深海魚の見た夢の話 (物語)

「.....どうして僕は、君のことを忘れられないのだろうか。」


 これは今よりもっと、昔のお話。

 大陸のどこかに、二つの王国がありました。

 青い国旗の国にはお姫様、赤い国旗の国には王子様がいました。


 二つの国はずっと前から、彼らが生まれるよりもっと前から、戦争をしていました。


『終わらない戦争』


 いつしか、その戦争は、そう呼ばれるようになったのです。


 お姫様も、王子様も、とても心を痛めていて、二人は遣いの者を送り、手紙で、こう遣り取りをしました。


「ねえ、君。僕達が結婚をしたら、戦争は終わるのかな。」


「分からない。だけど、私達にはもう、それしかないよ。だから、結婚しましょう。」


 終わらない戦争を終わらせるために、二人は結婚をしようとしました。


 ですが、民衆が、王族が、それを許さなかったのです。


 世界中を敵に回した二人は、海の真ん中の孤島に、ぽつん、と置いていかれました。

 水もない、食料もない。


 雨も降らないし、そもそも、二人は王族だったので、何をしたらいいのか分かりませんでした。


 三日三晩、二人は泣き続け、涙も枯れた頃、二人はやがて、死んでしまいました。


 .....だけど、何も間違ったことはしていないんだ、と、固く繋がれた手は、そう物語ります。


 長い時の中で、二人の骨は海に流されて、深海に沈み、誰からも忘れ去られていました。

 終わらない戦争を終わらせるために、二人が闘った最後の夜は、こんなふうに、星が輝く夜でした。


 2024/03/30 ijuha

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