第3話 進撃のキャンピングカー?

 頭は混乱しっぱなしだが、喉が乾いた。

 500mlコーラが冷蔵庫に入っている。

 家から持ってきたんだ。


 僕は車後部に移動し、冷蔵庫を開けた。


「あれ?コーラは1本しか持ってきてないよな。5本も入っているぞ。それに見慣れないものが?」


 そこには、コーラと10cmほどの長さの袋が。

 全部で10袋ある。

 コーラとともに取り出して袋を開けてみる。

 これはエナジ-バーか?

 カロリーメ◯トみたいな食べ物だ。


「なんだ、これ?」


 ひょっとして。

 僕は冷蔵庫の蓋を締めた。

 そして、すぐに蓋を開けてみる。


「復活している……」


 コーラが5本、そしてバーが10個あったはずだ。

 そこから一つずつ取り出した。

 当然、冷蔵庫の中は一つずつ数が減っている。

 でも減っていないのだ。


「まあ、食べてみるか……けっこうおいしいぞ」


 キャンプに行く前、僕は出発を急いでいた。

 単にウキウキしていたからだ。

 食べ物は途中で買うつもりだった。

 だから、食べ物はコーラ1本しかないはず。

 でも、ご覧のとおりだ。

 よく見ると、バーはプレーン味、チョコレート味の2種類がある。


「とりあえず、水と食料問題は解決か?」



 その後、車の設備を点検してみる。

 エアコン・ベッドはもとより備わっている。

 新たに、水道蛇口がついていた。


 蛇口からは冷水・温水が出る。

 横にはハンドソープが付属しており、

 ちょっと使ってみたが、これも容量が復活する。

 洗濯やら体の洗浄はカバーできそうだ。


 簡易トイレも新設されていた。

 驚くことに排泄物をすぐに分解してくれるし、

 下半身もすぐにキレイになる。

 消臭もばっちり。

 ウォッシュレットの超上位互換だ。

 

 あとは衣類。

 こればっかりは家から持ってきたものだけだ。

 洗濯する必要がありそうだ。



「エンジンスタート」


 僕はボイスコントロールを通じて車に指示する。


「ブルン」


 エンジンがかかった。

 ダッシュボードが見慣れた画面に変わる。

 速度計とかついている画面ね。


 無駄だと思ったけど、カーナビをつけてみる。

 映ったのは、この広場だけだった。

 ラジオダメ。

 スマホダメ。


 空元気を出して、車を動かしてみる。


「レッツゴー!」



 とはいうものの、広場をうろうろするだけだ。

 ちょっとした学校の校庭サイズ。

 縦横50mぐらいだろうか。

 表面はガタガタしておりユラユラ体が揺さぶられる。

 歩く速度以上にはスピードを出せない。

 外への道路はない。


 広場の周囲は鬱蒼とした森だ。

 杉のような直立した背の高い木で囲まれている。

 森の上は青い空が広がるのみで

 森の向こう側はまったく見渡せない。


「どうするんだよ……」


 異世界。

 体調を崩させる魔素。

 怪物の襲撃。

 外へ向かう道路はなし。

 ほとんど閉じた空間。

 

「詰んだか?」


 と思ったその時。


『開削機能をインストールしますか?』


「開削機能って何?」


 僕は車(ボイスコントロール)に質問してみる。


『道路を切り開く機能です』


 おお!


「YES!」


『……インストールしました。開削機能を実行しますか?』


「YES!」


 これで森を脱出できるぞ!


 正直、人里に行くのは少し怖い気がする。

 異世界人に出会うのは慎重にする必要がある。

 その前に、人型の生物かもわからない。

 ゴブリン以上の怪物に出くわすかもしれない。


 でも、森の中でずっと、というのはまずすぎる。

 このままだと干からびるだけだ。 

 なんとしても森を脱出しなくちゃ。


 僕は画面に現れる案内を元に、車を森に向けた。


「バリバリバリ!」


 車の前部に掘削機能が装填されたようだ。

 轟音とともに道ができていく。

 だいたい歩くスピードで。


 そびえ立つ木は横になぎ倒され、

 どうやってるのかわかんないけど、

 根っこは木のチップとなって粉砕されていく。

 同様に岩も砕いて小石になっているようだ。

 そのため、意外と道がなだらかになっている。


「よっし、いけー!」


 と勢いよく叫んでみたのだけど、

 進撃は50mほどだった。



「おーい、全然動かんぞ?」


 FUELメーターが赤く点滅していた。

 燃料がゼロになっている。


「おい、やばすぎる。ガソリンどうすんだよ」


 よく見ると、FUELメーターはMEと表記されている。


「ME?」


 僕は車に聞いてみる。


『魔素。magic essenceの頭文字』


「英語?」


 そう言えば、返事もYESだよな。

 日本から出たこともないし、英語もダメなのに。


「まさか、ここは英語の世界なのか?」


 うわっ。

 自慢じゃないが、僕には得意科目はなくて、

 一番の不得意が英語だったんだ。


 うーむ。

 でも、質問とかは日本語だし。

 不安はちょっと横においておいて。


「MEメーターゼロなんだけど」


 車に聞いてみる。


『MEは車のエネルギーです。空気中から自動的に補填されます。魔石を使っても補填できます』


 おお、なんて優れもの!


『ただし、魔素の薄い場所には注意してください』


 あー、なるほど。

 魔素を充填できないわけね。

 魔石がないと詰んでしまうわけか。

 これではその場にとどまらざるをえない。



 心配をよそに、夜までにMEは全チャージされた。

 でも、暗くなったので広場に戻ることにした。

 今晩は広場でキャンピングだ。


 緊張していて気づかなかったけど、

 森の中だし夜になると流石に冷える。

 10度前後といった感じか。

 たぶん、元の世界と季節は同じ程度だろう。

 アウトドア用のジャケットを取り出す。


 そして、外にでてふと空を見上げる。

 すると、月が3つもあるのだ!

 赤っぽい月、黄色の月、そして青色の月。

 信号機か、と一人で突っ込んでみた。

 虚しい。

 異世界転移、決定だな。


 僕はエナジーバーをかじりながら、

 しばらくの間、呆然とした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る