本編

第4話 【陽奈】恐怖の視線

しばらく無職だったのもあり、私は朝食をとる習慣がなくなっていた。

昼前に起きて、食べてからハローワークに出向き、夕飯は買って帰る生活だった。


しかし、朝から仕事をすれば腹も減る。

というわけで、毎朝きちんと朝食をとろうと思い始めている。


だが家でゆったりと食べるほどの時間はないので、早く会社にいって自席で食べてから仕事を開始したい。

神山部長は嫌な顔をしそうな気もしなくはないが、他の社員さんは普通にパンとか食べているから、たぶん大丈夫だろう。


というわけで、ビルの向かいにあるコンビニに寄ろうと思うのだが、コンビニに向かうと、毎日スーツ姿で立ち読みをしている若い男性が眼鏡越しに怖い顔をしてこちらを見てきて、少しぞっとする。

通勤時間ではないのだろうか?朝早くに毎日何を読んでいるのだろう。


その人の目線が怖いので、私は今日も、買い物をせずに会社に向かった。


今日は、神山部長の外出に同行する日だ。

4駅ほど離れた支社にいる別の部長に書類を届け、お昼は街中で食事をした。


せっかくのランチタイムだが、神山部長はずっとしかめっつらをして、必要最低限のことしか話さない。

私も、そんな部長に萎縮してしまい、あまり会話できずに店を出た。

支払いは、神山部長がスムーズに行なってくれた。


正直、神山部長が秘書に何を求めているのかよくわからない。仕事中の指示も、稲田副部長からがほとんどであり、外出に同行しても、ご覧の通りである。

とりあえず、嫌われてはいないんだろうけれど、どうにもやりずらい。

気さくな稲田副部長となら、楽しく話しながらランチができそうなんだけどな。


そんなことを考えながら会社へ戻った。

喫煙室へいくと、2階の秘書、恵(めぐ)がいた。ふたりともアイコスユーザーである。

「陽奈!どう、いい人みつけた??」

恵は恋バナが大好きである。

「恵こそ、彼氏とうまくやってんの?」

「うち?うちは、うん、まあね。」

人のことは根掘り葉掘り聞くわりに、自分の恋バナは秘密にしたがる。

「陽奈、4階の仲村さんってわかる?」

「女性のエンジニアの?」

「そう、あの人、同じフロアの仲村裕太さんと夫婦なんだよ!」

「へぇ!そうなんだ!」


正直、男性の仲村さんがどんな人か知らないし、女性の仲村さんも顔がわかる程度なので、どうでもよい話しだが、恵はこんな話が大好きである。


「陽奈も早くいい人見つかるといいね!」

「そうだね、早く見つけたいわあ。」


私たちは、喫煙室をあとにし、フロアへ戻った。







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