を襲った。

 この女は、被害者を装い、我々を加害者に仕立て上げようとしていないか?

 そして、加害者と呼ばれたくなければ物を与えよ、そう訴えている。


 乞食だ。詐欺師だ!

 平和と言う美辞麗句を自分の都合に合わせて使っている詐欺師だ!


 私はこの感覚が嫌いだ。

 自分に自信があり、自信がなくとも誇りと決意があれば、決して口にすべきではない、誰かに言うべきではない、乞食の論理だ。


 私が故郷で、今でも信仰している神がある。

 人間は不完全だ。欲望という罪がある。

 それを乗り越え、善に向かい、欲に溺れず、己を戒める。

 この世の真理があるなら、それに向かい続ける。

 そのための信仰だ。


 でも、他者に依存する、自らの自問自答から逃げて聖典や指導者の言葉に縋る。

 それは違う。

 人は、どんなに力があっても、どんな世界に立たされようとも。

 自分からは逃げられない。

 神の前に問われるのは、何に縋っているか、そんな物じゃない。

 信仰も決意も含めた、自分の生き方、考え方だけなんだ。


 この女に、そう返そう。


『争乱を起こしたのは誰だ?

 そもそもお前がこの内紛の引き金を引いたのではないか?

 今、後コンギスタ王国の介入で地域に安定が齎されようとしている。


 貴女が成すべき責任とは何なのか?

 それは他者に頼り切って良い者なのか?

 貴方にはこの地を安定させる責任はないのか?』


 そこに後コンギスタの使節が意見した。

『後コンギスタは、北アクバルとは戦争しない。

 しかし、支援もしないし、難民も受け入れない。

 元皇子妃よ。

 お前が国に責任を持て。

 お前が逃げたら、北アクバルは南下するだろう。

 そうすれば新たな戦いだ。


 我々は北アクバルを敵と見做し、皆殺しをも躊躇わない。

 お前があの地に責任を感じるのであれば。

 必ず、お前があの混濁の地を鎮めるのだ』


 シェーラは

『お言葉、しかと受け止めました』

 そう、苦悩の表情で答えた。


 この会談は、国際条約各国、そして受信機を持った北アクバル、後コンギスタ国内に放送された。


******


 この会談の結果を良しとして国際条約会議は一旦解散した。

 帰国した王達は皆疲れ切った顔をしていたらしい。

「もうアクバルはこりごりだー!」

 とは普段冷静なシャルマ王の心の叫び、もとい王妃達家族への叫び。

 彼、〇ーグルVのファンだった?


 実際、約束通りコンギスタは、治安を乱すアクバル残党を悉く皆殺しにしていった。

 彼らコンギスタの親族が雪崩れ込んで来たので正確な数は解らないが、元のアクバル国民400万人の内、1割は戦死、3割以上が虐殺され、1割以上が逃げて死んだか行方不明なのではないか。


 それでも後コンギスタは帝都改め王都の生活インフラを復旧し、統治を始めた。人口が半減し通商も途絶えた白地図の状態でのスタートは、異なる世界の彼らにとってはやり易かったのだろう。

 1ケ月後には帝都改め王都ナゲキーベは安定した。

 その陰には生き残りながらも酷使された元アクバル民の労働があっての事だった。彼等には次には産業復興の過酷な労働が待っている。


******


 北アクバルは再度の内紛に襲われた。

 シェーラを擁護する部族は自分だ!イヤこっちだ!と勢力争いを始めた。

 コイツら仲間割れしないと生きて行けない生き物なのか?


