第14話:鑓三郎次郎

天文16年2月22日:三河幡吉良大浜:前田慶次15歳視点


 前回襲って来た敵は、油ケ淵を渡って来た西条吉良家の武将達だった。

 今回襲って来た敵は、狭い高浜の陸地沿いに来た松平家の武将だった。


「我こそは三河福釜の松平三郎次郎親次なり、荒子の黒鬼に一騎打ちを申し込む!」


「若、あの男は松平家でも有名な武将です。

 鑓三郎次郎と呼ばれるほどの槍の名手です。

 松平家の一門で、福釜松平家の2代目当主でもあります」


 俺の横に馬を寄せた奥村次右衛門が教えてくれる。


「一騎打ちを申し込んでいるが、何か罠があると思うか?」


 甲賀で鍛えられているから、罠を見破る眼はあると思うが、念のために聞いた。


「いえ、私には罠があるかどうか分かりません。

 お~い、罠が有るか確かめろ!」


「おのれ、武士が正々堂々と一騎打ちを申し込んでいるのだぞ!

 罠を仕掛けるような卑怯な真似はせん!」


 まあ、いい、罠があっても力で破ってしまえば良い。

 だが、特に何の利もないのなら、罠が仕掛けられているかもしれない一騎打ちにを受ける気はない。

 

「兵も集められない未熟で無能な領主が、卑怯や堂々と言って一騎打ちを申し込んでも、受けなければいけない義理はない。

 多くの兵を持ち、普通に戦えば勝てる俺が、一騎打ちを受ける利は何だ?

 何の利もないのなら、このまま合戦に持ち込んで皆殺しにしてやるぞ!」


「武士が一騎打ちを申し込まれたのに利がないから断るだと?!

 それでも加納口の黒鬼と呼ばれる武将か?!

 大浜城を独りで落とした鬼神と言うのは嘘か?!」


「ふん、お前こそ、それでも城を預かる武将か?

 家臣領民を守る武将ならば、少しでも多くの利を手に入れて、家臣領民に豊かな暮らしをさせるものだろう!

 武者働きだけで名を挙げたいのなら、城地を捨てろ!」


「うぬぬぬぬ、好き勝手言いおって、死にさらせ!」


 舌戦は俺の圧勝だな、見境を無くした鑓三郎次郎が突っ込んで来た。

 一撃で殺してしまっても良いのだが、殺しても扶持は増えない。

 

「愚か者、死ぬのはお前だ!」


 鑓三郎次郎の異名が有るとは思えないくらい遅い槍の一撃を払いのけた。

 馬上で大きく姿勢を崩した所を、殺さないように手加減して張り倒してやった。

 一撃で気を失ったので、そのまま捕らえた。


「お前達の大将は、大言壮語したのに張り手1つで気を失った。

 このような大将についていても、無駄死にするだけだぞ。

 俺の家臣になれ、俺ならお前達を無駄死にさせない。

 必ず勝って良い思いをさせてやる、俺に仕えろ」


「我らは殿に命を預けている、殿の真っ正直な所が好きだ。

 殿の為なら命を捨てても惜しくはない!」


「そうか、そこまでこの男が大切なら城を明け渡せ。

 城を明け渡したら、殺さずに引き渡してやる」


「おのれ、人質を取って城を要求するのは卑怯だぞ!」


「ふん、兵を集められない無能が、一騎打ちだ、卑怯だと喚き散らして、此方に何の利もない一騎打ちさせる事こそ卑怯だぞ!

 しかもその一騎打ちを前にした舌戦で負け、卑怯にも不意を突こうとした。

 卑怯な不意討ちをしたにもかかわらず一撃で捕虜になった。

 それを殺さずに捕らえてやったのだ、恩に感ずるべきではないのか?」


「うぬぬぬぬ、言いたい放題言いやがって!」


「お前独りでこいつの生死を決めても良いのか?

 他の者達の話を聞かずに、こいつの生死を決められるだけの身分なのか?

 こいつの妻子に確認もせず、城明け渡しを決めるのは、こいつに成り代わって城主に成ろうとしているからではないのか?!」


「ちがう、殿に代わって城主に成る気はない!」


「口ではなく行動で証明しろ!

 こんな所でグダグダと文句を言っていないで、城に帰って話し合え!

 ただし、こいつの妻子を脅かすなよ。

 脅かして城を我が物としても、俺が攻め取ってやる。

 逃げても地の果てまで追いかけてぶち殺す!

 お前達も良く見張っていろ、油断したらこいつが城を乗っ取るぞ!」


「うぬぬぬぬ、儂は殿の忠臣だ、命を捨ててお仕えしている!

 奥方様や若様を騙して城を乗っ取ったりしない!」


「よく言う、さっき城は明け渡せないと言っていたではないか!

 こいつの命よりも、城の方が大切だと言ったばかりだ!

 同輩を騙そうとしても無駄だ、こいつに騙されるな!

 いや、お前達もこいつの仲間か、この機会に城を乗っ取る気か?」


「馬鹿を言うな、俺は殿の忠実な家臣だ!」

「そうだ、俺達は殿の忠実な家臣だ、城よりも殿の命の方が大切だ!」

「俺も城よりも殿の命の方が大切だ!」

「こいつが城を乗っ取らないように見張る、城を引き渡すように奥方様を説得する。

 だから殿を殺すな、絶対に殺すな、必ず城は明け渡す」


 思い付きで脅かしてみたが、上手く行きそうだ。

 城攻めはどうしても多くの死傷者がでてしまう。

 ようやく集めた足軽達を無駄に死傷させたくない。


 城は欲しいが、できれば味方の犠牲なしに手に入れたい。

 できれば城も無傷で手に入れたい。

 無傷で城を手に入れられたら、兵を入れて直ぐに敵襲に備えられる。


「分かった、お前達が約束するなら、こいつは殺さない。

 殺さないだけでなく、俺に忠誠を誓うのなら家臣にしてやってもいい。

 城に帰って、こいつの妻子と話し合え」

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