湿気た火薬入りお化け
三月
序章
僕が思い返すのは、まア大した述懐でも無いけれど幾分繊細な所がある。それは丁度油紙に包まれた所為で端の少しばかりくっ付いたような洋菓子の欠片に当るような、きっと好い喩えじゃあないんだろうけど空洞にぴたり嵌る解答として今しがた脳裡に浮んできたのである。
決して
「何事です?こんな早朝から」と云いながら寝惚けた体を扉外に引き摺り出すとそこには、絵に描いたような乙女が顕れて「全くひどい事ですわ」なんて溜息交じりに溢すのである。
「嫌だ、ご挨拶が未だでしたね。確か貴方は…」
「先生に日頃面倒を見て貰ってる者です」
「先生?なあにあの人、先生だなんて呼ばせてるんですの」
「それはまア、僕が勝手に呼んでるんですな」
女学生は少し笑って続けた。
「兎も角あの人を見てませんこと?部屋には居られないんだけれど」
「まだ帰って居られないんでしょう。急用が入った折には宿直のような真似もされますよ」
「まあ。矢張りひどい人」
"ひどい人"とは
「
彼女はそう名乗って軽くお辞儀をする。そして間もなく再び顔を上げるとその輪郭が悠然と奔りながら古都の大路の如く整っているのが見て取れ、当世風とも云うべきか少し外巻きになった髪は以てその大路の左右にキチンと並ぶ街並みという彼女全体の計画を成している様である。溌溂さに隠し切れない甲斐甲斐しさは小さく揃えた足先からも判然としていた。加えてなんとあどけない、歳の程も丁度壮年只中の先生からして二回り近く離れているに相違ないだろう。僕は逡巡を悟られぬように言葉を繋げていく。
「はあ、そうですかア。それで何の御用でしょう。言伝でしたら頼まれますが」
「ええそれは」と彼女は続く言葉を敢えて噤んで、その事実を示すように悪戯たっぷりに微笑んでみせた。「いいえ、矢張り構いませんわ」
「?」
「折角ですから頂いて貰えませんか?お騒がせしたお詫びに、是非」と言って彼女が差し出したのが何やら立派な風呂敷であり、それを紐解いてみれば厚み数
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