第4話 守護者のいる理由 または呪われた理由

「あれの片割れが亡くなっただと?」

「もう片割れも気狂いに?」


「では、今回は守護者は現れなかったのか」

「聞いてないな」

「なんだと! では此方に漏れがあったのか?」


「いや、病死らしい」

「あちらも手には入れられなかったと」




『それどころでは、ない。契約は破られた』


 どこからか声が降ってくる。


『我との契約もこれで終わる』



「何故です? 我等との契約はあちらとは関係ないはず」



『何を言ってる。我との契約はあれの確保だろうが。やつはすでに異界に沈んだぞ』


「な! そんなわけはないっ。ルミネリアの#精神__こころ__#は囚われるようになっていたはずだ」


『諦めたのであろう? さて、我もいくとするか。ああ、返しは気にするな。ちゃんとお前らに行き着くようにしてある』





 ルミネリアはもともと巫女であった。苦しむ民衆を助けんとし、自ら神の御許に赴いた。しかしそこに#存在__い__#たのは神ではなく、守護者と呼ばれるものであった。守護者は数人で屯っており、水鏡にて現世で遊んでいる状態だ。

 ルミネリアは守護者たちに戦乱と混乱と飢餓に苦しむ民衆への癒しを願った。


 一人の守護者が言った。

「お前に何ができるのだ? お前はその依頼に対して何を差し出せるのだ?」


 一人の守護者が言った。

「世の中を今収めたとして、何になるのだ? すぐにまた混乱の種は出てくるぞ?」


一人の守護者が言った。


「世を収めたいと思っているのは、お前ただ一人ではないか。他に誰が望むというのか」



 ルミネリアは答えた。

「わたくしの心を差し出します。歪みや妬み嫉みをこの身にすべて受けましょう。何度でも転生しこの身に封じましょう」



「たったそれだけか? 代償にしてはやけに軽いな」

「ふぅん。面白い。歪みを受け入れるんだ」

「足りないな。歪みを受け入れるだけの器が足りない」

「どの家に治めさせるのだ?」

「そうだな、いまのところまともなのはスルーイ家だけか……」

「スルーイだと? もう一家欲しいな。できれば二家な?」

 

 人間が自ら#実験台__おもちゃ__#になると宣言するなら、それはそれで面白そうだと守護者たちは考えた。


 ルミネリアには一度戻るようにいい、人身御供を受け入れるものをあと二人探させる事にした。

 ルミネリアは家に戻り、両親、兄弟姉妹に相談をした。



 家の者は誰もが反対した。しかし、領地領民を考え泣く泣く受け入れたのだった。

 どこまでも、反対をしたのは婚約者と見なされていた男だった。そして、ルミネリアの乳姉妹にあたる侍女だった。


 二人は反対をしていたが、やがて諦め共に人身御供になるといいだしたのだ。

 三人ならば心強いとルミネリアと共に守護者のもとに下った。



 また守護者たちも、世界を安定させたいと願うなら、纏める王家を作り出す事にした。


 王家として【スルーイ家】がたち、宰相家として【イズール家】が、神家として【サルーム家】がたつことにした。


 守護者たちは、人身御供の三人とスルーイ、サルーム、イズールの三家を呼び出した。



 契約の日、ルミネリアは男から本当は結婚を申し込むつもりだったと聞かされた。君のいない世界では生きていかれないと。男の気持ちを聞いて嬉しく感じたルミネリアであったが、自分はすでに神にいや、守護者に命を捧げた事を告げた。

 そして、侍女もまた一生そばにいるつもりだったと。



 すべてを見ていたある守護者が提案してきた。

『一生そばにいるならいればいい。そのようにしよう』

『では我は見届け人となろう』

『我は契約を司ろう。すべては、守護をこの国に与える。もし、破る事がないように』



 ルミネリアは一人の守護者と契約をした。この身をささげると。

 男は傍できいていた。侍女もただ聞いていた。



 ルミネリアたち三人が守護者の作った【眠りの氷室】にはいっていく。



 守護者たちは三家を呼び出した。

 事情をきき困惑した。確かに繋がりのある家の娘ではあった。降下した王妹の娘である。


 三家はルミネリアと男の家を公爵家として陞爵させる事にした。守護者からもたらされる平和と安寧は国の安定と共に自分達の栄華を確かにするものだったからだ。


 数年がすぎ、公爵家に新しいルミネリアが産まれた。同時期にもう1つの公爵家には男の子が産まれた。

 それから十と数年が過ぎ、二人は結婚をする。そしてルミネリアは強盗に殺され…… ループは始まった。



 守護者の条件は以下の通りだった。


 一人は『ルミネリアと男との間に子ができるか、それ自体を諦めるまで』

 一人は『ルミネリアと男と侍女の間の絆が完全に失せるまで』


 最後の一人は『守護者が全員かける事なくこの世界にいること』



 王家は最初こそ新しいルミネリアが子を設け幸せになることを望んだが、それもせいぜい二代までだった。

 のちに、王家はルミネリアが結婚をすると同時に暗部を使い始めた。

 何故なら、守護者の力により王家は護られたから。


 最低限のルミネリアの結婚は王により定められ、次第に魂は疲弊していく。





『三つの契約は既に終わりを告げた。ルミネリアは契約を破棄した。それは彼女自身が結んだ契約。二つ目はルミネリアは子供も諦めた。三つ目は守護者がすでに異界へと旅立った。全員が揃っていないのは契約違反として守護者から破棄された』


 国全体に、声が響き渡った。




 数百年続いた王国が、混乱のもとに沈んだのはそれから三日後のことであった。



 この契約はある種、呪いであった。

 なぜなら、守護者との契約は三人の生まれ変わりには記憶されていなかったからである。

 もう一つ、代を重ねるにおいてサルームの外の家に侍女の魂が引き継がれたからである。ひっそりと掛けられた罠がそこにはあった。

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これで、プロローグというかルミネリアが世界を諦めて、異世界に旅立つまでの不幸な人生は終わりです。


次から一章が始まります。

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