第37話 清貧教会と借金取り1

「ところで、君、なんで僕たちを狙ったの?」


 シスターがいなくなった間に、

 ローリエと話をする。

 ちなみに、ローリエの弟は実弟ではない。

 孤児院では全員が兄弟姉妹になる。


「あんたはな、いかにもって後ろ姿だったんだ」


「いかにも?」


「ああ。オドオドしてるっていうか、この街初めて、しかも旅慣れしてない雰囲気っていうか」


「『ネギカモ』っていうこと?」


「そうそう、うまいこというな」


 日本での話。

 僕の先輩は治安の悪い国に長期滞在していた。

 すると、段々と観光客か長期滞在者か

 見分けがつくようになるという。


 観光客には後ろ姿にスキのある人が多いそうだ。

 緩いというか、注意を払っていないというか、

 そういう雰囲気が醸し出されているという。

 で、地元のプロたちはそういう人を狙うわけだ。


 僕は異世界でその先輩の話が真実であると学んだ。


 

 そのほか、子どもたちにいろいろな話を聞いた。

 この教会についても教えてもらった。


 王国の教会はサミリオ神話を教義とする。

 サミリオ神話は、創造神スローゼがこの世界を創り上げたことから語り伝えられる伝承話。


 古代文化の根幹をなし、その後の世界の宗教や世界観にも強い影響を与え、大陸の精神的な脊柱の一つとなっている。


 神話には多くの神々が登場する。

 神の総数は八百万といわれる。

 その中で中心となるのは十二柱である。


 大抵の教会は十二柱のいずれかの神を崇める。

 そのうちの1柱が清貧教会が崇める

 清浄の神ブランヌ。


 ここ清貧教会。

 ほんとうの名前はconsilia evangelica教会。


 でも誰もその名を呼ばない

 清く正しく美しくが教会のモットーなんだけど、

 色々な派閥のある教会の中でもっとも貧乏。

 だから、みんな清貧教会と呼んでいる。


 ◇


 さて、そろそろ教会からお暇しようとしたとき。

 

「おーい、シスターさんよ。いい加減借金を返せよ」


 教会の入り口から怒鳴り声が聞こえる。

 僕たちも入り口の方にまわると、

 いかにも下卑た輩の集団がとぐろを巻いていた。


「おまえ、誰だ?みかけん顔だな」


「いや、ただの訪問者」


「まあ、誰でもええわ。おーい、シスター出てこいや!」


「あのさ、君たち近所迷惑だろ」


 日本なら借金とりが騒げば警察がやってくる。

 でも、ここは異世界だ。


「何ぬかしとる。この教会はな、俺達から多額の借金をしてるくせに全然返済しないんだぞ」


 そこにシスターが。


「何をいうのですか。確かに私達はあなた達からお金を借りました。でも、その借金証書、借りたときのものと内容がまるっきり違うじゃありませんか!」


「ああ?何言いがかりつけてやがんだ。よく見ろよ。ここにお前の署名、拇印が見えんのか?ちゃんとした正式な魔法契約書だろ!」


「不正です!」


「うっせえアマだな。借金返済できんのなら、おまえは借金奴隷だかんな。身を清めてこい!」



 そこへラグがひょこっと顔を出す。


「(おい、輩達。ちょっとその借金証書を見せてみな)」


 ぎょっとする金貸し。


「なんだ、どっから声がしとる?」


「(こっちや)」


 ラグが僕以外に念話を向けるのは珍しい。


「あのさ、森の守護様って知らない?このお猫様がそうだよ」


「へ?なんでそんなお方が……?」


「(ま、えーから借用書見せてみ)」


「お、おう……ま、いいわ。よーく見てくれよ、ちゃんとした真っ当な契約書なんだからな!」


 おどおどと金貸しは借用書をラグに渡す。


「(ふむふむ……何々、元本は100万pだと。利息はトイチ。払えん場合は借金奴隷。シスターの署名と拇印)」


「な?ちゃんとした魔法契約書だろ!」


「(いや、ちゃんとしとらへん。あんたらな、この借用書、改ざんしとるやないか)」


「は?ふざけんな!」


 ラグは輩の声は無視して、何かの魔法をとなえる。

 すると、借用書は発光した。


「(これが改ざんした前のほんとうの借用書やな。これやと、元本は10万。利息は年1割。借金奴隷の項目はそのままやな)」


「何を馬鹿なことを言っとる、このバカネコが!」


「(ほう。ワテに対してよく言った)」


 すると、輩はあっという間に空中高く浮かんだ。

 そして、急速回転。


「うげげ……」


 地上に戻った輩は立つこともままならず、

 へどを戻していた。


「(もう一回、味わってみるか?今度は命の保証はせんで?)」


「くそったれ!」


 それを見た周りの連中が今度は僕に向かってきた。

 なんで、僕?


 でも、残念。

 僕の身体が強化されているせいか、

 相手がスローモーションのように見える。

 まるで動きがトロいんだ。


 思い切ってパンチを繰り出したら、

 相手は吹っ飛んでった。

 顔面が破壊されて。


 僕、喧嘩とかしたことない。

 だから、一瞬、呆然としてしまったよ。

 棒立ちしてたら、後ろから棒で殴られたんだけど、

 ちっとも痛くない。


 ふりむいてお腹にケリを入れたら、

 敵は海老折り状態で吹っ飛んでった。

 木に激突して気絶してやんの。


 輩たちはそんな僕を見てギョッとして

 後退りしてる。

 いや、そんな化け物みたいな目で見なくても。


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