第39話 ブロッサの御神酒
「ふんっ、やってしまったものは、もう取り返しはつかん」
「やっぱり、そうなるのよな」
目の前にいる毒々しい蛙は、堕天使に幾重にも封印を施し続けた精霊。ダンジョンに精霊を連れて帰るには、契約が必要となる。
しかし問題となるのは、毒の精霊と契約してしまえば、堕天使からは間違いなく敵認定されてしまう。
だが俺の手には、しっかりと感触が残っている。封印されていた堕天使ワキザーガの頭部の、それも右目を魔剣ユリシーズで貫いた感触がしっかりと!
咄嗟の判断だったが、相手は封印されていた堕天使。天使の中でも、上位の力を持つ熾天使。その熾天使が堕天使となれば、熾天使以上の力を持ってしまう。
得たいの知れぬ悪しき者が力を与えた元熾天使と、なかなか加護を与えてくれない神々の手下の熾天使。
だから、堕天使は熾天使にとって脅威となる。少しでも力をつける前に叩かなければ、熾天使以上の力を身に付けてしまう。
「堕天使って強いよな、ザキさん」
「そんなこと、聞くまでもなかろうが」
体と頭部を分断されても存在を保ち、殺すことが出来ずに封印された存在が、弱いわけがない。
もちろん、魔剣ユリシーズであっても俺なんかの攻撃で殺せるはずがない。それに魔剣ユリシーズは、負けたことがない熾天使ユリシーズの愛剣であって、常勝ではない。それが、魔剣といわれる由縁でもある。
無傷で残っている左目で、顔も姿も見られている。当たらず障らずをモットーとしていたが、俺らしくない判断だった。
そして疲弊したセイレーンを抱き抱えるブランシュの姿も見られているだろう。
「ブランシュ、どうする?」
ひしひしと感じる、蛙姿の精霊の期待した眼差し。何の疑いもなく、俺達と一緒にダンジョンに行けると思っている。
「ブロッサが、強い力を秘めているのは分かるわ。これが本当の姿じゃないんでしょ」
力の強い精霊ならばヒト型になるが、今は力を使い果たし蛙の姿。セイレーンも力尽きる寸前だったが、それは毒の精霊ブロッサも同じ。
「ボクは、役に立つゲロ」
「ダンジョンにも湖はあるの。でも、毒に満たされた湖の方が、あなたの回復も早いんじゃないのかしら?」
「そうだな。この湖に近付く者なんていない。出来たばかりのダンジョンより、こっちの方が安全だろ」
ブランシュは俺とは違い、毒の精霊ブロッサの回復を最優先に考えている。
俺は、単純にあまり関わりたくない。コイツも力を秘めている。崩壊したダンジョンの生き残りを集まれぱ、その先に待つ未来は同じことの繰り返しになる。
考えは違えど、俺とブランシュの意見は、毒の精霊をここの残すことで一致している。
「毒の精霊が、毒が好きな訳じゃないゲロ。この湖の水は美味しくない。ダンジョンの綺麗な水の方が好きゲロ」
「はあっ、そんなことがあるのか?」
「嘘つく必要なんてナイ」
「でもな、ダンジョンの中の水が、納得いく保証なんてないぞ」
「大丈夫、熾天使のハロの光を見れば分カル。ダンジョンの水は美味しいゲロ。それに、これは役に立つハズ」
俺が渋っているのを見透かしている、毒の精霊ブロッサがニヤリと笑うと、試験管に入った透明な液体を見せてくる。この湖の水とは全く違う、無職透明な液体。
「これがあれば、瘴気を祓えるゲロ」
鑑定眼スキルで見えたのは御神酒。堕天使の瘴気を祓う手っ取り早い方法は、神々の加護を得ることだが、気紛れな神々は簡単に加護を与えてはくれない。
必要なのは、神饌を捧げること。そして、幾つかある神饌の中でも、最も価値のあるのが御神酒。等級によってランク分けされ、その中でも最上位の特級酒。
国が厳重に管理し、神々に捧げる以外には使われることのない酒。それを、今ブロッサが持っている。
「それで、どれだけの加護が得られるんだ」
「これを作れるとしたら、どうするゲロ」
「仕方がない。ブランシュ、コイツをダンジョンへ連れて帰ろう」
「コイツじゃない、ボクはブロッサ!」
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