第三話 風獅
数年前。ある凄惨な事件に巻き込まれ殺されたという、仙に限りなく近いとされた道士の夫婦がいた。その事件で唯一生き残った、彼らの息子である
そこまでする必要があったのかと問われれば、理由は単純だった。お互いの親が昔からの友人同士という縁があったから。
夫婦が研究していたとされる未完成の煉丹術や符術は、幼い頃から才能を開花させていた
周りから何と呼ばれていようと気にしない
「
長い黒髪を低い位置で結んで銀筒状の髪飾りで纏め、白い道袍に藍色の細い飾り帯をし、風を表す紋様が背に描かれた若草色の衣をその上に纏っている。古の時代、ある神仙によって五人の道士に与えられたという、この世に五本しかない特別な退魔剣のひとつ、『風雅剣』の継承者でもある。
先に腰掛けた
座りなさい、という合図で同時に拱手礼を止め、
「そんなに問題児だったんですか、彼は?」
半分冗談交じりで
「彼の実力は君も見ただろう? 元々違う流派というか、
半年前のあの妖魔討伐の際に同行していたという、
その時は名前も知らなかったわけだが、全体の戦況を見ていた
話を聞けば、自分は退魔師なので道士になる必要はなく、そもそもこの門派に弟子入りする気もない、とのことだった。
それはある意味
彼がここに来たということは、任務の依頼だろうと予測がつく。
丁度、新しく作った符の効力を試したいと思っていたので、良い機会だと
「さて、本題に入ろうか。あまり大勢で赴くには目立つため、
「なるべく少数で、ということは、今回の任務は潜入が必要なのです?」
「本当に君は話が早くて助かる。実は····、」
「
失踪となれば、一概に妖魔や怪異の仕業とは決めつけられない。しかし、わざわざ
「賊、の可能性は低いというわけですね」
「そういうことだ。通常、妖魔がひとを攫って喰らえばその痕跡が必ず残る。それが一切ないということは、かなり知的で危険な存在といえよう」
妖魔は基本的に下級中級上級の三段階で格付けされているが、魔族に近い存在、本能だけで動かない知的で能力も高い妖魔が稀に存在する。
「まさか、特級の妖魔?」
確かにそうなれば
「その証拠集めが今回の任務ということですか。そんなに暢気に構えていて大丈夫なんです?」
「
「······ちょっと待ってください。あなた一応、私の弟子ですよね? 今呼び捨てにしませんでした?」
「別にいいだろう? 弟子入りはしたが、そっちは何も教える気がないんだし。俺も直接的に教えを乞う気がない。間接的に学ぶ事はそれなりにありそうだがな。相部屋から解放されたのは感謝している」
は? と
そのためだけにあの半年間、毎日ここに通い、自分に頭を下げたというのだろうか。
それで彼が得たものは、道士たちとの共同生活と身の入らない修練からの解放。そしてこの別棟に仕方なく用意してやった、彼の部屋だと?
「
はは····と
なぜならそういう
「さっき彼が言っていただろう? 君を見て学ぶ事はありそうだ、と。彼も君と同じで色々と事情があってね。広い心で、もう少し様子を見てあげてくれると助かる」
「····まあ、あなたがそういうのなら、考えてやらなくもない、です」
先程の言葉をなるべく良い方へ解釈し、同情心も持たせつつ、
「
「····
よろしい、と素直に従うふたりを交互に見つめ、
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