第93話 しやぼん玉 🫧



春眠をさめてすこしく拍子抜け

春眠の彼方になにか見えてをり


アネモネや睫毛の長き白き犬

黒犬や忘れな草をけちらして


空若し恋のはじめのしやぼん玉

しやぼん玉いびつな円を大空へ


誰もゐぬ団地の庭の風車

老幹の洞でかすかに風車


いもうとの背を押す姉や半仙戯

鞦韆にわが影のせてやりにけり


風船のひも握る手の幼くて

風船や駅の階段くだりゆく


江戸期より潤す堰やつくし摘む

ふくろふの置物の前よもぎ摘む


踏青やこのおほ空をひとり占め

春日野に春も馬酔木も咲き誇る


遠山の空に溶け入りあたたけし

かがやけるまちや野山や春の昼


鶯菜やさしくあらふボールかな

もの置かぬ床のつやつや春の宵




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