第18話

 次々と隔壁が降下し、刑務所の周囲を閉鎖する。

 その様子を刑務官たちは呆然と見つめていた。

「敵襲か?」

「分からない。

 この刑務所にそこまでして奪還する価値のある犯人なんていないはず」

 面会を終えたばかりの仁とミーシャは状況が読めずにいた。

「ひとまずコントロール室に行って状況を確かめよう」

「あぁ」

 すでに隔壁は降りてしまった。襲撃に反応して防御機構が自動展開したのであれば、戦況を今すぐ確認する必要がある。

 二人は呆けている刑務官たちを押しのけてコントロール室に向かう。

 

――警告!警告!1時、5時、8時の方角!起動兵器出現!


 電子妖精が仁の脳内で叫ぶ。

 仁はとっさに踏みとどまると、ミーシャの手を掴んで柱の裏に転がり込んだ。

 ミーシャはそれに逆らわずに背中の羽を展開すると、仁を包む。

「逃げろ!」

 仁は叫ぶ。

 その声を、四方から現れた四脚戦車の機関砲が掻き消した。

 芝刈り機のような低い音が鳴り響き、刑務官たちの半身が吹き飛ばされる。

 霧散した肉体が、雨の様に降り注いだ。

 二人が隠れた柱は弾丸により摩り下ろされるも、ミーシャの翼が弾丸を受け止める。

「戻るしかないか!」

「扉破って!援護するから!」

 ミーシャが翼を解くと仁は走り出す。

 四脚戦車が仁に放つ銃弾をミーシャが翼で弾くうちに、足の筋肉を最大にまで膨張させた仁が「面会室に続くドア」を蹴り破った。

 吹き飛んだ扉よりも早く通路に飛び込んだ二人は、勢いのまま面会室の扉を蹴り破り、さらに刑務所の奥深くへと潜っていく。

「一体何が起こってやがる!?」

「わかんないけど、あの四脚戦車ってこの辺の警察が採用してるやつでしょ?

 さっきスキャンした限りじゃあれって自動制御だよ!」

「自動制御?

 刑務所のネットワークは外部に接続されてないはずだろ。

 ......内部からの工作か」

「とにかく武器を探さないと!」

 背後から響く壁をこじ開ける音を振り切るように、二人は檻の奥へと迷い込んでいった。


 刑務所内は死臭で満ちていた。

 自動制御の暴徒鎮圧用ドローンが空を舞い、逃げ纏う囚人たちを撃ち殺す。

 体が防弾仕様になっている囚人の中には、果敢に反撃を試みるものも居た。空中へ跳躍するとドローンを叩き落し、周囲からの弾丸をものともしない。

「ビビってんじゃねぇ!ここに居るのはションベンたればかりか!」

 その囚人の発破に答える様に、周囲の囚人たちも制圧装置を破壊し始める。

「なにか来てんぞ!」

 掴んだように見えた希望は容赦なく打ち砕かれた。

 突如、壁に長方形の線が刻まれると地に伏せる。壁の奥から現れたのは、2m級BSバトルスーツだった。BSが装備するレーザーマシンガンが囚人に向けて引き金を引くと、囚人たちが紙細工の様に舞う。

 沈黙はすぐに訪れた。

「ふーっ……ふーっ……」

 涙を滲ませるミリアの口を押えて、タキは折り重なる死体の影に隠れている。

 敵の音響センサーを避けるため、タキは接触回線でミリアに話しかけた。

『落ち着いてください。

 大丈夫です、大丈夫ですから』

 パニックになっているミリアの背中をさすると、彼女は徐々に落ち着きを取り戻した。

『いいですか、ヤツが後ろを向いた瞬間に潜航ダイヴを仕掛けます。

 いつもどうりにやれば楽勝です。そうでしょう?』

 こくこくと頷いたミリアにタキは微笑む。

 BSの駆動音と、死体を踏み潰す音が鳴り続ける。

 もう二度と家族は失わない。恐怖に折れそうなタキの心を支えているのはささやかな決意だった。

 BSが二人から背を向けた瞬間に、二人は影から飛び出す。

 指向性を持った脳波がBSの電脳に入り込み、二人のアクセスは障壁アイスをこじ開けてその制御系を焼き切った。

 BSが首を垂れると、ミリアは緊張で膝をつく。

「なに、これ。

 タキねぇ、これって一体……?」

「ミリア、バックログにアクセスしてください。

 現状を理解しましょう」

「う、うん!」

 ミリアは面会日の日程を改ざんするために仕掛けていたバックログにアクセスし、慎重にシステムに潜っていく。

 監視カメラの映像をさらい、少しの足跡も残さないように電子の海を舞うミリアは真っ青な顔で現実世界に顔を出した。

「内部からシステムが乗っ取られてる!

 命令だけ出してこっちからのアクセスは切り離されてるし、あぁもう!

 なんでこんな命令がでてんのよ!?」

 ミリアは地に両手をついて涙を流した。

「命令は一つだけ。

 建物内の人間のせん滅、だって。

 わけわかんない……っ!こわい、怖いよタキねぇ!」

「大丈夫。

 私もいますし、きっとジンさんとミーシャさんもすぐに助けに来てくれます。

 とにかく、今はキリアと合流しましょう。三人なら道はあるはずです」

 気休めの言葉を吐いて、タキはミリアを抱擁する。

 その苦悩の表情には、それでも残酷な世界と戦う意思が宿っていた。

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