経営破綻したダンジョンから始まる、俺と幼馴染み熾天使の快適生活

さんが(三可)

第13ダンジョン誕生編

第1話 幼馴染みとの再開

 ここは天界にあって、天界であることを微塵も感じさせてくれない。窓は1つもなく、薄暗い灯りと硬いベッドがあるだけの監獄。

 誰とも接触することは許されず、出入口の扉さえ隠蔽され、時間の経過すら感じさせない結界の中。


 俺は黒子の天使のレヴィン。


 経営破綻した第6ダンジョンの副指令官であり、神々からの裁きを待つ身。60階層あったダンジョンの20階層は壊滅し、冒険者だけでなく、そこで働く多くの天使や魔物を死なせてしまった。


「おいっ、見てるんだろ。さっさと答えをだしたどうなんだ」


 何もない部屋の中で、愚痴るように呟いてみる。ここに来てから、何の変化も起こらない。ただ、ここで待っているだけだが、監視されていることくらいは分かる。


 幾ら時間経過すら分からなくなる結界の中でも、この監獄に入れられてから、それなりの日数が経っているはず。千年ぶりに起こった前代未聞の事態だけに、簡単に結論は出せないのかもしれない。


「まいったな。早く決めてくないと、安心して寝ることも出来ないんだがな」


 俺の挑発の声は虚しく部屋の中に響きく。やはりあがいてみても、何も起こらない。考えても仕方なく、これまで酷使され失ってきた睡眠時間を取り戻すために、目を閉じる。


 その時、閉じ込められた部屋に異変が起こる。


 ゆっくりと対流することしか出来なかった空気が、逃げ場を見つけ、慌てて外へと逃げ出す。それと同時に冷たい空気が流れ込んで来る。

 遅れるようにして薄暗い部屋の中に、光が射し込む。それは、陽の光ではない。暖かな魔力を含んだ人々を魅了する光は、熾天使の光輪によるもの。


 熾天使が現れたとなれば、俺が裁きの結果が出たに違いない。今でも神々に永久に酷使されるのだから、存在が消滅させられるのも悪くはない。


 覚悟を決めて目を塞いでいる腕をどかす。


「えっ、どうしてここに?」


 長い黒髪に碧眼、凛とした佇まいの熾天使。そんな熾天使は1人しか知らない。幼馴染みで、産まれた時から大学時代まで、常に俺にお節介を焼いてきた天使。

 ただ俺の知っているブランシュと違うのは、背中にある翼。2対4翼の羽は、ただの天使ではなく熾天使であることの証しでもある。


 俺に裁きを下すのが、幼馴染みになるとは……。これじゃ、最後に軽口すらたたけないじゃないか。


「レヴィン……」


「まさか、こんな形で再開するとはな。念願の熾天使には、無事なれたみたいだな」


 俺の言葉にブランシュが、軽く下唇を噛む仕草を見せる。それは、我慢をしている時に見せる仕草。


「分かってる、覚悟は出来てる。ブランシュは悪くない、性悪なアイツらの考えそうなことだ。最初から、覚悟は出来てるさ」


 ブランシュの瞳から、涙が溢れ落ちる。


「レヴィン、ありがとう。私のダンジョンの指令官になってくれるのね」


「はっ、指令官って、何が?」


 俺の戸惑いは、ブランシュに抱きつかれて止められてしまう。


「あなたのせいで、私がダンジョンマスターにさせられたのよ。この責任は、しっかりととってもらうわ!」


「ちょっ、ちょっと、待ってくれ。俺は、第6ダンジョンを経営破綻させて、ここに居るんだぞ。分かってるよな」


「レヴィンが破綻させたんじゃないでしょ。第6ダンジョンの熾天使はフジーコ。ダンジョンの司令官はラーキでしょ」


「でも残ってる責任者で、最上位は俺だったんだぞ」


「だから大変なことになってるんでしょ。あの2人が堕天したかもしれないって、天界中大騒ぎよ」


 監獄に張られた結界が消える。それが、俺の意思とは関係なく、ブランシュの指示に従うしかないと示唆している。


「ブランシュ、1つだけ教えてくれ。どこのダンジョンなんだ?」


「始まりのダンジョンを復活させるの。だから時間がないの。猶予は、たったの3ヶ月よ」


 監獄から結界が消えたと思えば、今度は魔力に包まれる。これは熾天使筆頭ラーミウが得意とする転移魔法。俺達が、ここで無駄話をしていること由としない。効率こそが全ての、ラーミウの強制措置。


「ああ、分かりましたよ。俺の意思は関係ないんだよな」

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