第三話 古津晋也は「めんどくさい」 【那楽視点】

 古津こつ晋也しんやはマメな奴だ。

 身長は170cmぐらいだったか。黒髪で、髪形はオールバック。視界に髪がちらつくのが嫌いらしい。

 髪形に反して容姿も内面もおとなしめ。カッコいいというより清潔って感じ。妹がいるからか面倒見が良い。

 家は古着屋。家の手伝いで古着のメンテナンスとかしてるらしく、その影響か手先はかなり器用。よくクラス内外から裁縫の依頼を受けているぐらいだ。

 面倒くさがりの私からすると、コツコツマメに努力や作業を重ねられるコイツは尊敬できる……たまに引く時はあるけど。



 --- 


 

「ありがとな古津!」


 昼休みの終わり際、微睡まどろみの中にいた私はすぐ隣から聞こえてきた声に起こされた。

 腕枕に頭を押し付けながら横を見ると、古津が見知らぬ男子と話していた。違うクラスの男子だな。


「おかげで彼女に怒られずに済みそうだ!」


 男子は手編みのマフラー? を広げている。


「彼女からもらったマフラー、もっと大切にしろ。あの破けよう……一体なにしたんだ?」

「いやぁ、なんかすげぇ登りやすそうな木があったからさ、マフラーしながら木登りしたんだよ。そしたら枝に引っ掛けちまってビリッと」

「高校生にもなってそんな衝動的に木登りすんな」

「あっはっは! 次からはマフラーを取って木登りするさ!」

「そもそも木登りするなと言ってるんだがな……」

「いや、ホント助かったわ。これ、材料費と報酬な!」


 男子は千円札一枚と百円玉三枚置いて教室を出て行った。


「なんだよ、また例の慈善活動か」


 私が聞くと、古津は財布に千円札を入れながら、


「慈善活動じゃない。ちゃんと報酬として三百円徴収しているからな」


 古津はこうしてよく修理の依頼を三百円で受けている。

 最近は衣類だけでなく、機械やプラモデル、フィギュアの修理まで……そのあまりの万能さから、ついたあだ名が“コツえもん”。


「さてと」


 古津はバッグから貯金箱(戦車の形した透明なプラスチックのやつ)を出した。古津は貯金箱の中心にある投入口から百円玉を三枚入れた。古津は半分まで溜まった貯金箱を見て、愉快気に鼻を鳴らす。


「変な貯金箱だな」

「失礼な。俺の“コツコツ号mk-3マークスリー”を馬鹿にするのは許さないぞ」


 男ってのはなんでこう、マークスリーやらなんやらが好きなんだろうな。普通に三号とかでいいだろ。


「お前は貯金箱とは無縁そうだな」

「いや、昔に使ってたことはある。結構溜めた記憶」

「……お前がコツコツ金入れている絵はまったく想像できないんだが」


 失礼な。私にだってマメで元気活発だった頃はある。……五歳の頃とか、その辺。


「別に金を入れる手間はまぁ、我慢できたんだけど、ウチの貯金箱壊して中身を取り出すタイプでさ。それ知った瞬間、めんどくさーと思って入れるのやめた」


 金槌用意するのもめんどくさいし、それで貯金箱を壊すのもめんどくさいし、その破片を掃除するのもめんどくさい。


「ん? ちょっと待て、じゃあ貯金箱の中身は……」

「そのまま。あの貯金箱、今頃どこにあるんだろうな……」

「探せよ。貴重な財源だぞ」

「いや、いいや。探すのめんどくさい」

「期待を裏切らないやつめ」

「お前さ、貯金箱溜めてなにか目的あるのか? なにか買いたいものがあるとか」


 古津は私の質問に対し、なぜか数十秒考え込み、困ったような顔で、


「ないな。この貯金する行為、自分の行動が実を結んでいる感じがえつだ」

「お前こそ期待を裏切らないやつだよ」

「しかし、そうだな。なにかしら目的があった方がより楽しいかもしれないな」


 古津は「よし」と納得したように笑うと、私の目を見てきた。


「これが溜まったらお前にクレープを奢ってやる」

「クレープ……」

「ああ。甘いもの好きだっただろ?」


 私は腕枕に顔を埋める。……表情を悟らせないために。


「なんだ、嫌だったか? あ! そうか。クレープ屋はここから2、3キロは先にあるショッピングモールにしかない。めんどくさいか」

「ああ。めんどくさい……けど、いい」


 私は、上ずりそうな声を必死に押し殺す。


「……めんどくさいけど、付き合ってやるよ」








 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る