ダンジョン構築編

第17話 黒子天使の鑑定眼

 出来たばかりの第13ダンジョン。ゴセキの山から戻って一週間が経つが、予定通りに順調に遅れているとういうヤツだ。


 第6ダンジョンから避難した黒子天使達も7割程度は戻ってきている。他のダンジョンなら逃げ出して、野良の黒子天使になる者も多い。だから、第6ダンジョンはそれなりに仕事環境が良かったことの証しでもあり、嬉しくもある。


 何とかダンジョンを稼働させる、最低限の人員は揃った。だが、肝心の魔物が居らず、全くの進展がない。


「先輩っ、やっぱダメっす。東のゴブリンも、俺達を見たら逃げちまいますよ」


「仕方ない、まだ南側が残ってる。可能性がない訳じゃない」


「でも南のゴブリンは、ゴブリンの中でも最弱種っすよ」


「それでも、ゴブリンには変わりないだろ」


 ダンジョンは、冒険者の生命力を吸ってこそ成長する。だから、冒険者を殺してはならない。程よく、冒険者を傷つける、そんな魔物が求められる。

 だが、ダンジョンに居る魔物は、古代竜ザキーサに、自称妻兼お目付け役のレンファとリリカ。遥か遠くに、地竜ミショウが大きな体を縮ませて丸まっている。


 それだけでも、以前の第6ダンジョン以上の戦力。ダンジョンの魔力を消費するには申し分ないが、如何せんオーバースペック過ぎる。あくまでも、ここは出来たばかりのダンジョン。相手にするのも、駆け出しの冒険者なのだから。


「はあっ、それにしても役に立たない。大は小を兼ねない。大は大でしかないんだ」


 ヒケンの密林の中で、溢れる程いるゴブリンやコボルトといった下位の魔物。そんな魔物を、渇望する日が来るとは思わなかった。


「でも、どんな手を使っても人手を集めろって言ったのは先輩っすからね」


「分かってるって。だから、それ以上は言うなって」


 トレント爺が、ヒケンの密林にかけた大号令。ドライアドのラナの復活を知らせ、それ知ったヒケンの密林の精霊達が、大挙としてダンジョンに押し掛けてきた。

 精霊が押し寄せる程に、ダンジョン周辺からは魔物達が逃げてしまう。


 そして、下位の魔物スカウトに破格の条件を出したのが、さらに悪手だった。


 1日8時間労働、完全週休2日。3食賄い付き。有給制度に福利厚生施設、社員旅行もある。


 上手すぎる話は、よりダンジョンを警戒させた。今ではヒケンの森の魔物は、黒子天使を見ただけで逃げ出してしまう。


 今までのやり方は一切通用しない。だからといって、他の有効な方法なんて簡単に思い付かない。


「あっちは、相変わらずだよな」


「ああっ、ザキさんすかっ」


 俺達の目の前で、呑気にブランシュからクッキーをもらっている。何故か、ザキーサは皿に入れられたクッキーを嫌がり、ブランシュから1枚ずつ出されたクッキーを食べている。


 意外なことにレンファもリリカも、それを黙って見守っている。嫉妬や妬みはなく、喉を鳴らし待っている。ザキーサだけでなく、ブランシュのクッキーは竜族を虜にしている。


「吉備団子っすよね。まだまだお供を増やせるかもっすよ」


「んっ、マリク。今、何て言った」


「えっ、冗談っすよ冗談」


「いや、あながち間違ってないかもしれない。熾天使のつくったクッキー。俺の鑑定眼で全てを見抜けなくて当然だ」





 ヒケンの密林に仕掛けた罠。たった1枚のクッキーを置いただけなのに、そこにゴブリンが吸い寄せられてくる。


「なあ、俺達のダンジョンで働かないか? お前には才能がある。俺の鑑定眼を信用してみないか」


「うっ黒子天使の罠ゴブか。怪しげなダンジョンになんか、絶対に行かないゴブよ。今までだって、最弱って散々バカにしてきたゴブのに」


 しかし、ゴブリンの目はクッキーに釘付けとなり、体はジリジリとクッキーに寄っている。頭では分かっているが、体は全く逆の反応を示している。


「うっ、うっ、卑怯ゴブ。体が言うことを聞かないゴブ」


「旨そうだろ。ダンジョンに来れば、もっと食べれるぞ。それに強くなれる」


 遂に誘惑に負けた、ゴブリンはクッキーに飛び付く。


「うっ、うっ、オラ、ダンジョンで働きたいゴブ。でも、最弱の扱いは嫌ゴブ。強くなりたいゴブ」


「任せておけ。お前は選ばれたゴブリンなんだ」

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