賢い者にも見えなかった服

むかしむかし、あるところに一人の王様がおりました。


王様の国は決して裕福ではありませんでしたが、人々はよく働き、王様も人々のためによくしておりました。


隣の国の王様は、そうした姿が気に入らず、ひとつ恥をかかせてやろうと、仕立て屋を呼びました。

「仕立て屋よ、近々隣国の王たちと会合を開く。その時にあの国の王に恥をかかせてやりたいのだ」

仕立て屋と大臣は隣国の王の元に赴き、賢い人だけが見える服を仕立てたと、王様に献上しました。

王様には全くその服が見えなかったのですが、仕立て屋がうんちくを聞かせ、大臣がこれほど素晴らしいと褒めたたえるので、見えないのは自分が愚かであるからと思い込みました。

そして隣国の大臣が「これほど素晴らしい服ですから、ぜひ会合で他国の王にも披露してはくれまいか」とあまりに熱心に頼むので、王様はついに頷いてしまいました。


さて仕立て屋と隣国の大臣は、さらに町中に「賢い人だけが見える服」の話を広めました。王様が会合に向かう日、一目見ようと町の人々は通りに集まったのですが、王様は裸だったので驚きました。

それでもきっと王様には見えているのだろうと、口々に褒めました。


そんな中、一人の子どもが声を上げました。

「なんてことだ、王様は裸だ!」


子どもは自分が着ていた布切れを母親に差し出し、王様に付けてくれと言いました。

それを見た人々も、着ていた服やハンカチを差し出し、王様が国を出るころにはツギハギではありましたが、一着の服が出来上がっていました。


各国の王様や貴族が集まる会合に、無様なツギハギの服で参上した王様を皆が笑いましたが、王様が「これはバカには見えない服なのだ。私がこうしてここに立てているのは民衆がその身を削り、バカと思われても構わず仕立ててくれた服なのだ」と言うと、誰も笑いませんでした。


それからも王様は民衆と、そして心を入れ替えた各国の王と協力していったのです。

おしまい。

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