第12話
「最後は住民権を買う方法だけど、最初に言った通りこの方法はオススメしないよ。お金はけっこう掛かるし、税金だって毎年払う必要があるから。それにこの方法だと、この街でしか身分を証明できないから。ずっとこの街に住むなら良いけど、他の場所へ旅をするつもりならあんまり意味がないね」
なるほどな。
さすがに異世界に来てそうそうに永住する街を決めるつもりもないし、この方法はなしだな。
「となると、冒険者ギルドと商業ギルドの二択か……」
気持ち的には商業ギルドで決めてしまいたいところなんだけど、やっぱり上納金ってのがネックになってくる。
イモを売り物にすれば商品の確保は簡単だけど、はたしてそれが売れるかどうかは分からない。
そもそも俺には商売の経験がまったくないし、そこはやっぱり不安を感じてしまう。
逆に冒険者ギルドなら上納金はないみたいだけど、その代わり冒険者として金を稼ごうと思えば危険な目に会う可能性は格段に上がってしまう。
「別に、そんなに難しく考えなくてもいいよ。ギルドに登録したからって絶対に冒険者や商人にならなくちゃいけないわけじゃないし。田舎から出てきた人たちがお手軽な身分証代わりに登録することだって良くあるから」
俺が悩んでいる姿を見て、ルチカは明るい口調で声を掛けてくる。
「……確かに、そうだな。ともかく身分証が欲しいだけなら、そこまで悩む必要もないのか」
どうしても日本で暮らしていた経験からか、真面目に考え過ぎてしまうきらいがあるみたいだ。
現代日本では身分証って聞くとどうしてもお固いものだと考えてしまうけど、この世界もそうとは限らない。
それにどうせなにかしらの身分証は必要になるんだから、まずは気楽に選ぶことにしよう。
俺がそう結論付けるのと、ルチカが口を開くのはほとんど同時だった。
「ところで私、シュージにお願いがあるんだけど……。聞いてくれると嬉しいなぁ」
甘えるような声でそう言いながら彼女が密着すると、その柔らかい膨らみが腕に当たってくる。
その感触に思わずピクッと反応してしまう身体を抑えながら、俺は努めて冷静に彼女へと視線を向けた。
「……お願いって? ルチカにはいろいろと助けてもらったし、俺にできることなら協力するぞ」
あえて断る理由もないし、彼女にはこれからも世話になることが多いだろう。
だったらお願いのひとつやふたつ、快く聞いてあげるのが筋ってものだろう。
決して、腕に当たる柔らかい感触に絆されたわけではない!
大事なことなのでもう一度言うが、決しておっぱいの魔力に負けたわけではなくただ純粋にルチカに恩を返したいだけなのだ。
心の中で言い訳を繰り返す俺の思いなど知らず、ルチカは俺の言葉を聞いて嬉しそうに腕に抱き着いてくる。
「やった、ありがとう! それじゃ、お願いなんだけど……」
そう言って彼女から告げられたお願いの内容に、俺は思わず拍子抜けしてしまうのだった。
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