俺vs広告閉じるボタン【✖︎】との仁義なき戦い

神町恵

無料エ〇動画再生における広告の弊害について

 ついに俺は、パンドラの箱を開けようと思う。

 高校生までは対象年齢に達してないとのことで、センシティブな情報が規制されてきたが、大学生となり、そして18歳になった。

 俺の知ってる友人らは、とある方法で18歳になる前に”それ”を見たようだ。

 しかし俺にはそのとある方法が使えなかったので、こうして18歳まで待った。

 

 「よ、よし、見るぞ、俺は…ついに夢にまで見た大人の階段を登るぞ!」


 俺はそのサイトをクリックした。

 クリックしたその時、脳内でかつての友人の言葉を思い出した。


 『いいか、”それ”を再生するにあたって”ある試練”を乗り越えないと見れないんだ』


 そう、”それ”を見る前にまずやらなくちゃいけないこと、それは……


 『再生ボタンを塞ぐ多くの広告を閉じることだ』


 ”それ”が見れるサイトをクリックすると、サイトが開くと同時に画面いっぱいに様々な広告が貼られていた。

 そして、広告を閉じるための【✖】ボタンは右斜め上端に小さくある。

 そんな小さなボタンをどうすれば押せるのかと思うところだが、俺はかつての友人からすでにその方法を教わっている。


 「普通に何も考えずに押したら別のサイトにジャンプするからな、こういうのはゆっくり長押しで押すんだっけな」


 俺は画面に貼られた広告三つのうち一つを✖ボタンを長押し術で広告を閉じた。


 「よし!第一関門クリア!あと二つ!」


 あと二つ残る広告の✖ボタンを同じ長押し術で解除しようとする。

 もう一個も無事解除し、残るはあと一つになった。


 「チェックメイトッ」


 最後の広告を閉じ、画面にはついに待ち望んだ再生ボタンが露わになった。


 「よっしゃあ!再生ボタンが丸見えだぜ!」


 俺は再生ボタンを”普通にタッチ”した。


 「これでようやく見れ…あれ?」


 動画が再生するかと思いきや、別のサイトに飛んでセンシティブな広告宣伝の画面が映った。


 「Why(なぜだ)!?」


 ありえない!?俺は確かに再生ボタンをクリックしたはず、なのになぜ広告画面に移ったんだ!?なぜ!?


 すると俺はまたかつての友人の言葉を思い出した。


 『ああそれともう一つ、再生ボタンが出たからってまだ油断はするなよ、それも長押しでクリックするんだ、でないと別サイトに飛ぶ可能性もあるから気をつけろ』


 思い出した!くそ!油断した!


 俺は後悔の念でいっぱいになる。


 あのとき、再生ボタンにもちゃんと長押しで押してたら無事に”それ”を見れたのに!


 俺はすぐに戻るボタンを押したが、また三つの広告で再生ボタンを塞ぐ状態になった。

 せっかく解除した作業が水の泡だ。


 「チクショウ!また最初からだ!」


 苛立ちと焦りの気持ちでいっぱいになりつつも、俺は慎重に広告を閉じていく。

 広告全てを閉じた後、再生ボタンにも油断せず慎重に長押しして再生させる。


 よっしゃ!再生開始になった!


 ”それ”が再生したと思ったから、今度は広告動画が流れた。

 動画であれ、それもYou〇ubeと同じ仕組みでまずは広告が再生される仕組みだ。

 広告再生から5秒経つと”広告スキップ”ボタンが出た。


 「一応スキップにも長押し術で押そう」


 長押し術で無事に広告がスキップし、ついにお目当ての動画が再生した。

 

 「やっと再生できた、でも画面小さいな」


 再生された画面を凝視すると、画面拡大ボタンが右斜め下端に小さくある。

 俺はそれを長押しで押す。

 しかし、長押しで押しても一切反応しない。

 

 「あれ?反応しないなあ…」


 今度は普通のタッチで何度押したが反応しない、反応しない画面拡大ボタンにイライラし、俺はボタンを連打した。


 拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ拡大しろ


 しかし…。


 「よし!反応した…あれ?」


 連打したのがよくなかったのか、別サイトへとまたも飛んでしまった。

 その光景に俺は呆然とした。

 すぐに戻るボタンを押すがすでに遅し、また再生ボタンの前に見慣れた三つの広告が立ち塞がった。


 「く…く…クソがあああああアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 そして俺はまたも脳内でかつての友人を思い出す。


 『これで俺流直伝の解除術はお前に全て伝授してやった、でもだからってあまり自分を驕るなよ』


 かつての友人は最後にこう言っていた。


 『最後まで油断せず、冷静さを保て、それこそがパンドラの箱を開けるのに重要な要素だからな』


 「そういうことだったのか……」


 俺は最後の最後で冷静さを失ってしまった。

 そんな自分に俺はまた後悔と自責の念で押し潰された。

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