第20話 【陽奈】部長の本音

ダーツバーのドアを開けて入ってきたのは、寡黙で無口な私の上司、神山部長だった。


「えっ、部長!!??こんなとこに、ひとりで???」


奏多さんも「マジで!?」と驚きを隠せない様子だ。


部長はカウンターでビールを頼み、今までに見たことのないような楽しそうな顔をして、ダーツの方に向かってきた。


「神山部長!!」

私は驚いて声をかけた。


部長は、急に飛んできたボールを避けるような勢いでビクッと驚いたかと思うと、豪快な大声で笑い出した。


「沢崎くんと藤原くんじゃないか!!ダァッハッハ!!!」


いつもしかめっつらの普段の姿とのギャップがすごすぎて、私も奏多さんも目が点になった。


「いやぁー、こりゃまいった、こんなとこで会うなんてね。もうこりゃ、隠し切れないな。俺は、この店の常連なんだよ〜。君らは?」

「私は今日奏多さんに教えて頂いて、初めて来たところなんです。部長、ダーツがお好きなんですか??」

「ダーツもそうだが、この店の雰囲気が好きでね。なんだかパーッと楽しい気分になるんだよ。古き良きアメリカな感じがまた、なんとも。くぅーっ!」


別人のような部長に戸惑いつつも、奏多さんは部長にダーツをすすめた。

「部長もいかがです?」

「いいのかい、おじゃまして。じゃあやるかな。ほっ!!!」

頭にはちまきでも巻いていそうなテンションの部長は、くるりと回転して矢を放ち、その矢は見事ど真ん中に命中した。


「神山部長!!!天才!!!!!」

「ノンノン、こんなの序の口よ。」

部長は残りの2本を、鼻歌を歌いながら、後ろ向きで軽々と真ん中に命中させた。


ノリノリでダーツを命中させる部長に、近くにいたお客さんまでが歓声を上げ拍手をした。



「部長にこんな一面があったなんて、私本当にびっくりです!!!最高です!(笑)会社でもこのキャラでいてくださいよ!」

部長への恐怖心などすっかりなくなった私は、部長のジョッキにグラスをあわせた。


「いやぁ、こんな姿では、威厳が保てないではないか。会社では、厳格な上司でいたいんだよ。」


「私、こっちの部長のほうがいいです!」


「部長、僕もです!」

奏多さんは口を真一文字にして敬礼のポーズをした。


「楽しんでくれるのは嬉しいけど、オンオフはわけたいからねぇ。だいたい、おれは、子どももいないから、君たちくらいの若い子と、何を喋ったらいいのかわからないんだよ〜。」

ヘラヘラしながら部長が言った。


私の事を嫌っていたから喋らなかったわけじゃなくて、何を喋ればいいかわからなくて無口だったんだ。。。。

安心したような、びっくりしたような。


「部長、現在のままの会話ならまったくなんの問題もありませんよ。」


「それに、今まで秘書さんなんかついたことなくてさ、なんか恥ずかしくて、何を頼めばいいんだか」


「部長じゃなくてもできる仕事を、どんどん私にふって頂ければいいんですよ!」


「そうかぁ〜、月曜から仕事を振れるように頑張るよ。まあ、今日はせっかくだし、おれがおごるから、3人でいっぱい飲んで楽しもうじゃないか」



3人はグラスを片手にとった。

「乾杯!!イェーイ!!!」





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