第10話
それは奥の壁に比べれば、かなり貧相な見た目をした囲いだった。
最低限の役割だけを与えられたその囲いの入り口には簡素な鎧を着た兵士が立っていて、俺たちの姿を見ると気さくな調子で声を掛けてきた。
「よぉ、ちょっと止まってくれないか?」
その声に応じるように立ち止まると、ルチカは軽い口調で兵士と挨拶を交わす。
「こんにちは! お仕事お疲れ様です!」
そのままルチカが慣れた様子で身分証を取り出すと、兵士はそれをチラッと確認した後に笑顔を浮かべる。
「うん、問題ないな。まぁ、嬢ちゃんは今朝に街を出る時も会ってるから本当なら必要ないんだが、これも規則だから悪いな」
「いえいえ、お仕事ですから。……それと、こっちの彼なんですけど」
そんなルチカの言葉で俺に視線を向けた兵士は、相変わらず軽い調子で笑顔を見せる。
「そっちの兄さんは初めましてだな。タルディナレスにはなんの用で?」
「えっと……、実は森で迷ってしまって。困っていたところを彼女に助けてもらって、それでとりあえずこの街まで案内してもらったんですよ」
「森で? そもそも、なんの為に森になんて行ってたんだ?」
「いやぁ、それが分かんなくて……」
我ながら怪しさ満点の受け答えだったが、兵士は特に気にした様子はなさそうに話を続ける。
「……まぁ、いいか。誰にだって、言えない事情ってのはあるもんだしな。てことは、身分証もないんだろ?」
むしろ俺のような相手に慣れているような対応に、逆にこっちが面食らってしまう。
「えっと、確かに身分証はないんですけど。なくても大丈夫なんですか?」
「まぁ、兄さんは悪いことするような奴には見えないしなぁ。それに、身元は嬢ちゃんが保証するんだろ?」
「ええ、もちろん」
「だったら問題なしだ。まぁ、身分証がないといろいろ不便だから街に入ったらすぐに作ることをおすすめするよ」
最後にそんなアドバイスまで貰って、俺たちはあっさりと街の中に入ることができた。
「……本当にこれでいいのか? ガバガバすぎるだろ」
「まぁ、壁外はこんなもんだよ。囲いだって、あってないようなもんだし。乗り越えようと思えばいつでも乗り越えることができるから」
そう言われて改めて囲いをみれば、確かに無理をすれば越えることもできそうだ。
「それじゃあ、最悪さっきの門を通る必要はないのか」
「まぁ、そうだけどね。それでも後ろ暗いことがないなら、できるだけあそこを通った方が良いよ。兵士さんと顔見知りになっておけば、無意味なトラブルに巻き込まれる確率も低くなるし」
そこでゼロになると言い切らないのが、この街の治安を言い表しているような気がする。
どうやらこの街は、見た目通りあまり治安がよろしくないようだ。
「シュージなんて、いいカモだね。身なりはそこそこ良いうえに世間知らずっぽいから、気を抜くとすぐやられちゃうかも」
そう言いながらニシシと笑うルチカに、俺は顔色を悪くしながら引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。
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