セーブポインター 何も起こらない物語 無能認定されて追放された勇者は異世界を往く
高村 樹
第一章 セーブポインター
第1話 集団転移
「我が召還に応じ、この場に集いし、異界の勇者たちよ。よくぞ参った」
眩い光と耳を
いつもの通り、寝ぼけ
そこはまるで映画やアニメなどで見たことがある西洋風の玉座がある大広間のような場所で、目の前には見るからに王様と言った感じの衣装に身を包んだ男がこちらを感極まった様子で見つめている。
金髪に、青い目。
欧米か?
周囲を見渡すと武装した鎧姿の兵士たちが緊張した面持ちで取り囲んでおり、自分のすぐ近くには背広姿のサラリーマンや学生など同じ電車の車輛に乗っていたとみられる人たちが愕然とした様子で
俺を含めて十人。
皆、何が起こったのかわからないといった顔だ。
「ちょっと、ここは一体どこなのよ。何が起こったというの? 誰か説明してちょうだい!」
香水臭い派手な服の女性がすごい剣幕で声を上げた。
周囲を取り囲む兵士たちが一瞬怯んだように見えたが、すぐに各自の手に持った武器を構え、険しい表情をした。
数人の兵士たちが主を守るように動いたが、それを遮るように王様風の衣装を着た男が口を開いた。
「皆の者、静まれ。我はゼーフェルト王国国王パウル四世である。異界の勇者諸君よ、此度は我が王国に古しえより伝わる召喚儀式によって、そなたたちをここに呼び寄せてもらった」
異世界召喚?
そのまんま、ラノベじゃん。
自称王様パウル四世によると、このゼーフェルト王国は魔王率いる闇の勢力によりその存亡を大きく揺るがせられており、その打開策として勇者召喚を行ったということであった。
異界から召喚された勇者は、その儀式の過程で、この世界の女神リーザによって優れたスキルを授かっているはずで、その力を使って魔王を討伐してくれとのことだった。
「冗談じゃない。そんな危険なことに巻き込まれてたまるか。はやく、元の世界に返してくれ。俺は今日大事な商談があるんだ」
頭の禿げた恰幅の良い中年男性が一歩前に進み出て、文句を言った。
悪趣味な金のネックレスに、高級腕時計、そして無駄にいくつもの指輪をつけていた。
「元の世界に戻りたいとな? 」
「あ、当たり前だろう。こんなわけのわからない場所に連れてこられて、迷惑しない奴がどこにいる!」
成金風の男が抗議する。
この場の状況と周囲からの圧力を物ともしないとは、彼はある意味勇者なのかもしれない。
「……残念だがそれは出来かねる。お前たちが元の世界に帰るにはまず魔王を打倒し、その身に宿した特殊な魔石を手に入れる必要があるのだ。この世界に異世界人を呼ぶには多くの生贄が必要であったのだが、送り返すにはさらにその魔石に宿る闇を女神リーザに捧げる必要があるのだと、……我らの古文書にはそう書いてある」
「そんなの、お前たちの都合じゃないか!」
眼鏡をかけた学生風の人が成金男に同調する。
俺は、目を付けられたくないので黙っておこう。
この世界は何だかヤバい。
いくら儀式のためとはいえ、生贄を欲する女神もいかれてるとしか思えないし、あのパウル四世とかいうおっさんも目が血走ってて顔が怖いし、とても善人には見えない人相だ。
「確かにお前たちの言うとおりだ。我らの身勝手でこの異世界に連れてきてしまったことは謝罪せねばならんだろう。だが、これだけはわかってほしい。我が王国も、滅亡を避けるために止むを得ずこのような儀式を行うに至ったわけだ。この儀式のために多くの国民がその命を投げうった。もはや引き返すわけにはいかぬのだ。異世界の勇者たちよ、魔王を打倒することはその方らが故郷に帰還するためにも必要なこと。ここはどうか、我らと共に魔王と戦ってはくれまいか。魔王を滅ぼしてくれた暁には必ずやお前たちを元の世界に戻すと約束しよう」
パウル四世がそう言って頭を下げた。
成金男たちはまだ何か言いたげだったが、さすがにそれ以上は何も言えない様子だった。
得体のしれない場所に連れてこられ、戻る方法が限られているこの状況ではこれ以上の抗議は無意味なのだと悟ったのだろう。
俺たちに出来るのは、兵士たちの囲みを突破し逃げ出すか、魔王打倒に協力して、平和的に帰還するかのどちらかしかないのだ。
「では、勇者よ。ステータスオープンと唱え、その身に授かった力を我らに見せてくれ」
パウル四世に言われた通り、周りの人たちが「ステータスオープン」と次々唱え始めた。
仕方がないので、俺も渋々それに従うと、目の前に半透明のパネルのようなものが目の前に浮かび上がった。
名前:
職業:セーブポインター
レベル:1
HP15/15
MP5/5
能力:ちから1、たいりょく1、すばやさ1、まりょく1、きようさ1、うんのよさ1
スキル:セーブポイント
≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。
それはまさにゲームのステータス画面のようなものだった。
スキルはセーブポイント?