 かくて領都は部族間抗争の舞台となり、指導者の老人が女子供を率いて互いに争い殺し合う事態となった。

 母親が他部族の子供を刺し殺し、子供達が他部族の女達を殺し、捕え、犯す。

 領都だけではなく北アクバル全体にこの恐慌が拡散した。


 命の危険を感じたシェーラは、ある日忽然と姿を消した。

 その結果、更に部族間抗争は激化した。


 シェーラは、かつて自領だった地から逃れた、南オーキクテリアの救世教徒達に救いを求め北へ向かった。

 しかし、行き倒れた。


******


 彼女が目を覚ましたのは、瓦礫と化した街の、片隅だった。

『目を覚ましたか』

 中年の男が食事を用意した。

『お腹の子は、出て行った。哀れに思う』


 大きくなりかけた腹が、中の子を失って元に戻っているのに気付き、シェーラは大きく溜息をついた。

『望まぬ子だったのか?』

 無言で頷き答えた。


『生き延びろ』

 男は薄い麦粥をシェーラに与えた。


『神は殺せとは言っていない。

 助け合え、そう言っているんだ。

 この国全員が、一番大事な教えを忘れてしまったんだ』


 そういうと、男は…臭いで分かったがワインを煽った。


 シェーラは麦粥をすすりながら、泣いた。


******


 オーキクテリア南部に逃れた北アクバルの救世教徒の子孫達は、時折北アクバルの故郷に戻り、荒れ果てた故郷に涙した。

 そして、故郷奪回を誓い武器を手にした。


 国際条約と北アクバル、後コンギスタとの協定締結から僅か半月後に、北アクバルは旧北アクバル内救世教徒住民による攻撃を受けた。

 そして僅か10日で北アクバルの指導者達は武器を手にした平民達に皆殺しにされ、嘗ての領都に生首を晒した。

 抵抗した女子供も容赦なく掃討され、領都内は第四皇子の虐殺による死体の山の上に、新たな死体を重ねる事になった。


 救世教徒の子孫達は生き残ったアクバル教徒達を脅威と感じ、神殿へ連行し、焼き討ちした。

 こうして北アクバルのアクバル教徒は半数以上が殺戮され、南オーキクテリアへ避難した救世教徒達は故郷へと戻った。


 北アクバルという国は、僅か1ケ月も満たずに滅びた。

 領都を占領した救世教徒達はラジオで国際条約会議へ呼びかけた。

『我々、元オーキクテリアの民は二百年の時を経て我が大陸の南部を我が手に取り戻した!

 世界の友人に願う、我等に支援を!

 我が大地は残虐なアクバル教徒によって死の荒野と化した!

 大地の実りを取り戻すには10年を要する、どうかこの地に平和を齎すために救いを!』


 国際条約会議は再び招集される事も無く、

「知った事か。武装した商人に食糧を売らせればいい」

 と判断し、オーキクテリア軍に護衛を命じ、食料列車を南下させるに留まった。 


 それすらも、荒廃しきった元北アクバルにとっては救いだった。


******


 物資が元北アクバルに行き届くにつれ地域の治安は安定した。

 そして元北アクバルを支配したオーキクテリアの子孫は、この地をトリモドッタ共和国と命名し、オーキクテリアへの帰属を望んだ。


 これも国際条約会議はオーキクテリアに丸投げした。

「どうせならオーキクテリア傘下の一公国として誰かそれなりの貴族でも派遣すればよい」と放り投げられる始末だった。

 しかしオーキクテリア王エーデス三世はこれを好機と捉えた。


「あの地から異教徒の勢力が消えた今、あの地を抑える意味は三つある!

