第26話 IciaException

「ユキ、どうだ? 学園での初日は?」


「「「っっっ……!!」」」


「やっぱりあいつだ」

「イクリプス様があいつに話しかけている」

「しかもなんか心なしかかなり親しげじゃないか?」


(……な、なんなんだこれーー!! めちゃくちゃ気まずいじゃないかーー!! え? アイシャ様ってこんななの? ここってほぼほぼどこかの貴族が集められてる学園なんだよね? その中で、この扱いって……何がどうなってるんだ!?)


 ユキは最近まで研究開発室で、敬語は崩さないまでも、割と普通に接していたり、なんなら二人きりで話したり、更に言うと、寝落ちしてたり、パンツ見えそうになっていたアイシャが、まるで有名人かアイドルであるかのように、貴族たちから扱われていることに大分、動揺していた。


「大丈夫か? すごい汗だが……そんなに緊張したのか? そうだよな……新しい環境だもんな……」


 アイシャはなんか違う心配をしている。

 いや、全く違うわけではない。実際、さっきまでの授業では、ユキは結構、嫌な思いもした。

 だが、今はそれよりも違う意味でまずいような気がしていた。


(と、とりあえず……なんか返事しないと……)


「あ、えーと……まぁ、おかげ様でなんとか……」


「おー、そうか……よかった……半ば強制的にしてしまったからな。少し心配していたのだ」


「半ばじゃなくて、ほぼ100%強制的だったでしょ……!」


(あ……やべ……)


 ユキはアイシャの天然なのか冗談なのかわからない理不尽発言に、つい本音で突っ込んでしまう。


「お、おい……あいつやべえぞ。イクリプス様に口ごたえしてるぞ」

「しかもため口きいてるぞ」

「やばい……殺されてもおかしくないぞ……」


(あーーー、そういう感じ? ダメだ、これ……もう色んな意味で終了です)


 ユキは学園生活、あるいは第二の人生の終了を確信していたが……


「確かにそうだな。申し訳ない。だが、どうしてもそうしたかったのだ……許してくれ」


「あ、アイシャ様が逆にあいつに許しを請うているだと……?」

「ダメだ……理解が全く追いつかない……」


(あぁ……どんどん裏目にぃ……)


「だが、もし何か、困ることがあれば、いつでも私に言ってくれ。できることには限界もあるが、私にできることであれば、なんでも協力する」


「あ、ありがとう……ございます」


「うむ。では、また研究開発室で会おう」


 そう言うと、アイシャは颯爽さっそうと去っていくのであった。


「「「「「……………………」」」」」


 残された1年1組の生徒たちは一瞬、呆然と立ち尽くす。


 そして……


「あの……リバイスくん、なんかさっきの授業……ごめんね……」

「すみません……本当……無学な自分が恥ずかしいです」

「申し訳ない、不徳の致すところでした。あと、今度、アイシャ様のサインもらえないかな……弟がファンで……」


 世渡りがうまそうな調子いい奴が何人か謝ってきたり、ついでになんか、ねだってきたりしていた。


「あ……うん……別にそんなに気にしてないから……」


(……アイシャ様にファンとかいるの? やっぱりアイドルか何かなのでしょうか……?)


 ユキも別にまだクラスの誰が誰だかもわかっていない状態だったので、特定の誰かを恨んだりはしていなかった。


 それはそれとして……先のアイシャ様襲来により、ユキの穏やかライフゲージはごっそり削られた気がした。


 ◇


 昼休み――


 ユキはクラスの端っこで一人、昼食を食べていた。

 なぜクラスの端っこかというと、元々、彼の座席が窓際の一番後ろ……要するにクラスの端っこの席だからだ。


 しばらくするとオーエスがクラスに帰ってきたので、一緒に昼食を食べた…………というか食べていたのはユキだけだった。

 オーエスは昼食を食べないらしい。

 そんなんだから、少しやつれた感じになるのでは……? とユキは思ったが、口に出すのはやめておいた。


 その後、オーエスがいない間に、アイシャ様が来ていたことを話すと、オーエスはかなり驚いていた。

 今まで、アイシャがクラスに足を運んだことはなかったそうだ。

 オーエスもいたから、それは少し意外であった。


 昼食を食べている間、周囲では、自分の話がされているような気はした。

 別に聞き耳を立てていたわけではないが、多少、耳には入ってくる。


 話の内容は、だいたい

「あの子は一体、誰なのか?」というそもそもの話、

「アイシャとどういう関係なのか?」というアイシャとの関係性の話、

「あの子自体が別にすごいわけではないのでは?」という冷静な話、

 の三つに大別されている感じがした。


 ユキも三つ目に関しては、まさにごもっともという感じがしていた。

 仮にアイシャで知り合いであることがすごいことであったとしても、自身が補助具なしでは魔法を発動できない〝魔生成不可者〟であるという事実に変化はないのだから。


 そんなことを思いつつも、その後の午後の授業は、ひとまずは大きな問題なく過ごすことができた。


 ◇


 放課後――


 学活が終わり、生徒たちはカリキュラムから解放される。


 と……


「リバイスくん、部活とか決めてるの?」


 早速、快活そうな男子生徒が声をかけてくる。


 アイシャとのコネクション目的……であるかないかは定かではない。


 だが、それがあったとしても、なかったとしても大きな違いはなかった。


「あー、悪いな。ユキくんはすでに決まってる」


「ん? ひょっとして、オーエスのところ? お前が何やってるのか知らんけど」


「そうそう。だから、諦めるこった」


「ちぇっ、先を越されたか。わーかったよ」


 そう言って、快活そうな男子生徒は、さっさと諦めて去っていく。


「よし、それじゃあ、ユキ、行こうか」


「あぁ……」

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