「ぼうけんのしょ」って何だ?
しかも能力値が全部1って弱すぎねえか?
しかも職業がセーブポインターなんて、聞いたことないぞ。
「さあ、異界の勇者たちよ。その身に宿した正義の力を我らにも見せてくれ」
パウル四世が目くばせすると、暗い灰色をしたローブ姿の老婆が両の掌に納まるくらいの水晶を持ってやって来た。
どうやら、これに触ると、その者のステータスを拡大してくれるらしい。
スマホをテレビ画面で見るみたいな感じか。
一人また一人と、前に進み出て、順番にその水晶に触れていくと、異常とも思える歓喜の声が王座の間に次々、響き渡っていく。
「すごい。これが伝説となっている異界の勇者のステータスか!素晴らしい。これならば、魔王率いる闇の者どもと五分に戦えるぞ」
周囲の者たちからそういったささやきが聞こえ、どよめきが起こっているが、パウル四世は真剣な表情のまま黙って、拡大されたステータス画面を眺めている。
なんか、俺以外の全員、強くないか?
レベルは最低でも10以上はあるし、スキルだって複数所持している。
しかも能力値で1の項目など一つも無かった。
しかも職業が、魔戦士、剣豪、大魔道士、聖女などRPG風のカッコいいものばかりだ。
なんだよ、元の世界では平凡なモブだったけど、この異世界では雑魚キャラなのか。
異界の勇者って言うから期待したけど、俺だけすごい見劣りするんだが……。
まあ、いいか。
このセーブポイントとかいうスキルがチートなんだろう。
そうに違いない、というか、そうでなきゃ詰む。
「さあ、最後だぞ、若者よ。その水晶に手を当てるのだ」
絶望的な気分で、仕方なく水晶に触れると、先ほどまでとは全く異なる性質の歓声が上がった。
それは嘲りや失笑を伴ったもので、腹を抱えている者さえいた。
恐る恐るパウル四世の方を見てみると、その顔は紅潮しており、怒りのあまりこめかみに極太の青筋が浮き出てしまっていた。
その様子に気が付いてか、その場が急に静まり返る。
「……なんたる無能。この世界に住まう者たちの中にあってもこれほどの酷いステータスは初めて見た。莫大な富と多くの民の命を費やしてまで召喚した者が、このようなゴミとは……」
周囲の視線が痛い。
一緒にこの異世界に連れてこられた人達ですら、俺のステータスに呆れ果てていた。
決してゲーマーではない俺にだって、このステータスが最弱だとわかるのだ。
家庭用ゲーム機で遊んだ世代やアプリゲームを普段からやっている人なら、一目瞭然のことだろう。
「能力値が最悪なうえに、職業は空欄。しかもスキル無しとは。呆れるのを通り越して、怒りさえわいてくる!」
パウル四世の言葉に一瞬、耳を疑った。
「いやいやいや、職業はちゃんとあるし。ほらセーブポインターって……」
俺は拡大された方のステータス画面を仰ぎ見て絶句した。
職業欄とスキル欄が空欄になっていたのだ。
「おい、この者を城外につまみ出せ。見ているだけで不愉快だ」
パウル四世の指示で、二人の兵士が近づいて来た。
俺は両脇を抱え上げられ、室外へと連れ出されてしまった。
「うむ。偉大なる女神リーザによって、導かれし九人の勇者たちよ。我らはそなたらを大事な客人として歓待させてもらうぞ。まずは宴の準備ができておるゆえ、今宵はしっかりと英気を養ってほしい」
つまみだされるその背後で、パウル四世の高らかな声が虚しく聞こえてきた。
どうやら俺の存在は無かったことされたらしい。
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