第6話 助け合って生きていく
どうしてこうなった……
俺は今、美優のお父さんの英俊さんと居酒屋に来ていた。
二人きりで話がしたいとか……
正直言って怖すぎる……!
「そこにかけなさい。今日は俺が奢るから好きなだけ飲むといい」
「いいんですか?僕も出しますよ」
「今日は大人しく俺に奢られておけ」
「分かりました。ありがとうございます」
こういうのは断りすぎても逆に失礼だ。
俺は薦められた席につき感謝を伝える。
もう結婚は認めてもらったけど自然と背筋が伸びる。
やがて店員さんを呼び英俊さんが注文を始めた。
「俺は生ビールを頼む。拓哉くんは?」
「僕も生でお願いします」
「はい。生ビールがお二つですね。かしこまりました」
店員さんが注文を受け厨房の方へ消えていく。
しばらくの沈黙の後おもむろに英俊さんは口を開いた。
「美優はな。君と出会って変わったんだ」
俺は黙って英俊さんの話を聞く。
「元々引っ込み思案で一人で遊ぶのが好きな子だったのだが、ある日の公園からの帰りニコニコしながら友達ができたと言ってきたんだ」
「それは……」
「拓哉くん、君だ」
そうだったのか……
美優との初対面は今でも覚えている。
4才のとき砂場で一人で遊んでいる美優を見つけて俺が声をかけたんだ。
確かに最初はあまり話してくれなかったけど帰る直前にはよく笑ったりするようになっていた。
あの日からよく公園で遊んだりお互いの家に行くようになったんだよな。
「美樹からもよく聞いていた。心優しく美優を気遣ってくれる少年だと」
「……恐縮です」
「謙遜しなくていいさ。俺も今日改めてこの目で見て君になら美優を任せられると思ったんだ」
「英俊さん……」
そんな風に見ていてくれたのか。
英俊さんの口から直接評価を聞き嬉しくなる。
俺が喜んでいると英俊さんがいきなり頭を下げた。
「すまなかった。つまらない意地を張って結婚を認めないなどと言ってしまって」
「あ、頭を上げてください!結婚は認めてもらったんですしもう気にしてませんから!」
「そう言ってくれると助かるよ。本当にすまない」
英俊さんはようやく頭を上げてくれた。
俺がホッとしているとちょうどお酒が運ばれてきた。
「言いたいことは言い終わったし思う存分飲もう。今日は祝い酒だ」
「ありがとうございます。いただきます」
二人で乾杯してビールを飲み始める。
今日の酒はいつもの何倍もおいしく感じる。
何杯か楽しく飲んでいると少しだけ酔い始めた様子の英俊さんが俺に質問してくる。
「拓哉くんは美優のどんなところが好きなんだ?」
「そうですねぇ。優しいところ、表情が可愛いところなど色々ありますがやっぱり全部ですね」
俺もだいぶ酔い始めている。
美優への想いが簡単に口に出てしまう。
「そうだろう!そうだろう!美優は自慢の娘だからな!」
「本当ですよ!なんで美優はあんなに天使なんでしょう!」
「よく分かってるじゃないか拓哉くん!」
「僕は美優の婚約者ですから!」
ここにアホな二人の酔っぱらいが誕生した。
二人は声高に拓哉は美優の、英俊は美樹と美優の魅力をアピールしまくりそんな惚気け合戦はしばらく続いたのだった。
◇◆◇
「拓哉!起きて!もう……!」
「うーん……美優……?」
何故か目の前に美優の顔が見える。
俺は英俊さんと居酒屋で酒を飲んでいたはずだからこんなところにいるはずがない。
だからこれは夢なんだろう。
美優が出てくるなんて幸せな夢だな……
「おーい!起きてってば!」
そこで意識が完全に覚醒した。
酒を飲んだせいで頭が重いけどしっかり目を開けると心配そうな顔で美優が覗き込んでいた。
周りを見渡すとそこは居酒屋のままだった。
「あれ?どうして美優がここに……?」
「お父さんにあらかじめこの時間に迎えに来るよう言われてたの。拓哉と酔い潰れるまで飲むから〜って」
そうだったのか……
確かに横では美樹さんが英俊さんを叩き起こしている。
どうやら飲みすぎだと怒られているようだ。
「もう……本当に酔い潰れるまで飲むなんて……!」
「ごめん。結婚を認められたのが嬉しくてつい飲みすぎちゃったんだ」
「体にも悪いしそんなに飲み過ぎちゃダメだよ?」
まるで子供をあやすように優しく諭される。
反論はできないし黙って頷く。
横では英俊さんが美樹さんに怒られながら勘定をしていた。
「お父さんがお金払ってくれてるからもう外に出よう。車で拓哉の家まで送ってくから」
「わざわざごめんね」
「いいの。これからは二人で助け合って生きていくんだからお互い様だよ」
「……そうだな。俺も美優を助けられるように頑張るよ」
外の駐車場に停めてあった大石家の車へ歩きながら決意する。
そんな俺の決意に美優は笑顔で応えてくれた。
後日、居酒屋で惚気合戦をしていたことがバレて俺は美優から、英俊さんは美樹さんから雷が落ちたのはまた別のお話である。
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