第102話 注目
宿に戻り、無事にリア、トリシア、モードの三人に事情を説明することができた。
若干不安そうにしていたものの、すぐに納得してくれたのは助かった。
この納得の早さがこれまで壮絶な環境だったことも影響していると考えると、複雑な心境にはなってしまうが……。
マックスも三人の面倒を見てくれることを快く引き受けてくれたし、心配せずに魔物狩りへと向かうことができる。
宿を後にした俺は、再集合場所である冒険者ギルドへと向かうと、ジーニア、アオイ、ギルド長の三人が見えた。
それから冒険者の数も見るからに増えており、冒険者ギルドは人でごった返している。
「待たせてしまったか? 遅れてすまなかった」
「いえいえ! 丁度着いたところでしたから大丈夫です!」
「こっちは準備バッチリ! グレアムもちゃんと説明できた?」
「ああ。マックスが留守番を快く引き受けてくれて、三人も納得してくれたから大丈夫だ」
「それなら良かった。それじゃグレアムさん、ギルド長室に行こう」
「――の前に、グレアムさんには煙玉を渡して置きますね」
「買ってきてくれたんだな。ありがとう」
ジーニアから頼んでいた煙玉を受け取ってから、人でごった返している冒険者ギルドの中に入ってギルド長室へと三度向かった。
召集に応じた冒険者達が集められているようで、ギルド長室の中からはサリース以外の複数の反応が感じられる。
「ドウェインだ。入るぞ」
「待っていた。入ってくれ」
中にいたのは、グアンザ以外の交流戦を行ったメンバー。
それから、見知らぬ冒険者が十五人。
見知らぬ冒険者達が実力者なのは、見た瞬間に分かった。
恐らく、王都を拠点にしているSランク冒険者だろう。
「これで全員揃った。各々自己紹介――といきたいところだが、魔物の大群が迫っている中そんな余裕はない。向かっている道中で各々自己紹介をしてくれると助かる」
「一つだけいいか? グアンザはいないのか?」
「ああ。グアンザだけが連絡が取れていない。【紅の薔薇】もここ数日は姿を見ていないらしい」
「グアンザのことだから首を突っ込んでくると思ったんだが……。分かった。話の腰を折ってすまなかった」
俺も部屋の中に入った瞬間にグアンザがいないことに気がついたし、いない理由も気になっていたからギルド長が聞いてくれたのは助かった。
俺にこてんぱんにやられたのが、思っている以上に効いたのかもな。
いないグアンザのことはさておき、俺達はすぐに王都を出発することになった。
ギルド長室に集められた者達が先導し、後ろを他の冒険者達がついてくるという形で目的地へと向かう。
「何だか体が重くなっている感じがします。一歩進むことに圧が増えていくような変な感覚です」
「気のせいでしょ! って言いたいところだけど、明らかにこっちの方角は異質! 本能が行きたくないって叫んでるもん!」
二人が今感じているのは俺が普段から探っている気配であり、進んでいる方向からは二人も感じられるほどの凄まじい気配を感じる。
紛れもなく魔王軍の気配であり、少なく見積もっても……情報通りに千を越える魔物がいる。
「グレアムさん、どうも。この間はありがとうございました」
この異様な圧には全員が気づいており、雰囲気的に重苦しくなっている中――。
俺に話しかけてきたのは、【白の不死鳥】のジュリアンだった。
「俺の方こそありがとう。良い経験をさせてもらった」
「それこそ私の台詞ですよ。……本当にグレアムさんが残ってくれていてホッとしています。向かい合った時にあれほど恐ろしかった相手が、味方となってくれているんですからね」
「それそれ! パーティ全員で挑んでも敵わなかった相手だし、最後に部屋に入ってきたときはホッとした!」
ジュリアンの言葉にそう便乗したのは、【白の不死鳥】の魔法使い。
雰囲気的にアオイに似ているな。
「ですね。交流戦に参加していた人達なら、みんな同じ感想を抱いていると思います。【白の不死鳥】は全面的にグレアムさんをサポートしますので、何卒よろしくお願いします」
「期待をかけられすぎるのもやりにくいんだが……分かった。俺にできる限りのことはやらせてもらう」
「ありがとうございます。頼りにさせて頂きます」
ジュリアンは笑顔で俺に頭を下げた後、見知らぬ十五人の冒険者の下へと歩いていった。
【白の不死鳥】と同じく、王都を拠点にしている冒険者だから交流があるようだな。
せっかくだし、後で紹介してもらうとしよう。
「本当に凄いですね! 全勝だったので当たり前といえば当たり前なんですけど、交流戦に参加していた全員がグレアムさんの様子を窺っています!」
「ね! 話したそうに様子を窺ってるもん!」
「別に俺なんか大した人間じゃないんだけどな」
「グレアムさんが大した人間じゃないなら、俺はゴミ人間になってしまう。とりあえず……道中では積極的に交流した方がいい。正直、あまり良い仲とは言えなかったしな」
確かに、【白の不死鳥】以外は良い関係ではない。
この間は戦う相手だったからどうでもよかったが、今日は一緒に戦う仲間。
話したそうにしてくれているのであれば、積極的に声を掛けて親交を深めるべきだろう。
そう決めた俺は目的地に着くまでの間、全員と話をすることを目標に声を掛けて回ったのだった。
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