第4話 娘はやらん

プロポーズから一週間、俺は美優の家の前に来ていた。

今日は遊びに来たわけではない。

美優のご両親への挨拶をするのだ。


「き、緊張する……」


「大丈夫。初対面じゃないし拓哉なら絶対お父さんたちも認めてくれるよ」


家の外で待っていてくれた美優は俺の事を励ましてくれる。

美優は今日は薄茶色のワンピースを着ていていつもより大人びた美しさを感じる。


こんな美人が俺の婚約者だぞって自慢したい。

だがそれができるのも美優のご両親の許可を得てからだ。

なんとしても挨拶を成功させなくては……!


「俺の服装大丈夫?どこか乱れたりとかしてない?」


「うーん……あっ!ネクタイちょっとだけ曲がってる」


そう言って美優はネクタイを直してくれる。

新婚みたいでいいなぁ……はっ!

だめだ……気を引き締めないと……!


「それじゃあいこうか」


ネクタイを直してくれた美優は玄関の扉を開け中に入れてくれる。

この家に入るのも何年ぶりだろうか。

玄関だけでも久しぶりに実家に帰ったかのような懐かしさを感じる。


「拓哉くん久しぶりね〜!」


「お久しぶりです。美樹さん」


玄関では美優のお母さんの大石おおいし美樹みきさんが出迎えてくれた。

昔は俺もよくお世話になったもので第二のお母さんのような存在だ。

結婚の挨拶をしに来たわけだが昔と変わらない美樹さんの挨拶に少しだけ心が軽くなった。


「主人はリビングにいるわ。私はお茶を淹れるから二人で先に行っててね」


「分かりました」


「拓哉、こっちだよ」


俺もリビングの位置は分かっているが美優よりも先に乗り込む度胸は無い。

案内してくれて素直に助かった。

緊張の中、美優のお父さんが待っているリビングに入る。


「お久しぶりです。英俊さん」


「よく来たね拓哉くん。まずはそこに座りなさい」


俺は何よりも早く部屋にいた人に挨拶する。

そう、美優のお父さんである大石おおいし英俊ひでとしさんだ。

英俊さんは多忙な人なのであまり会ったことは無かったが美優いわく親バカなんだそう。

俺からすると威厳がすごすぎて心が休まらないというのが本音だが。


英俊さんに言われるがまま俺たちはダイニングの椅子に腰をかける。

俺から口を開くわけにもいかずダイニングに重い沈黙が流れる。

やがてお茶を持ってきてくれた美樹さんがやってくる。


「あら、先にお話していても良かったのに。遅れちゃってごめんなさいね」


「ありがとう美樹。だが君と俺の娘なんだから君抜きで話を進めるわけにはいかない」


俺たちは美樹さんに感謝を伝えてお茶を受け取る。

ようやく話をする場が整ったわけだ。

緊張感が一気に高まってくる。


「さて、話を始めようか。改めて、美優の父の英俊だ」


「美優の母の美樹です」


「村松拓哉です。今日はこの場を設けていただき本当に感謝しています」


美優は特に自己紹介はしない。

まぁ誰にするんだって話だしな。


「美優と付き合っていると聞いたがいつから付き合っていたんだ?」


「大学を卒業してすぐなので三年ほどです」


実際は大嘘だが美優が長めに設定しておかないと絶対にお父さんが許してくれない、とのことだったのであらかじめ話し合って三年にしておいた。

これから義両親になるかもしれない人に嘘をつくのは心苦しいが実子の美優の判断に任せることにしたのだ。


「三年か……拓哉くんは美優のことが好きなのか?」


「はい。美優さんのことを愛していますし大切にすると誓います」


これは嘘じゃない俺の本心だ。

元々恋心は抱いていたし再会した日にあっという間に思いを再燃させられた。

今はもう結婚相手は美優以外に考えられない。


「なるほど。美優はどうなんだ?」


「私も拓哉が大好き。私にとって拓哉以上の人なんていないよ」


「そ、そうか……」


娘の即答に英俊さんはダメージをくらっている様子だった。

美優の言う通り本当に親バカらしい。

まぁ俺も美優の大好き宣言に顔がニヤニヤしないように必死に堪えているから男は単純な生き物なんだろう。


「うふふ、素敵じゃない」


「あ、ありがとうございます」


美樹さんはニコニコ笑っていた。

英俊さんは厳しい表情と対称的だ。

美優いわく美樹さんは結婚に特に反対はなく美優の意思を尊重してくれるらしい。


だが英俊さんの合意が得られてない。

幸せな結婚を望むならみんなに祝福されてこそだ。

俺が男を見せるべきところはここだろ!


「僕は美優さんを必ず幸せにします……!笑顔を守ってみせます……!だから美優さんを……娘さんを僕にください!」


「拓哉……」


俺の思いは全部伝えた。

あとはもう頭を下げ続けることしかできない。


「なるほど……拓哉くんの気持ちはよく分かった」


その言葉を聞き俺は頭を上げる。

目を合わせた英俊さんは今までで一番真剣な表情をしていた。

俺もそれを見て自然と背筋が伸び汗が出てくる。

重い雰囲気の中で俺は英俊さんの答えを待つ。


「その上で言おう」


体に力が入る。

もはや心臓がなりすぎてうるさいくらいだ。

お願いします……!どうか認めてください……!


「君に娘はやらん」


その瞬間空気が凍りついた。

そ、そんな……!


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