正義のヒーローになりたい僕、可愛い手下達のボスに転生した。

折原彰人

第1話 正義のヒーロー

 正義のヒーロー──。


「860円になります」


 僕は幼い頃、皆んなから愛される正義のヒーローになりたかった。


「ありがとうございました!」


 しかし、現実の世界では都合よく目の前に敵が現れることもないし、何か特殊能力が使えるわけでもない。


 それに僕は、頭悪いし、運動音痴だし。


「いらっしゃいませ!」


 僕はただの凡人。


 そう気づいたのは、たぶん小学生の頃だったかな?


 そして、今25歳になった僕は、コンビニ店員(研修中)として生きている。


「だる……。もうやめよ」


 ってセリフ何回言ったっけ?


 僕はそう呟きながら、品出しを始めた。


 僕は一人で深夜時間を担当している。客はたまにしか来ないから暇だ。


 やめたーい! だるーい! つまらーん!


 でも、やっと受かったしな。それに、金ないし……。


 お?


 と、それは僕の視界に現れた。


 万引き?


 え? すげー! 万引き犯なんて初めて見た!


 声掛ける?


 でも、面倒だしな。


 見逃そ。


 いや待て僕!


 万引きは悪。


 彼は悪党。


 僕は正義のヒーロー!


 じゃあ、僕の出番だな!


 そう、僕はまだ諦めていないのだ。正義のヒーローになることを。


 てことで、


「お、お客様、そ、そちらの鞄に入っている物ですけ、お、お会計はお済みですかっ!?」


 ふっ! 緊張で声が震えてしまった。決して恐怖で震えているわけではない。


 彼は黙っている。


 僕も黙って彼の鞄の中身を見つめた。


 あれ?


 万引き犯が駆け出した。


 走って店内を出て行く、30代ぐらいの男。


 えー!! 逃げるの?


 え? 追いかける? どうする?


 分からん!


 そう思いながらも駆け出す僕。


 コンビニ店員(研修中)は、深夜の任務にて、万引き犯を捕獲するべく走っている。


 正義のヒーローっぽい? 


 ぽいぽい!


 数メートル先に走っている犯人。


 外は雪が降っていた。


 吐き出される息が白く色づく。


 寒い。


 滑らずに気をつけながらも僕は全力疾走した。


 これ、どの辺まで追いかけるべき?


 捕まえられる気がしない。


 あの野郎、足速いな!


 僕は段々と息が切れてきた。


 吸い込む空気が冷たくて、喉の奥が痛痒い。


 もっと、運動しておけばよかった。


 くそぉーー!!!


 と、その時。


 車のクラクションの音がした。


 そして、僕の視界を眩しい光が覆った。


「あれ?」


 全身に走る痛み。


 消える視界。


 なんか思ってた展開と違う。

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