1-2 少年は目を覚ます 2
立ち上がった明途は改めて、部屋の中を見渡していた。どれだけ見ても、部屋の構造が変わるはずもなく、進めというのなら、巨大な扉を押すしかないのはわかりきっていた。彼はその部屋に居続けても何もできないことは理解しているため、巨大な扉を開いた。扉は思ったよりも軽く、簡単に扉の奥を見せた。
扉を開くと、また大きな広間であった。しかし、その広間には二階に上がるための階段が正面にあり、それ以外の場所には、両開きの人二人分くらいのドアが付いていた。赤いカーペットが敷かれていて、床は大理石のようなものでできていた。彼の視界に見える二階に続く階段を上がった正面にはそこらにあるドアの二倍ほどの大きさの扉があった。一つだけ大きな扉があるのことが気になり、彼はまずはその扉に手をかけた。しかし、押しても引いても、扉が開くことはなかった。開かないというのならと、彼は素直に扉から離れた。これ以外のドアに正解があるのかもしれなと考えて、彼は扉から離れた。
近くの扉の一つを開けると、中にはテーブルと四つの椅子のみが置いてあった。それ以外には何もない。次に進む扉はそこにはないと確認すると、彼は扉を閉めた。手当たり次第に扉を開けようと考えた。いったん、入ってきた扉の戻ろうと階段を降りると、彼が入ってきたはずの扉は消失して、ただの壁になっていた。
「扉がなくなってる」
彼が扉のあったはずの壁に触れてみたが、そこは本当にただの壁になっている。前の部屋に用事があったわけではないが、脳みそが勝手に覚えている常識とは違うような気がすると感じていた。とにかく、なくなった扉を戻すことはできないため、彼は再び広間の方に意識を向ける。部屋の中の扉の数は全部で十ほどだろうか。総当たりで開いても、そこまでの労力ではないだろう。
彼は特に何も考えずに、一階の一番右にあるドアに手をかけて開く。すると、彼は中に吸い込まれるように体が引っ張られた。幸い、ドアに手をかけていた彼は、中に引き込まれることはなかったが、驚いたせいで、心臓が一瞬大きく脈打つような感覚があった。引き込まれる力がなくなり、部屋の中を見ると、そこには白いふわふわあした物が床に敷き詰められていた。自身の足首の辺りには冷たい空気を感じていた。床に敷き詰められたものに触れれば、かなり冷たく、彼の手の上ですぐに溶けてしまった。
「雪、か。これは確か、雪。なんでここにあるんだ」
彼は部屋の中に入り、雪を踏んだ。ギュッという音が足元からしていたが、その部屋には雪以外の物は何もない。彼が部屋を出ようとドアの方に視線を移すと、ドアが勝手にゆっくりと閉まっていく。彼が手を伸ばしてドアを開こうとしたのだが、彼の足は動かなかった。足を見れば、氷が足にまとわりついていて、足を引き上げることができなかった。彼は足の氷を払おうと足に力を入れて、思い切り足を上げると、氷は砕けたのだが、その間にドアは閉まってしまった。閉まったドアを開けようとしたのだが、引いても押してもドアは開かなかった。
「いきなり、閉じ込められたな。寒いし、すぐに出た方がいいのは間違いない」
幸い、彼はパーカーを着ているので、すぐに寒さで死んでしまうなんてことはないが、雪の冷気が部屋にたまっている場所で数時間も持つほどの防寒性はなかった。できるだけ早く出なければ、彼はこの場所で凍死してしまうだろう。
「いや、そうか。魔法がある」
彼はそういえば、と魔法のことを思い出していた。自分が魔法を使えることを先ほど思い出したせいで、すぐにその可能性に至ることができなかったのだ。
「魔法は魔気を使用して――」
「火よ、セフィーレ」
彼がそう唱えると、彼の前に温かな火がどこからともなく出現していた。その火が周りの雪を溶かしていく。床に敷き詰められていた雪が解けて、足元が水浸しになる。雪の下は木製の床で、床の木が水を吸収していく。ある程度雪が解けると、扉が勝手に開いた。多少水が広間の方に流れていったが、彼は特に気にせず、その部屋から出た。
彼はただ、十ある扉を開くだけではないのかと理解した。ただの部屋を十回るだけなら、簡単だと思ったが、全ての部屋に罠があるとすれば、簡単な話ではないことを理解した。さらに今は、魔法を使うことができることを思い出せたため、どうにか抜け出せたが、魔法を使えなければあの部屋で死んでいただろう。つまりは、他の部屋にも命に係わる罠が仕掛けられている可能性があるのだろう。
彼は多少、ドアを開くことに不安が生まれたが、何もしなければ抜け出せないことはわかりきっていたため、雪のあった部屋の隣のドアを開くことにした。
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