第6話 【奏多】目と目が合う、ただそれだけで
最近、陽奈と目が合うようになった気がする。
いや、気がするではなく、コンビニのガラス越しに、完全に目が合うようになった!!
俺が陽奈を見つめすぎていて、気づかれてしまったんだろうか。
陽奈は、俺の顔を覚えてくれたんだろうか。
俺が同じ会社にいるって知っているんだろうか。
ともかく、毎朝、俺が陽奈を見て、陽菜が俺を見る。その一瞬のために、俺は今生きている。
あ、ちなみに第一話のタイトルをうっかり読み間違われそうなので念を押しておくが、俺は、「童貞SE」ではなく「童顔SE」である。
年齢の話になると、ほぼ確実に、実年齢より何個か若くみられるし、飲み屋のオネエ様達からは「可愛い」って言ってもらえる顔である。
さて、やっぱり陽奈ともっと近づきたいわけだが、俺の業務では8階のメンバーと接点がないため、用もないのに8階にいくのも怪しまれる。だいたい、陽奈のスペースには俺の苦手な神山部長がいるから、やすやすと声をかけにいくこともできない。
どうしたものか。
俺はタバコは吸わないから、喫煙室をウロチョロするわけにもいかないし、そもそも陽奈はタバコとか吸わなそうな顔だ。
そうだ、そういえば他の秘書さんの定時は17:45だったはず。
陽奈もきっと同じ時間だろう。入社したばかりで、残業もあまりないだろうから、その時間に玄関にいたら帰宅する陽奈に会えるのではないだろうか。
われながらいい考えだ。
ちょうど、俺の勤務も17:45から15分間は休憩時間だから、コンビニに飲み物を買いに行くふりをして玄関にいればいい。
17:45のチャイムだけを楽しみに、俺は1日仕事を頑張った。
そして、チャイムと同時に、財布を握りしめて階段をかけおりた。
1階につくと、エレベーターの表示はまだ10階になっていた。
まだ誰も降りてきていなそうだ。
俺はスマホをいじるふりをしながら、玄関で陽奈を待った。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
仕事を終えた社員や、コンビニにいく社員が俺を横目にビルを出ていく。
さっき出て行った仲村さんが、コンビニから戻ってきた。
「奏多、お前さっきからこんなとこで何してんの?」
「えっ、いや、その、別に‥ちょっと涼もうかと」
「は?中の方が涼しくね?」
しばらく間をおいて、仲村さんがニヤリとした。
「‥あ、お前、さては誰か待ち伏せしてんな??」
「ウッ!」
ギクっとして、思わず心の声がもれてしまった。さすが、社内結婚の仲村さんは鋭い。
「ダハハ!マジか。ま、社内は別れた時が大変だけどな。ま、頑張れよ」
そういって仲村さんはビルに戻っていった。
18時になったが、結局陽奈は降りてこなかった。残業しているのだろうか。
休憩時間も終わってしまったので、仕方なく仕事に戻ることにした。
玄関にずっといるのでは、社内の人にも怪しまれる。別の策を練らなくては。うーむ。
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