 一つは、かつての交流都市の様な、富を生み出す領地になる。

 一つは、北アクバルからの難民問題を南部領地から切り離せる

 一つは、言うまでも無く失地回復だ。異教徒を海峡の向こうに追いやった意味は大きい!」

 かくて、オーキクテリアは少ない予算の一部を割いて、トリモドッタ支援に配分した。


 彼の言う事はほぼ、正しい。

 でもね。


 交流都市。あの富の源泉は産業豊かだったころのアクバル帝国本土があっての事なのよね。

 後コンギスタ王国がその境地に達するには何年かかるだろうねえ。


 まあ、海峡都市は使える。東方航路の交易地としては使える。

 目論見の半分程度、投資した分に上乗せした位には利益を生むだろうね。

 但し石炭や石油基地を建てるのは、それなりに費用が要るんだぞ。

 ガンバレ。


 後の二つは文句なしだ。

 尤も、有力者は全員死に絶え、平民のアクバル教徒の7割も死んだとは言え、残る3割が社会不安を呼ばずに過ごせるか。

 これは戦後処理次第だ。


 エーデス三世を領都に迎えての復興宣言は、この地に新たな平和の訪れを約束した。

 更に、残っていたアクバル教徒の為、神殿を再興したのも良い判断だ。

 彼は異教徒が共存する交流都市を手本にしただけなのだが、それは正解だった。

 救世教の聖堂も建設され、総本山か派遣された司教が叫んだ。

「異なる神を信じる物を尊重せよ。

 今の大陸の平和は融和と理解によって齎された。

 生き残った者は、再び殺戮を繰り返してはならない」

 この説教は、国王と総本山で練った物だった。


 この敗北の王、地味に手堅く優秀だなあ。


******


 代表者不在のまま、各国は無電で本国と連絡を取り合いつつ、アクバル内乱終結宣言を公表する事とした。


 旧北アクバルはオーキクテリア王国傘下のトリモドッタ共和国が支配する事となり、国際条約会議は3年の安定を確認した後国際条約加盟を認める事とした。

 この国は後コンギスタ王国への国交樹立、通商成立を打診したが一旦却下された。まずは侵略性向の有無を見極めてから不可侵条約から、と判断された。


******


 シェーラは、未だ復興の手も入らない廃墟の街に居たままだった。

 しかし捨てられた街とは言え、水もあれば屋根を組み上げる廃材はあった。


『一番大事な神の教えは、助け合う事だ』

 そう言ってくれた男は、それからも行き倒れた女子供を助け、難民キャンプや兵站地に残された食料をかき集めては細々と暮らし、時には酒を手に入れて飲んでいた。


 助けた女達と夜を楽しみ、食を楽しみ、子を養った。


 そして食料列車が往来している事を知り、掻き集めた金目の物と交換し食料と酒を買い、少しづつ暮らしを安定させていった。


 ついにはオーキクテリアの提供する仮設住宅に転がり込む事が出来た。


 酒を分け合って飲み、数少ない楽しみとして持っていたラジオから音楽を聴き、一家?は人心地着いた。


 ふとシェーラは思った。

『こんな当たり前の暮らしさえ出来れば、それで良かった筈なのに』

 そして泣いた。

 悲しみとも喜びともつかない涙を流した。


 ラジオから声がした。

『臨時放送をお送りします。

 本日、国際条約会議は、旧アクバル帝国の内乱が集結した事を発表しました。

 旧アクバル帝国の領地はレジニア大陸とアクバル大陸で二分され、レジニア大陸領はトリモドッタ共和国が、アクバル大陸領は東方の遊牧民族国家である後コンギスタ王国が統治する事となりました。


 ラジオをお聞きの皆さん。アクバルの戦乱や難民流出は終わりました。

 この平和が長く続き、多くの人々が幸福に暮らせることを、国際条約会議は祈ります』


******


テレレ↑トリモドッタ紋⇔テアポカ紋レー↓ヒェッ↑


 一方!テアポカ後宮では!


「お嬢様。アクバルの戦いは終わりました」

 マッコーの報告を受けて、今は旦那様始め皆で国際条約会議の発表をラジオで聞いています。


 国際条約会議からの報告では、滅亡したアクバル帝国400万人の内、半数が死亡したとの事。

 まるで数百年前に流行した黒死病の様な、この世の地獄です。

 しかも若年男子はほぼいなくなり、更に老人、乳幼児、若年女性も激減し、残ったのは中年女性達といういびつな人口構造となったそう。

 ここにコンギスタの人達が流入したら、元アクバルの民族は混血が主流になりそうですね。


 それも歴史でしょうか。


 ぽこっ。

『あら?』

『どうした?』

『赤ちゃんが、動いた…気がします』

『そうか?そうなのか?』


 ぽこっ。

『あ、また!』

 私のお腹の中で、赤ちゃんが私に何か伝えたいのでしょうか?

 ここに、赤ちゃんがいる。

 嬉しい。幸せ。


『あらら?どうしましたか?早くお父様に会いたくなりましたか?』

 ぽこっ。ぽこっ。

『大丈夫かツンデール!』

『うふふ。大丈夫。お腹の子も、ご機嫌みたいよ?』

 何か、心配そうな旦那様の顔が、可愛らしくて、嬉しくって。


『元気な子みたい。元気に、大きく育って下さいね』

『そうかそうか。触って良いか?』『ええ!』


 ぽこぽこっ!


『おお!動いたぞ!余だ!父だ!解るか?』

『きっと解りますよ。お腹の子供は私達の話も、私達の機嫌まで解るんですって』

『そうか!ではとびっきり仲良く過ごさなければな!』

 あれ?マッコーとナゴミーがいない…

 気を利かして退出したのですね。


 それから二人、いえ三人でゆっくり休みました。

 お休みなさい、私の赤ちゃん。

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