第11話 フォルスト

「ボス。やめてください」


「大丈夫。すぐ終わるよ」


「そんな……強くしたら、痛っ!」


「ごめん。痛かった? でも大丈夫、僕得意なんだ。きっと気持ちいいよ」


「ぼ、ボスぅーーー!!!」


 というわけで、ぎっくり腰になったアドニスという名の手下を治してあげた。


 僕、魔法で人を回復させてあげられるらしい。


 今日は特に何もない一日。


 平和だ。


 平和はいいことだと思う。


「ボス」


「どしたの? アドニス」


「わたくしも癒して差し上げます」


「いいよ。どこも痛くないし」


 と、なぜかベットに押し倒された僕。


 そして、服を脱がされる。


 え? なに? 何が始まるの?


 きゃーーーー!!!


「アドニス? ちょっと落ち着こうか?」


「いいえ。大丈夫です。幸い、あのうるさいババアは居ません」


 たぶんフォルストのこと。


 そして、アドニスは僕に触れる。


「そこは、やめっーー」


 ぎゃぁぁああ!!


 僕はアドニスに口を覆われ、続けられるその行為。


 そのとき、


「アドニス? なにしてるの?」


「ふ、フォルスト。今日休みじゃないの?」


「嫌な予感がしたから戻ってきたのよ」


「あっそう」


 不穏な空気の二人。


 睨み合ったその視線から火花が飛び散りそうだ。


「二人とも、仲良くしよう。それと、アドニスは一回どこうか?」


「ちっ!」


 と、舌打ちをしてフォルストを睨んだアドニス。


「ボス。お話があります。アドニス、少し席を外してくれますか?」


「はいはい。では、続きは今晩なさいましょうね? ボス」


 と言って、アドニスは妖艶に去っていった。




 ーーーーーーー




 フォルストは最近思っていた。ボスの様子がおかしいと。


 ボスがよく口ずさんでいる聞いたことのないヒーローという単語。


 そしてウニタスには、正義のなんたるかを熱論している。


 ボスが正義を語るのは初めてだ。


 みな、不思議に思っていた。


 フォルストはもしかしたら、ボスは……私たちを捨てて、新しい拠点を開こうとしているのでは?


 そう思った。


「ボス、一つ、聞いてもよろしいですか?」


 フォルストはその青い瞳をボスに向けた。


「なに?」


「ヒーローとはなんですか?」


 フォルストは、まずそれを聞いてみた。


「ん? そうだなー、強くてかっこよくてみんなに愛される奴のことかな!」


 なるほど。


「ボスは、あの夢のために頑張っておられるという訳ですね!」


 ボスと交わした約束。


 いつかは、魔族の頂点に立つということ。


 その夢を絶対に叶えるということ。


 魔族の頂点に立ったボスはさぞかっこよくて、皆から愛されるだろう。今も十分かっこいいけど。


 とフォルストは、少し微笑んだ。


「そう! 僕の夢は偉大だ! 決して簡単には叶わない」


「ええ。そうです……。私もボスのため……夢の為に力の限りを尽くしています」


 フォルストは遠くを見つめるようにして目を伏せた。


 それから、一番気になっていたことを聞いてみた。


「私たちを捨てたりしませんよね?」


 その言葉にボスはキョトンとした。


「え? なんで? 捨てるわけ無いじゃん! こんならく……じゃなくて、大事な君たちを捨てたりしない!!」


 フォルストは自分を責めた。


 こんなにも真っ直ぐな瞳を向けてくれるボスを疑っていたなんて。


「すみませんでしたボス。ありがとうございます!」


 そしてその美しい笑みを浮かべた。


 やはりボスは、ちゃんと夢に向かって歩んでいるのだと。


 頂点に立つために頑張っているのだと。


 フォルストは、これから先もずっと、ボスの夢を応援していこう。


 そう思った。

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